Lingering Goats XXV カザンタ州難民キャンプ 二 | ひっぴーな日記

ひっぴーな日記

よくわからないことを書いてます

時が止まる
































「みなみと圭輔クン仲良くやってるかなあ。言いだしっぺはわたしだけどさすがに無理あったかなあ……」
 見渡す限りの草原。永遠続くようにどこまでもに見える草原は雑草が生え揃った道路をあるているとどこか日本ではなく外国の田舎道を思わせる。ところどこに樹木と木々に覆われた家屋や看板、自動販売機などがあり、昔はここに人がいたという証が辛うじて見て取れる。
 草原は難民キャンプの金網のゲートから一辺して同じく樹木で荒れ放題になったビル街にがらりと変わっていた。ビル街は遠くの港まで続いてさらにそこからすっぱり円状に同じように草原が続いている。まるで金網の内部はそのままで、外側は時間の経過で何もかもが過ぎていった錯角さえある。
 そんな時間の経過と、時間の停滞の境界に常葉まなみが仁王立ちしていた。
 遮る物がなくて吹き付けてくる風がそのままストレートに落とした黒髪が風に流れる。
「……でもこれはないんじゃないかなぁ」
 まなみは自分の恰好をそのまま見る。辛うじてスニーカーに八分丈のジーンズ、上はレイヤードのキャミソールとまぁ……、どう考えてもこれからあまり穏やかではない話し合いをしにいく恰好ではない。ていうかこれは逆に挑発しちゃってるんじゃないのか。行きがけにあれやこれやと原田にまた、着せ替え人形の如くとっかえひっかえして一億歩譲ってこの恰好に収まったのだ。
「いや、やっぱり女性は輝いていないとねどんな時も。まあみなみも美しいからどうしたものやら」
 とかなんとかやれやれと呟く彼女はどうやら本局ではなくメガフロートのどこかの支庁で徹夜で話し合いをしてきたらしくて軽くふらふら。ほほえましい限りにいつもより何倍も一人ごとが多くてみなみさえ少し引いていた。
 ……しかし何の話し合いをしてきたのだろう。話し合いとかいってあの人だと結局飲み会のようなノリなのかもしれない。
 あれから明けて四月二十一日水曜日、正午前。

 水曜日。

 平日。

「学校、あるんだけどなぁ……」
 こんなときにさえ学校なんてことを考えてしまうのは、学生とかそんなところのプライドがあるからなのかとかまなみは両腕を組んでぶつぶつと呟く。
 両腕には人外無比の時津彫教官からもらったアルバの両輪。外見は奇妙な模様が入った銀色の細いリストバンド。話には少し聞いたが教官の前の人がつくったものでオメガの方輪というものがあったらしい。アルバにオメガ。随分と先人はクリスチャンな人だったんだろうな、なんてどうでもいい感想をもったけど。
 いい加減藤香さんのような真似をやめていい加減ゲートをくぐろうと少し光り輝く金網のゲートに近づいていく。

 気分が更に乗らないことに上は曇り空だった。



 昨日、いや、今日、深夜の東南作戦支局で作戦を言い出したのはまなみ本人であり、それを実行にうつそうとしたのも彼女。それに関して隣で聞いていた隆輔は反対するとおもっていたのが逆に驚いた様子だった。

「お前……随分と変わったな」

 というのが彼の感想で、変わったというのはいつもの「変わってる」という意味なのか、変わってるものから「変わった」という意味なのか少し判別しがたかったけどとりあえず全容をその場で大よそ言った。言った次に電話で圭輔に連絡を取り、辞めるべきだとかなんとか冷静に止められ、地下一階にいたみなみと相談。
 みなみはどうやら学校の帰りのまま駆けつけてきたらしく、すでに風邪身の姿はなかった。ブレザーの学生服のままで遭うなり抱きしめてくれたけど、作戦の内容を聞くと圭輔の反発よりも今度は心配された。みなみはまなみが危ないから辞めるべきだと叫ぶくらいに反対した。
 どうして反対するのかわからなかったけれど、どうやらまなみが一人で行くというところが反対するところなのだろう。まったく可笑しな話。心配するのはこの作戦で危険になるみなみ達であり、こちらが心配するほうだとういのにされるほうになるとは思わなかった。
 それほどやはりみなみは未だに純粋っぽさを残しているのかなんてみなみは微笑ましく思ったが、

「……もしかして、ヤバイ? 見えた?」

「あ、それは違う、うん。こればっかりはなぜか見れなかったの」

 というわけで最悪の事態というか、先を見通すことができるのに見れないとうものなんだか不安最絶頂であるけれども、今回においてはあくまで話し合いであり、一応武装はしていくけども何事もなければそれでお仕舞い。あっちがどうでるかは本当に賭けだが、それも賭けに値するものだ。
 こんなやけっぱちのような作戦なのに何故か籐香さんは反対もせずにゴーサインをだしてくれた。どうやらまたなにやら上のほうで話し合っていたみたいだけど結局はバックアップとチーム編成はこちらの指示に従うことを条件にすきにすればいいとのこと。
 そしてそのチームなんだけれども。まなみ一人、東南にいる廉火の達意と隆輔、圭輔とみなみの前衛三チームだけがキャンプ内部へ、外部は副都心の素連の基地上から第三師団の戦闘航空隊十部隊に東南作戦支局から監視一、二、三課、特殊実働隊七部隊、海は演習の前準備とかこつけて大島湾沿いに戦艦五隻が待機しているとか、なんでもうまた、籐香さんって戦争好きだなあ、なんてまなみは概要を聞かされたときはげんなりしたがもっとげんなりしたのが隆輔の反応だった。

「お前が一人で行くのは絶対反対だ」

 作戦がもう決まって上に戦闘ヘリ、海にイージス艦が並んじゃってますよってときになってもずっと言い続けた。
「別段失敗するとかそういうことを考えてるわけじゃなくて……、なんていうかお前って危ないんだよ」
 よく意味がわからない隆輔の言葉にすこし眉根を寄せる。
「危ないって、つまりなにが?」
 そのときは確か出発駅構内にいたが、周りは閑散としていた。まなみはすこし怒るように声を張った。前もそうだが素体ということだけで同情されるのは嫌だし、失敗しているからと言ってまた保護対象のように見られるのは更に嫌だ。
「そうだな……」
 困ってる風でもなく、迷っている風でもない。どうやったら自分の考えを伝えられるかという純粋な態度に見えた。
「まなみは何も考えずに行動するように見えるけど、実はそこには理由があるとおもうんだ。お前の行動一つ一つに全て理由がある。さらにその行動は未来を変える力があるような気がする。みなみさんのこともあるし、そんな人が目的を完了させるために行動したら、その、ヤバイなってさ」
 随分と彼にしては曖昧な言い方だった。曲がりなりにも温和で圭輔とは別個の性格でいた彼だからこそこの場合は一人でいっちゃ危険だとかなんとかそんな無難な答え方でもすると思った。まなみはロングの落とした髪を揺らして、今度は不思議そうに聞き返す。
「その理由って何よ?」
「自分を破壊したい衝動」
 即答されてまなみは黙る。――それは、つまり自分で自分を壊す、ということか。
「……それはないわね」
「なんで?」
「私は日常が好きだもん。朝起きたとき晴れてるだけで気分がいいしね。そんなたいそうな理由もっちゃいないって」
 まなみの普段の空が好きだのと聞かされてきた彼は少し迷うように表情を動かし、
「ん、いや、ま、なんつーか、壊す、そして直すって感じだと思うんだ。よくわからんわ、すまん」
 そういって曖昧に笑うと隆輔は駅構内から出て行った。
「絶対付いてきちゃダメだからね! 私一人でやるんだから!」
 もう見えなくなりそうな彼の背中にそう叫ぶと隆輔は軽く手を振って返した。




 彼が言っていたのは破壊衝動。それも周りに向けてじゃなくて自分に向けてということ。それじゃまるで、自殺だ。

 じゃあ、私は死にたいということなのか。

「そりゃないな」

 まなみは薄く笑って難民キャンプの内部を見渡した。緑の深い樹木で覆われ、すでに木々によってコンクリートが貫かれた高層ビル群が立ち並ぶ過去の都市。昔は自分のような高校生がこのへんを歩いていたのだろう、なんてそんなことをおもっても楽しく感じるんだから、やっぱりない――

 だからかもしれない。

 多分昔から今の自分に不安を持ってきた私は周りに惹かれて過去に羨望してきたのかもしれない。過去に戻りたいって。自分がそういう体だってしってからは更にそれが強くなって、だから過去に憧れる。少し見える未来は面白くない。
 私が好きだと思うものは全て破壊する理由のために思っていたのか。今の自分じゃなく過去に戻りたいから現在の物を壊して直す。そうすれば新しいものが出来るとまたイチからやり直しが、効く。

 それじゃまるで、過去に恋してるみたいだ。

「……アホらし」

 まなみはぼんやりを思索していた頭を少し振る。壊してもなんの意味もない。目に映るものを破壊してもただ悲しいだけ。それは分かっている。でももしさっきのようなことを普段の私が行動していたら隆輔が言う危ないというのもわかる。だけどそれはありえないだろう。
 なんだか考えすぎてよくわからない方向に行きそうだったので腕時計を見た。十三時十八分。
 遅刻してくるとは相手さんもいい度胸している。
「これから大事な時だっていうのに、あんまり考え事はしないほうが本当にいいわ」
 これからのことを考えると自分の過去だの未来だの考えてる余裕はない。
 目の前に広がる荒れたアスファルトに歩道、看板に道路標識。すべてが緑の侵食されて、ゆっくりと消えていこうとしている。
 四車線の道路の中心で仁王立ちしていたまなみは金網のゲートからはなれるように歩道に移動すると、自動販売機があった。
 おかしい。なぜなら『目の前の自動販売機は新品だったから』だ。
「あー……今日はあんまり良いお天気じゃないですー……ね?」
 困惑しているとすぐ横から話しかけられた。





























 long awaited facts.