ボートを漕いだ事がある。

もう15年くらい前の話だ。思いっきり郊外に遠出のドライブに出かけて、確か河口湖だった気がする。いや、でももともとは「富士急ハイランド」に行くつもりだったかな?

途中で雨が降り出したのだ。そこそこ降ってたし、これじゃぁ遊園地はちょっと・・・ってな気分になり予定を変更して、適当にクルマを転がした。

「あっ!これって河口湖?」

「・・・なんかそうみたい・・・おっ・・・ボートだ!ちょっと行ってみようか」

売店があって、フランクフルトやらタコ焼きやら、なんか売っていた。

「タコ焼き食べる?」

「うん食べる・・・青のりはパスでよろしく」

「うん。俺もそれはパス」

運転していた時と違って雨はたいしたことなかった。当たりに行ってたという事か?

それとも小止みになったのか?それでもやっぱり雨はあったから、屋根つきのベンチに二人で座って水面を見てた。これが河口湖なのか?そんな風に思いながら、こりゃぁ河口湖近くの池かも?などと思った。遊具がちらほら見えて、公園があるようだ。売店には「釣りエサあります」と書かれていて、近くに釣堀がある様子。僕はボートを見つけた

「ボートに乗ろう!」

「いいけど・・・タコ焼きは?」

「俺、ネコ舌だから」


初めての経験。なんか曲がって進む。いつまでも岸の近くでおたおたしているのはみっともないから力まかせに漕いだ。お~!進んだ・・・って・・・あれ、戻ってるじゃん!ブーメランか?

そのうち慣れてきた。右と左のバランスをとって、コブシに力を込める。水面を渡ってくる風が頬をなで、パシャッという水音が耳に心地良かった。

彼女は遠くのどこかを見やったまま、頬張ったタコ焼きをせわしなく転がしてた。


あれが最初で、でもそれ以来僕がボートを漕ぐ機会はない。たぶん今後もないだろう。最初で最後。それなのに、僕は時々あの日の事を思い出す


ボートって、後ろ向きに進むのだ。それがちょっと気に入ってる。


背中を向けたまま、コブシをしっかり握り締めて腹に力を込める。推進の源は自分の中に漲っている。でも後ろ向き。左右のバランスに気を配りつつ、時折後ろ(進行方向)を確かめる。あるいは過ぎ行く風景を参考にする。「よし。ちゃんと行けてる!」

疲れた顔をすると、そこで彼女が応援してくれる。「頑張って!!」


白い歯がこぼれた。青のりは抜いてもらって正解だった。