Red Pepper's House
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白いドアと赤いポット

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2005/1/18
鉛筆・紙・40.5×32�

枯れた鶏頭

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2004/1/27
鉛筆・紙・40.5×32�

新しい靴

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2005/2/21
鉛筆・紙・38×45�

赤いジャケット-昼

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2006/7/25?
鉛筆・紙・35×25�

赤いジャケット

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2006/8/1?
鉛筆・紙・35×25�

洗濯物

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2006/8/8ごろ
紙・鉛筆・25�×35�

2006/09/12

香水瓶の影法師 最終話

 彼の瞳の焦点が一瞬ぼやけ、言葉にならない唸り声が喉から漏れる。彼の腕に鈍く滲む血液を横目に、私は、踵を返すと、夢中で駆けた。周りの人々も、車も、建物も、石ころも、何もかも見分けが付かず、脳炎を起こしたような、朦朧さのなかを、走り抜けた。
 やがて本当に、それら周囲のものは、混じり合い、解け合って、どろどろとしたマーブル模様を描きだす、その鬱陶しい、暑苦しい、息のできぬなかを、這うように、もがくように、スローモーションで泳いでいく。
 いつか、私が漂うのは、暗赤紫色の唐草模様と金箔の溶けだした、砂金色の海へと変わっていた。
 もう少し行けば、ガラスの壁があるに違いないのだ。


モスク


香水瓶の影法師 第三夜

 悲鳴をあげようとしたけれど、喉と口腔がこわばり、干ばつの土のように乾いて、声も出ない。逃げなければならない。逃げなければ。しかし、神経のことごとくが切断されでもしたのか、意志が通わないのである。指一本、瞼さえ、にわかに、私との関係が失われてしまった。1ミリメートルも動かすことが出来ない。
 こんなところへ来るのではなかった。彼の商人の、狡く光る暗い瞳は、いよいよ暗く、いよいよ深く、私を引きずり込もうと渦巻いている。
 紺色のガラブリアがじりじりと近づいてくる。
 私は、握りしめられている手首の先に意識を集め、渾身の力をこめて指先を揃えると、五本の爪を真っ直ぐに突き立てた。

ミナレット

香水瓶の影法師 第二夜

 彼はガラブリア売り。靴墨を塗ったような焦げ茶色の肌、太い腕、汚れた爪のついた分厚い手、濃い眉、濃い髭、濃い髪、窪んだ眼窩の底に暗く光る、狡そうな、逞しそうな瞳。私に向かって語りかけられる、大きな声、わけの分からない言葉、派手な身振り。
 彼の瞳は、暑さと埃とで、ねとつくような、どろどろした空気をかき混ぜる。
 一枚のガラブリアが、私の目の前に広げられた。真っ白な綿の、切り込みの入った衿と袖口の周りに細かい装飾刺しゅうの施された。白は、太陽の光と、埃を湛えて、心なしか黄金色に輝いて見えた。
 ふっと、呼吸が楽になった錯覚を覚える。
 ひらり、ひらり。一枚、また一枚。ブルー、パープル、サファイア、チョコレート、ガーネット、クリーム。
 まるで、数知れぬ、種々の鳥の羽が、空から舞い降りる中に、佇むかのように。
 私は無意識に腕を伸ばし、ひときわ美しい、そこだけ沈んだような暗赤紫色の襞に、指を触れたその時、手首に暑苦しい湿度と痛みを感じたのは、埃と汗のしみ込んだ、木の皮の如き掌で、みっちりと掴みとられていたのだった。
 彼の手に握られた私の五本の指は、あたかも、力なく折り取られた野の草のように、ぐったりと萎れていた。


幾何学文様