ディオン・サンダース | picture of player

ディオン・サンダース

ディオン・サンダース (Deion Sanders 1967/9/8)
■アメフト/野球
■CB/PR/WR/外野手



「優勝請負人」「二足のわらじを履く男」「ネオン・ ディオン」「プライムタイム」…
肩書きのやたらと多い男だった。
その中でも一番有名なニックネームは「プライムタイム」だろうか。
派手な言動、派手な服装、派手なプレイ、まさにその名前が似合う、きらびやかな選手だった。


ディオンがアメフトと野球の二足のわらじを履いていたことは、非常に有名だ。
またアメフトの中でもポジションを3つもこなし、最終的に何足のわらじを履いていたのかよくわからない。
もし娘がこういう男と結婚しようとしたら、私は絶対に止める。


野球のほうはあまり見たことがないので、何とも言えない。
成績だけ見ると、盗塁と守備以外はぱっとない選手だったようだ。
ただ、アメフトのスーパーボウルに出場した選手で、唯一ワールドシリーズに出たことのある選手でもある。


二足のわらじを履いていたと言っても、やはり輝かしいのはアメフトでのキャリアのほうだ。
2度のスーパーボウル優勝、最優秀守備選手1回、プロボウル選出8回。
CBもしくはPRとしては最高級の選手という評価を受けていた。


そのうち、PRとしては文句なしの能力を誇っていた。
システマティックなアメフトにおいて、リターナー、特にパントのリターナーは、個々人の即興が大きなウェイトを占める唯一のポジションである。
ディオンはその常軌を逸したルートの取り方と抜群のスピードで、しばしばカバーチームをぶち破った。
彼にとっては天職だったと言えるだろう。


しかし、CBとして優秀だったかと言われると、賛否両論だ。
とにかくディオンはタックルが下手だという評判だった。
私もそれには賛成する。
何度か見たことがあるが、そりゃあ、もうひどいものだった。
「こいつ目つぶってやってんじゃねえの」というくらい的外れ&へっぴり腰のタックルで、見ていた私の腰はへなへなと抜け、当時付き合っていた彼女に振られ、おまけにドラクエのセーブデータが消えた。
どうしてくれる。勇者「しめおね」を返せ。
まあ、それくらいにひどい。
ちょっと気合の入ったQBの方が、絶対にいいタックルをする。ブレット・ファーヴとか。


蛇足ながら付け加えると、CBというポジションは相手のパスレシーバーをカバーするのが役目である。
前まではマンツーマンが主流だったが、最近ではゾーンの守り方も結構導入されている。
ゾーンにせよマンツーマンにせよ、重要なのは、「縦に抜かれる」or「タックルミス」が致命傷になりかねないということだ。
場合によっては一発のパスでタッチダウン、というのもよくある。
だから、CBにとっては、パスを取らせないことも重要だが、その後のアフターケア、つまりパスが通った後に確実に仕留めるタックルというのが、非常に重要になってくる。
要するに、ラブホテルに誘って断られた後に、そのまま切れて帰らせるか、お茶を飲んで談笑するかというようなものだ。(この比喩はフィクションです)
現に、優秀なCBはほぼ確実にタックルがうまい。
さらに言えば、プロレベルになると、CBだけでなくDFの選手全般にとって、タックルはほぼ必須の能力だ。


だからと言って、ディオンは下手なCBであったと言うつもりはない。
なぜなら、彼は別の方法をとったからだ。
タックルが下手なディオン・サンダースがどうやってプロボウルまでに登り詰めたか。
普通の人間だったら、タックルが下手→死ぬほど練習→タックル上手になる、という段階を踏むと思う。
しかし、ディオンはさすがにプライムタイム。
やることが違う。
彼の場合は、
タックルが下手→タックルするような状況に絶対にさせない→絶対にパス通させない
というパントリターン並の常軌を逸した思考ルートになってしまう。


「城主!敵方は2万の大軍!」
「うーん、片目つぶってみ?」
「あ!1万に減った!」


根本的な解決になってないところがミソである。
しかし、それでなんとかしてしまったところがディオンのすごいところである。
徹底したマンツーマンディフェンスで相手のエースを封じるだけでなく、わざと相手から離れ、空いてると思って投げられたパスをインターセプトするという漫画みたいなプレイまでも行っていた。
おかげで、インターセプトされる確率が高いので、相手QBがそもそもパスを投げない、ということになる。(おかげで逆サイドは好評炎上中、ということはよくあったが)
彼がマークするサイドは「ディオンサイド」と呼ばれる聖域になった。
試合中に完全な静寂が訪れる不思議な空間だったことを憶えている。
しかし、相手エースを完全に「消す」ことには成功していた。
NFL史上で最も卓越したエースキラーだったことは間違いない。


そもそもの弱点を克服することなく、スーパースターにのし上がったディオンの武器はその気違い地味た発想だった。
そんなディオンにぴったりの映画はこちら。


『フィツカラルド/ヴェルナー・ヘルツォーク』


「船が通れないなら、船で山越えちゃえばいいじゃん。」という映画である。
リアル船頭多くして船山登る。
常識で通用しないなら、非常識で勝負。
それがどんなに無謀でも、やってみる価値はある。
ディオンはそれを身をもって体現した選手だ。
ちなみに、監督ヘルツォーク、主演クラウス・キンスキーともに掛け値なしの狂人である。


意外なことに、ディオンはまだ現役だ。
年齢からか、一度引退していることもあり、衰えは隠せない。
しかし、実に楽しそうにプレーしていた。
おそらく彼の根本的なキャラクターは非常にシャイなのではないだろうか。
派手な言動も服装も、それを隠すためのアクセサリーに過ぎない。
スーパースターでなくなったため、今は飾る必要がなくなった。
もう彼をプライムタイムと呼ぶ人はいない。
しかし、それが本当のディオン・サンダースなのかもしれない。