出張ついでに小倉で古本三昧(3)
翌日は午前中に見学会が設定されており、出張の重要な目的でもあるため、業務に反芻できる情報を積極的に仕入れるように努めた。出張が面倒なのは、報告書を作成せなばならぬ点にあり、同僚と情報を共有できるだけのレベルの報告書を作成するには半日は掛かるので、ついつい行くのがだるくなってしまうのだ。今回の出張も内容が濃い分、報告書も濃くせねばならないので気が重い。午後1時前に見学会も終了し、小倉駅に戻ってきた。ここで、会社に連絡を入れることにする。何事もなければ、今日は出社せずに、直帰させてもらうことにして、古本屋巡りの続きをするのだ。とはいえ、夜には倉敷で飲み会があるため、出社しなくとも自由時間は3時間ちょっとしかなく、苦しいところだ。会社に電話すると、珍しく、「特段ない」という。嬉しいような、必要とされていないような、微妙な気分になる。すぐに気を取り直し、小倉駅ビル内のラーメン横丁で昼飯を手短に済ませ、古本屋巡りを再開することにする。時間が無いので、急がねばならない。まずは、ブックオフ小倉葛原店を目指すことにする。小倉郊外のJRの安部山公園駅からそう遠くないところにあるはずなので、JRの切符を求めるが、安部山公園駅が何線かまでは調べていなかった。改札横の駅員に尋ねると、日豊本線だという。人生で初めて聴く「線」だ。随分、遠くに来たものだ。こんなところでまたしてもブックオフを目指すオレはどうかしている。だが、楽しい。変態のレベルかもしれない。
車窓の風景を愉しみ、15分ほどで安部山公園駅に到着。近くに迫っている大きな山が安部山というのだろう。ブックオフのある広い通りに出るが、見える範囲に見慣れた看板はない。少し歩かねばならないようだ。初めての風景の中をブックオフを目指して歩く。バカらしいことをしているのは解かっている。でもわくわくする。やっぱり変態かもしれない。2分ほど歩くと、ようやく300メートル程先に目印の看板が見えた。この通りは、道幅が広く、下り坂になっており、少し弧を描いているものの見晴らしがよく気持ちがよい。バス亭もあるので、帰りはタイミングが合えば、バスで小倉に戻ってみようと考えた。ようやく到着したブックオフ小倉葛原店はかなり大きな店だが、半分はリサイクルショップであった。この店も先に覗いた2店の小倉のブックオフと同様、格安CDコーナーはなく、105円書籍コーナーには古い本が多く、アダルトコーナーの量が充実しているパターンであった。小倉のブックオフはフランチャイズらしくない独自のスタイルがあるらしい。悪い意味でブックオフらしくないと感じる。したがって、当然、欲しいものはない。1時間ほど掛けて、ようやくプテュマヨのワールドミュージックシリーズの「LATIN GROOVE」ほか4枚のCDを抜いたのみであった。
■ブックオフ小倉葛原店 小倉のブックオフにはフランチャイズにも関わらず独自のスタイルがあるらしい。
CDが5枚入ったビニール袋をぶら下げ、小倉に戻ろうと来た道を引き返す。すると、先ほど見かけたバス亭の周囲に幾人かが立っている。バスが来るのだろうかと時刻表を見ると、タイミングよくすぐに来るようだ。ほどなくバスが現れたので、運転手に小倉に行くかを確認して乗り込む。これで、小倉ではモノレール、日豊線、バスと3種の乗り物を利用し、郊外の旅を楽しむことができた。ブックオフではあまり楽しめず、食べ物にもヒットしなかったが、旦過市場と乗り物を愉しめたので、良い出張と言えることになるだろう。勿論、目的のセミナーも充実したものであったし。バスは途中から昨日乗ったモノレールの下を走ることになったので、旦過を通るらしいと感じた。そこで、旦過で降りて、昨日、閉まってしまっていたレッグ書房に寄ってみることにする。最寄のバス亭は通り越してしまったが、ロスは最小限に抑えてレッグ書房に到着した。しっかり営業していたが、このレッグ書房はかなり狭い。20平米程度だろうか。店頭には格安ワゴンも置いてある。幻想文学に力を入れている感じがするが、しょうもないエロDVDを申し訳程度に置いてもいる。高価な本はビニール梱包しているので、中味がわからない。店主らしき女性がパソコンをいじっているので、アマゾンにでも出品しているのかもしれない。特別欲しいと思う本はないが、店頭の格安本に100円なら買ってもいいのがあったが、100円の本を抱えて倉敷に帰るのもアホらしいので、止めておくことにする。旦過から小倉駅までは、名残を楽しみながら歩き、駅前のデパートの食品コーナーで同僚への土産を求め、小倉駅には戻ったのは午後4時前であった。これにて小倉出張ついでの古本三昧は
終了となる。断っておくが、仕事そっちのけでは決してない。あくまで、古本屋巡りはついでである。
■「レッグ書房」 小さいが気の利いた品揃え。半端なエロDVDは置かぬに限るが、酔客の需要なら仕方ない。
■LATIN GROOVE [PUTUMAYO]
プテュマヨのワールドミュージックシリーズの1枚。ブックオフ小倉葛原で250円に手に入れた。ラテン好きの私はプテュマヨのCDを数枚持っている。二コラ・へインドルの描くジャケットも好きだ。このプテュマヨというレーベルは、ニューヨークのブティックが生み出したという。BGMにもこだわるオーナーが世界中からブティックに似合う楽しい音楽を集めていたところ、客から要望されたレーベルを立ち上げたのだ。だからだろうか、このプテュマヨは、CDの販売をレコード店以外の雑貨店や書店などに広げた先駆けと言われているらしい。
出張ついでに小倉で古本三昧(2)
出張目的のセミナーは、仕入れるべき情報をしっかり入手し、無事に終了した。その後に催された交流会を早々に切り上げ、古本屋巡りを再開するものとした。来る前に、ブックオフ以外のまちの古本屋も念入りにチェックしておいてある。一度ホテルに寄り、荷物を預けることにするが、セミナー会場から小倉駅近くのホテルへの途中にも地場の古本屋があるらしいので、当然、寄ってみることにする。駅に近いが裏通りなので、人が少ない通りにその古書城田はあった。店の佇まいから察するに高齢の店主が昆布茶をすすりながら店番をしていそうな感じがした。既に暗闇となった通りの反対側から携帯電話のカメラで店の写真を撮っていると、ギターを吊るし、キャスター付きの旅行鞄を引きずる若い男がちょうど店に入るところだった。ライブ前の古本好きの若者だろうか。写真を撮っているところを見られてしまった人と同じ店の中で時間を共有するのはばつが悪い。まあ、店主に知られるわけではないので気にせぬようにしようと中に入ると、先に入店していたギター侍、いやギター男と店主の親しげな会話が耳に飛び込んできた。しかも、店主は意外と若く、40歳前後といったところ。15坪ほどの店内をざっとなめまわすと、西荻窪辺りにある文学・思想を中心に、映画や演劇を加え、サブカルのトッピングをしたような本好きが喜びそうな品揃えで好感が持てる。エロはないが、お色気ものも少しばかり置いてある。値段も高くはない。CDもほんの少しあるが、地元のインディーズの新譜のようだ。それとなく、店主とギター男の会話に耳を傾けていると、わがまち倉敷にある巨大古本屋、万歩書店の話題をしている。それも倉敷店よりも岡山本店の方が良いものが多いというような話であった。私が倉敷から来たことを知られているようでぞくっとした。話の内容を整理すると、どうやらギター男は京都の新米古本屋でかねて親交のある古書城田と明日、北九州の古い古本屋にセドリ旅に出掛けるらしい。途中で新たに別の若い男が加わり、店主がウクレレを奏で始めたので、邪魔しては悪いと思い立ち、城市郎著・「発禁本曼荼羅」を1200円で求め店を後にした。今の客は、店の写真を撮ってたから、ブログにでも載せる気だぜとでも噂をしたかもしれぬ。そのとおりにしてあげるから、次に行ったらコーヒーくらい淹れて欲しいものである。
■小倉駅北口の[古書城田] 友達が集まったからといって客がいるのにウクレレに高じていいのか。いいのだ。
ホテルに荷物を置き、にぎやかな小倉駅の南口へ急ぐ。渋い居酒屋で軽く引っ掛けて古本屋を廻るのだ。一人で気兼ねなく飲むには、カウンターの大きい店でなければならない。一人客も大事にするそういう店は意外と少ない。しかし、小倉ではすぐに見つかった。その名も武蔵。武蔵の国の西端の出身である私にとっては親しみやすい名前ということもあり、窓から中を覗くとL字型の大きなカウンターが中心の正しく酒場である。喜び勇んで中に入り、カウンターの端に座ると、揃いの黒いシャツを来た女がカウンターの内側から注文を尋ねてくる。接客は全て女がするらしい。生ビールを頼み、つまみには串焼きとはもの梅酢和えを注文する。普段ははもなど食べぬが、北九州は魚も旨いらしいので試してみることにした。まだ早いのか、客はまばらのため、隣の客の会話を聞き耳を立てながら飲むことは叶わず、給仕の女店員の顔などを眺めながら、30分ほどでほろ酔いになる。気分よく店を出て、アーケードを歩き、昼前に覗いたブックオフ旦過店を再度覗くことにした。事前の調べでは旦過には地場の古本屋もあるようなので、夜の古本屋巡りは旦過に狙いを定めていたのだ。しかし、この旦過店は、朝一で行った守恒店と同様に格安CDコーナーはなく、書籍の格安コーナーには本当に古い本が多いし、量だけは多いエロコーナーにはおもしろいものもなく、ブックオフにしてはおもしろいみのない店であり、ようやく1時間掛けて、SLAVAの「TRINITY」など500円のCDを2枚抜くのがやっとであった。SLAVAは「VOCALISE」なら250円で売られていることが多いが、「TRINITY」は見かけたことがないので、500円でも高くはあるまいと思ったのだ。
■小倉駅南口近くの「武蔵」。一人飲むならお勧めの店。女性店員の愛想は良くも無く悪くも無くちょうど良い。
ブックオフを出る頃には午後9時近くになっており、最早、地場の古本屋は閉店してしまったかもしれぬと気を揉みながら、ブックオフの通りの先にある教養堂に急ぐが、案の定、シャッターが少し下ろされていた。店主と女性客の話し声が漏れてくるが、シャッターが少し下ろされているということは、最早入店してはならぬという意志表示であろうから、無粋な真似はできない。それに中を伺うととかなり固めの品揃えのようで、お色気の気配は微塵も無い。これでは無理して入っても買うものはなかろと写真だけ撮って、近くにもう一軒あるはずの地場の古本屋に廻ることにした。ところが、残念ながら、次の目当てのレッグ書店は完全に閉まっていた。もしかしたら、営業していないのかもしれない。店の間口は狭く、景気が良さそうには感じられない。また明日時間があれば来ることにして、もう一軒居酒屋を廻り、完全に酔うことにした。何となく、不完全燃焼に終わってしまい、残念な気もするが、多くを求めてはいけないものだ。しかし、小倉の繁華街は大きく、また、にぎやかだ。一人でなければ入りたい店がたくさんある。うまそうなうどん屋もあるが、流石にラーメン屋も多い。職場の飲み会で貸切状態の焼き鳥屋に入ってしまい、居心地の悪い思いをしながら生ビールを3杯煽り、飲み屋街をうろついて少し腹を減らし、締めのラーメンを食べてホテルに戻った。ホテルでは今日の成果を確認したが、何でこんなものを買ったのだろうと感じるものもあり、われながらアホらしい出張をしていると思う。上司や後輩に知られたら、恥ずかしいばかりだ。でも、これが楽しいのだから、しょうがない。普通の人には気味が悪いことだろう。
■旦過駅近くの「教養堂」 ブックオフと同じ通りに面する正統派古書店。閉店時間を過ぎ、中には入れず。残念
■城市郎「発禁本曼荼羅」河出書房新社
城氏は、発禁本研究の第一人者にして、最高のコレクターらしい。この本は、まだ斜め読みしただけだが、発禁本の紹介や研究のみらず、本を求めて四苦八苦する古本コレクターの心情に迫る語りもあるので、趣味は違えども気持ちは解かる内容である。味わい深い表紙だが、内容が内容だけにもう少し艶っぽい表紙でも良いのに残念である。河出書房新社なら仕方あるまい。
出張ついでに小倉で古本三昧(1)
小倉で開催されるセミナーに参加できる機会が廻ってきた。小倉といえば、ふるほん文庫やさんが巨大倉庫書店や文庫図書館を設けているところ。かねてより、ブックオフ創業者の坂本氏とふるほん文庫やさん創業者の谷口氏をそれぞれ古本業界の革命家と求道者と評している私にとって、ふるほん文庫やさんのある小倉は聖地のようなものである。泊まり掛けのセミナーなどは、通常の業務が停滞してしまうので、本来は避けたいところなのだが、今回ばかりは是非ともと懇願し、行かせていただくことにした。セミナーは初日の午後と翌日の午前中だけなので、時間を有効に使えば、ふるほん文庫やさんのほかにも古本屋巡りが楽しめるかもしれない。ところが、出張の許可を得た後で、肝心のふるほん文庫やさんが既に小倉から姿を消していたことがネットから判明した。しかも、夜逃げ同然で小倉を引き上げ、倉敷に近い広島県三原市に移転したらしい。ホームページも最早なくなっている。2チャンネルからの情報なので詳細は不明だが、あまり良い状況にはないようだ。ブックオフと対極的な営業方針が災いしたのだろうか。とても気になるが、三原なら行く機会も巡ってくるだろう。ふるほん文庫やさんはなくなったが、小倉にはブックオフも何店かあるし、地場の古本屋もあるようなので、気を取り直し、効率的に廻れるように地図や行動計画をシュミレーションしてともかく出掛けることにした。
倉敷から小倉へ行くには、一旦岡山駅に出てから新幹線のぞみに乗るのが効率的。セミナーは午後からなので、朝ゆっくり家を出ても十分間に合うが、古本三昧できるのなら早起きも苦にならない。とは言え、あまり早く行っても店は開いていない。朝6時30分のバスに乗り、8時の新幹線に乗り、9時30分過ぎに小倉に到着した。セミナー開始の午後1時までの約3時間でまずは郊外のブックオフを目指すことにする。小倉にはモノレールが走っており、モノレールの守恒駅の近くにブックオフ守恒店があるのを下調べしておいた。小倉といえば、産業都市・北九州の中心地であるのだが、モノレールの車内広告は少なく、小倉といえども製造業の盛んなまちの景気は傍目よりも悪いのかもしれない。そんな印象を抱きつつ、守恒駅に到着。ブックオフはホームからも見渡せる位置にある。勇んで店に飛び込むと、105円CDのワゴンが店頭に置かれていたので、ざっと眺めてビクトリア・トルストイを1枚選ぶ。105円ワゴンがあるのであれば、期待できるかもしれない。続いて、格安CD棚を漁ろうとしたのだが、ないのだ格安コーナーを示す「250円~」の表示がどこの棚にも。何とこの守恒店には格安棚はなく、通常価格も105円も同じ棚に並ぶのだ。しかも、250円以下のCDは極端に少なく、他店ならば250円のCDが500円になっている。はるばる来た以上は何か選ばなければもったいない。しょうがないので500円ならば仕方が無いと眺めたが、欲しいものは全くない。CDは諦め、格安本に廻るが、こちらにも何も無い。しかも、普通のブックオフなら置かないような古めの汚い本がかなり突っ込まれている。コミックも何もない。最後の望みを託してエロ本コーナーに廻ると、ここばかりはかなりの勢いがある。写真集も雑誌もエロ漫画もDVDも質はともかく充実の量である。何だか、ブックオフの皮を着たエロ充実のまちの古本屋のような感じだ。何か無いかなと棚を眺めていたら、おもしろいムックがあった。黒とピンクを背景に谷ナオミと思われるなまめかしいヌードにコラージュが施された表紙が映えている。発行元は何とキネマ旬報社だ。タイトルは、「小沼勝の華麗なる映像世界」。ビニールが掛けられていて中味は伺えないが、キネ旬ならエロ写真集ではあく、ロマンポルノの解説本の類であろう。定価1470円に対し、売値は500円。安くは無いが、高いということもないだろう。何も買わぬよりはましと考えて求めることにした。ほかにも昭和の臭いのするロマンポルノ女優の写真集、大橋書店の「ポルノの時代(佐野猛男)を同じく500円で購入した。こちらの表紙は片桐夕子だ。懐かしい。恐らく、この2冊は同じ方が処分したものと思われる。どんな人だろう。わかるわけないが、推察するに、50歳くらいの、情緒の欠片もないAVに飽き足らないスケベであろう。オット、それはオレのことだ!
CDコーナーの物色が短時間で終わったため、ブックオフ守恒店の探索は小一時間で終わってしまい、時間は中途半端に余ってしまった。モノレールで旦過駅まで戻り、夜に探索する予定にしていたブックオフ旦過店に廻ることにする。旦過駅は小倉の繁華街の中心の趣がする。駅を降りると、旦過市場という細いアーケードがあり、人込みがすごい。おもしろそうなので通ってみることにしたら、すごく良い雰囲気。八百屋や惣菜や魚屋がひしめき、縦方向のほか、横方向にも支線のようにアーケードが伸び、乾物屋なども多い。一つ一つの店も小さく、前近代的な昭和三十年代の香りがぷんぷんする。乾物や魚や惣菜の臭いが混じり、目と鼻と耳で郷愁を楽しめる。こんなところがまだ日本に残っていたのは驚愕に値する。九州は正しくアジアなのだ。この空気感は、東日本にはない。肝心のブックオフ守恒店はこの旦過市場のすぐ近くにあり、2フロア構成の比較的大きな店。1階はコミックとビデオだけで、2階に書籍とCDが置かれている。守恒店から半ば予期していたが、この旦過店にも格安CDはなく、格安本には本当に古い本が多く、エロコーナーが充実し、抜くべき物件のない枯れた棚であった。セミナーの開始時間も迫っていたため、また夜に寄ることにしてとりあえず500円のCDを2枚抜いて終わりにする。しかし、旦過市場はおもしろいところだった。ブックオフは枯れていたが、いいものを見せて貰った。小倉に来た甲斐が出来たというものであった。
■正しくアジアの食品市場らしい旦過市場の幹線。支線に入ると、そこは昭和30年代。カメラは出せずじまい。
ELKARLANEAN , Alaitz eta Maider(アライツとマイデル)
バスク地方出身のデュオということで買ってみたが、スペインとはいえ、バスクはラテン系ではなく、何とも例えようの無い雰囲気。バスク音楽の基本はジャケットのようにアコーディオンとタンバリンの組み合わせなのだという。運動会のBGMならちょうど良い楽しい感じはするが、私の趣味ではない。まあ、これはこれで良い。何しろ、バスク音楽のCDは初めてだから。2度と買うまいが。
津山で古本三昧
ようやく念願の津山に行くことができた。津山と言えば、岡山県北部の中心地で、横溝正史の「八つ墓村」のモデルとなった津山事件で有名であるが、タイトルの「八つ墓村」の名称は津山ではなく、少し離れた真庭市にあった「八束村」から取られたのだという。市町村合併で八束村の地名はなくなり、現在は、高原で有名な蒜山の一部となったが、小学校などには「八束」の名が今も残っている。横溝正史は、戦時中に、岡山に疎開しており、県内には横溝正史ゆかりの地も多く、わがまち・倉敷でも真備町でちょうどこの時期、「巡(めぐる)・金田一耕助の小径」というイベントが開催されている。鳥取の境港が水木しげるの妖怪で攻めるなら、岡山県には横溝正史がいるじゃないかということか。おどろおどろしいものに惹かれてしまうのが、人というものであろうから、良いところに目をつけたとも言えなくないが、子供受けにしそうにないから、効果はあまり期待できないのではないだろうか。それにしても横溝正史はすごい。津山事件からインスピレーションを沸かせ、近くにある「八束村」を「八つ墓村」にしてしまい、そこで物語を膨らませていったのだから、作家の想像力というか妄想には感服させられる。しかも、戦時中だというのにだ(執筆は戦後)。そして、横溝正史がおどろおどろしく描いた岡山は、後に岩井志摩子さんを生んだのだが、話がそれていくので止めておくことにする。
■湯郷温泉の立ち寄り湯・鷺温泉館(朝8時から営業している頼もしい施設)
話を古本に戻そう。朝7時前ににバイクで家を出発し、湯郷(ゆのさと)温泉に着いたのが、ちょうど9時だった。意外に寒く、十分重ね着をしたつもりだったが、体が冷え切ってしまい、立ち寄り湯の鷺温泉館に浸かったものの、なかなか体が温まらない。ミストサウナに入り、ようやく体をほぐすことができた。ゆっくり温泉街を散歩したいところだが、今日の目的も古本屋巡りであるので、早々に出発する。因みに鷺温泉館は朝8時から営業しているので、使い勝手がすこぶる良い。あまり効かない気がするが、入らないよりは遥かにましである。湯郷温泉から津山までは20分ほどの距離。目指すはブックオフ津山店だが、初めに「万歩書店」が目に入ったので、Uターンして覗くことにする。万歩書店は古本好きの間では、巨大古本屋として全国的にも有名なお店であり、岡山に巨大な本店があるほか倉敷にも大きな店があり、ブックオフにも対抗できる岡山県のローカル古本屋チェーンとしても地盤を固めている。岡山県にはもう一つ、「古本市場」を全国展開する㈱テイツーの本社もあり、二つのローカル古本屋チェーンが頑張っているので、古本チェーン先進国といえるかもしれない。そのためか、岡山県のブックオフは僅か9店舗に留まっている。「万歩書店」の名は店内が広く、見て回るのに1万歩は掛かるというところからきているらしい。ブックオフや古本市場とは異なり、万歩書店の主役はあくまで「本」である。CDやゲームソフトも置いているが、いわゆる黒っぽい古本も多いので、通な古本好きでも楽しめる。岡山や倉敷の店は古い漫画誌が備蓄されているので、マニアにとっては天国だろう。この万歩書店は、その名前からか、「エロモノ」にも力を入れている。ブックオフや古本市場が申し訳程度に置いているエロDVDの品揃えも充実している。たくさんの黒っぽい本と大量のエロDVDが同居する古本屋は、全国的にも珍しいのではないだろうか。普通は、どちらかに偏っているものだ。
■万歩書店中之町店(1階はやかましいが、2階の書籍コーナーは静か)
ブックオフ津山店の方が気に掛かるので、万歩書店中之町店の探索は、適当に切り上げることにした。実のところ、万歩書店はブックオフのように掘り出し物があるわけではないので、おもしろみに欠けているのだ。津山市郊外の幹線通りに沿いにあるブックオフ津山店に着いた頃には、午後11時を回っていた。4時間掛りで念願の津山店に到着したことになる。われながら、馬鹿らしい。しかし、それでも楽しい。最早、ブックオフ巡りは、趣味なのだから仕方ない。しかし、津山店は予想以上に小さかった。岡山県北部唯一のブックオフなのにである。まずは格安CDコーナーに行くが、洋楽の幅は棚3本分だけ。それでも4枚は抜けたし、ブラジル音楽界の女神様、シモーネの「cafe com leite」を500円で手に入れることができ、すこぶる良い気分。シモーネの声は実に特徴的で心地よい響き。続いて、105円書籍コーナーに回るが、あまりおもわしくない。それでも3冊抜いて、通常価格コーナーに回ると、この日はセールで500円以上は皆500円というので、目を凝らすが、欲しいものはない。それでも1冊だけ抜いた。コミックや文庫も見るが、食指が動くものはなく、終わりにする。量は少ないが、内容的にははるばる来た甲斐があった程度にはなった。意外に早く終わってしまったので、来る途中に見た万歩書店津山店も寄ることにする。期待はせずに入店し、本棚を見るが、やはり良いものは高いし、安いものに欲しいものはない。念のためにCDコーナーに回ると、ここのCDコーナーは万歩書店の割には充実しており、100円CDコーナーまであった。期待せずに目をやると非英語の表記が何枚かあり、抜いて見るとおもしろうそう。ハービー・ハンコックまであり、105円ではなく、100円で8枚をゲット。倉敷の万歩書店のCDコーナーも覗いてみなければなるまい。
■津山駅近くの藤木書店(店に入れば、親父が声を掛けて来ることだろう)
腹も減ったので、そろそろ帰ろうと考え、最後にもう一店だけ覗くことにする。津山の古本屋をネットで調べていたら、津山駅のそばにまちの古本屋があるようなのだ。その名は、藤木書店。ブックオフや万歩書店の影響でもう店を閉めているかもしれないが、とにかく行ってみることにする。駅の近くに小さなアーケードがあり、その中を進むと、古本買取の看板が目に入り、窓ガラス越しに本棚が見える。まだやっていた。だが、あまり期待はできない雰囲気が立ち込めている。外から中を窺うと、なんとなく白っぽいのだ。良い本屋には色が満ちている。棚がカラフルなのが、良い本屋の目印だと私は感じている。その感触だと、まずいことになる予感がする。しかし、ここまで来たのだから、寄るしかない。次に津山に来たときは、閉まっている可能性が高いと思わせるだるさが醸し出されている。意を決して入ると、こじんまりした空間に本がきれいに詰め込まれている。通路に本が積み上げられているが、足の踏み場にも困るという感じではない。入ると、すぐに店主の爺さんが「何をお探しですか」と声を掛けて来る。「いや特に」と答えると、棚の説明や価格の説明をしてくれる。客が珍しいか、人が恋しいのか、分からぬが、うるさい親父だ。ほかに客はなく、来る様子も微塵もない。長居は無用だが、何か買ってやらねば気が引ける。丹念に探すが、本当に何もない。しかも、埃だらけで触るのも嫌になる。通路の全てに積まれているのは文学全集ばかりだ。一山1500円程度のものもあるが、動いている形跡はない。ブックオフでも文学全集は引き取らないらしいので、この店に集まってくるのかもしれない。おもしろそうなエロ本でもないかと探したが、つまらぬ写真集とVHSの古いエロビデオがダンボール放り込まれている程度。どうしようもないので、新書コーナーに1冊だけあったハヤカワのポケットミステリーを手にしてレジに持ち込むと、「200円だね」というので、支払いを済ませてそそくさと店を出た。この店の親父は、ずっとお茶を飲んでいて、茶をすする音が店内に響き、気色悪いことこの上なかった。この古本屋にも良い時代があったのだろう。とても想像できないが。名物のホルモンうどんも食べずに帰路に着き、家内に約束していたとおり、午後4時前に帰宅した。
ラテン音楽パラダイス 竹村淳・1992年・日本放送出版会
河村洋助氏のイラストが映えるこの本は、しばらく絶版だったようだが、講談社が文庫で復刊したらしい。ブックオフ津山店の格安棚にあった。中はきれいだが、カバーは少々くたびれている。しかも、値札のシールがきたなく剥がされた後が残っている。ブックオフの格安CDコーナーでは、スペイン語やポルトガル語のアルバムをチェックし、250円なら大抵買ってしまう私には、うってつけのガイドブック。
JAZZSTORY 笹尾俊一(作・画) 1996年 BNN
こちらもブックオフ津山店で手に入れたが、500円以上は500円のセールで500円で購入。ほのぼのしたイラストと一人称の語り口でジャズの大御所の人生を通し、ジャズの心を表したといえば良いだろうか。
本の森セルバと一博堂
ブックオフの隆盛を見かねた新刊書店が、同一施設内に大掛かりなリサイクル本・CDコーナーを併設した珍しい取り組みとして、フタバ書店青江店を先日紹介したばかりだが、珍しい取り組みというのを訂正しなければならないようだ。昨日、そのフタバ書店青江店のすぐ近くで同じような取り組みを行う新刊書店を発見してしまったのだ。フタバ書店青江店近くの矯正歯科に子供を連れて行き、その日は、歯科医からの説明もないので、病院近くを歩いて散策することにした。青江は岡山市の中心部にほど近いが、元農家の雰囲気をかもし出す豪邸も多く、元農道らしい路地が楽しい。入り組んだ細道を巡ると、少し先にジャスコが見えたので、本屋があるかもしれないと、いつもの虫が騒ぎ出し、中に入ることにした。そこで、出くわしたのが、本の森セルバ岡山ジャスコ店であった。
本の森セルバのことは、岡山駅近くの商業施設に入っていたので知っていたが、スーパーの中にも出店しているとは知らなかった。とは言え、スーパー内の書店は雑誌やコミックが主体の、コンビ二の雑誌コーナー並みのところが多い。この本の森セルバ岡山ジャスコ店も売り場は小さいのだが、書籍も若干扱っているので、コンビ二並では失礼な品揃えがあり、書店の体裁は整っていた。いや、整っていたどころではなく、何と売り場のど真ん中に1.5平方メートル程度の古本コーナーがあったのだ。残念ながら、棚はすかすかで置いている本も魅力に乏しく、手を出す気にはならない。しかし、このコーナーには何と古漫画雑誌コーナーがあり、40年近く前の少年サンデーやマンガ少年などがビニール梱包され、一律1000円で30冊ほどが置かれていたのである。摩訶不思議な現象である。一体誰が、日用品の買い物に来たついでに、40年も前の1000円もする古漫画雑誌を買うのだろうか。1000円という値付けは、安くもないが、高くもないといった価格であるので値段が悪いわけではないが、少なくともこのような商品を買う方は、目的的に買うものであり、スーパーに行ったついでに買うものではあるまい。だが、しかし、意外とついでに衝動買いする方がいるのだろうか。
そして、もう一つ驚いたのが、この古本コーナーは本の森セルバの運営ではなく、一博堂という岡山市の古書店の運営らしいのだ。手に取った古漫画雑誌のビニールには価格札が貼ってあるのだが、そこには価格とともに一博堂の名前が印字されていた。一博堂のことは行ったことはないものの、岡山市内の古書店をネットで調べたことがあるので、名前だけはかろうじて記憶していた。紀伊国屋書店とふるほん文庫やさんが提携し、紀伊国屋書店内に絶版文庫のコーナーを設けたことがあるが、それは紀伊国屋書店が絶版書もお客様に提供したいという本屋の矜持的思いからであろうし、フタバ書店の方はブックオフにだけ甘い汁を吸わせておくのはもったいないという新刊書店のやっかみ的発想からであろう。そして、この本の森セルバと一博堂の取り組みだが、これはどういう思惑が結びついたものであろうか。普通に考えると、同じ本が新刊と古本で同じ売り場にあれば、潔癖症の方やコレクターを除けば、多少程度が悪くても古本の方を買うだろう。そうであれば、新刊書店内にリサイクル本コーナーを設けるのは、新刊書の販売機会を損なうものであり、営業戦略的にはマイナスであろう。フタバ書店は新刊もリサイクルも同一の経営だからこそマイナスにはならないのであるし、紀伊国屋書店も絶版書だからマイナスにならないのである。
そこで、今日の新刊書店業界、あるいは出版業界の大きな課題に思い至った。ゲームや携帯電話やインターネットの普及により、メディアが多様化したことによって、本の売れ行きが著しく不振に陥っていることは周知の事実だ。売れ行き不振だから、出版点数を増やしてしまい、出版点数を増やしてしまうから、総体的に本の質が落ちてしまい、ますます本が売れなくなってしまうというマイナスのスパイラルだ。更に、ブックオフが1000店舗体制目指し、全国のちょっとしたまちには出店するようになってしまい、新刊書店で売れるのは発行後3ヵ月程度以内の本当の新刊だけという厳しい状況に陥ってしまっている。しかし、もしかしたら、ここに新刊書店と古本屋が提携できる可能性があるのかもしれない。既に大手出版社とブックオフが提携し、売れ残りの本をブックオフが捌く体制ができつつある。ブックオフは1000店舗体制に近づくことによって、ついに出版社を見方につけることに成功したのだ。数の力が勝利をもたらしたのである。それならば、新刊書店も黙って見過ごしている手はあるまい。出版社がブックオフと手を組むのなら、新刊書店だって古本屋と手を組めば良いのだ。基本的には、新刊書店では置いても動かない発行後1年以上前の古本を置くことによって、安さを売りに客寄せ効果を引き出し、尚且つ、販売手数料を古本屋からいただけば、売り場を提供する以上のメリットが期待できそうだ。古本屋の方はもっと良い。リスクなしで販売機会を増やすことができるのだ。特に、小さな新刊書店であれば、その効果は大きいかもしれない。新刊や雑誌やコミックだけを置き、ハードカバーや文庫は古本屋に提供させ、古本で客を引き、確実に新刊を売る、そういった思惑があるかもしれない。だが、それにしても40年前の少年サンデーはジャスコじゃあ売れないんじゃないの?
「焼いた魚も泳ぎだす」 映画「阿賀に生きる」スタッフ著・記録社発行・1992年
この本の森セルバ岡山ジャスコ店の古本コーナーは、売リ場の中央の本棚のみならず、店頭にもワゴン3台分があり、それぞれ100円、200円、300円均一に区分され、文庫とハードカバーが置かれていた。ブックオフの105円均一の方が魅力的だが、300円均一ワゴンに1冊だけおもしろそうな本があった。装丁がイカしているし、タイトルも愉快で状態も悪くない。この本を斜め読みして初めて知ったのは、チッソが垂れ流した廃液に含まれた水銀が引き起こしたいわゆる水俣病が熊本県だけに発生したものではなく、新潟県でも起きていたという事実だ。第二水俣病というらしい。こちらの原因者はチッソではなく、昭和電工という会社。西東京に長く住み、熊本よりも新潟の方がはるかに近いのに、新潟の水俣病のことは全然知らなかった。斜め読みでも重大な事実を知った気分になった。それこそが本の持つ力だろう。


















