「憲法への自衛隊明記」論の危険性! | 折々

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小林 武 沖縄大学客員教授(憲法学)が、「憲法への自衛隊明記」論の危険性について赤旗(6/22)で書いている。大事な視点と思いココに再録する。

 

 参院選を目前にして、憲法改悪の濁流は、いよいよ本丸の9条に迫っています。改憲勢力は、一憲法審査会では、当初9条以外の手続き問題や緊急事態条項をテーマとしていましたが、ウクライナ侵略が生じると、それに乗じて一気に9条改憲に進み出ました。
 そこで、自民党が主張して、維新が同調し、公明も検討するとしているのは、安倍政権当時の2018年3月26日に自民党憲法改正推進本部が出した「改憲4項目」の中の「自衛隊を9条に明記する」という提案です。4項目とは、この他に、緊急事態条項の導入、参院の合区解消、教育充実ですが、「自衛隊明記」は冒頭に置かれています。
 それは、「第9条全体を維持した上で、その次に追加する」として、つぎのような「第九条の2」を加えるものです。

「何も変わらない」の欺瞞」

  「第9条の2 ①前条の規定は、我が国の平和と独立を守り、国及び国民の安全を保つために必要な自衛の措置をとることを妨げず、そのための実力組織として、法律の定めるところにより、内閣の首長たる内閣総理大臣を最高の指揮監督者とする自衛隊を保持する。
 ①自衛隊の行動は、法律の定めるところにより、国会の承認その他の統制に服する。」
 というのが全文です。
   要するに、現行の9条は
そのままにしておいて「9条の2」を設け、そこに「自衛隊を保持する」と書き込む、と言う案です。

 海外での戦争が憲法上で可能に

  国民の多数は、憲法改正は必要としつつ、平和擁護の核心である9条は守るべきだと考えています。同時に、自衛隊については災害救助や感染病防止など、またロシアの侵攻を見ると、必要なものだと受けとめて容認しています。
 そのことからすれば、9条を維持して自衛隊を明記するのは一見妥当なように思われ、賛同する人も少なくありません。しかし、実は、これは、大きな陥穽を隠した、フェイク(虚偽)に満ちた議論です。
  すなわち、9条の2の中に「自衛隊」が書き込まれたなら、後法優位の原則 (「後法は前法を破る」)によって、元の9条は、残されても法的拘束力を削がれ実質上空文化されることになります。そして、そこに言う「自衛隊」は、自衛隊法・防衛省設置法などによって設置された存在であり、今後その編成や装備は「法律」に委任され、それを憲法によって統制することはできなくなります。
  とくに、現在の自衛隊は、すでに「安保法制」(戦争法制)によって集団的自衛権を行使して海外に出動できる軍隊へと変容していますが、それがそのまま憲法で承認されることになるわけです。こうして、自衛隊は、憲法の制約を受けることなく自由に、アメリカに随伴して軍事行動をすることが可能となります。これこそが自衛隊明記の中心的な狙いだと言えます、

徴兵制や徴用が「合憲」とされる

 しかも、自衛隊を憲法に書き込むことは、国会、内閣、裁判所、地方公共団体また天皇などと並んで、憲法上設けなければならない機関(必置機関)とすることを意味しますす。それで、将来、国民の意思で自衛隊を無くそうとする場合、憲法改正が必要とされることになります。
  また、この明記で自衛隊は憲法上の公共性を獲得しますから、たとえば徴兵制も現在のように、「意に反する苦役」(憲法一八条)にあたるから導入することはできないという解釈をとることはできず、逆に国民の名誉ある義務とされることになります。同じく、国民に軍事的労働を強制する徴用や自衛隊のための土地収用も合憲とされることでしょう。
  このように、自衛隊明記案は、憲法のありようを転換させてしまう恐ろしい仕掛けです。
 ただ、現行の九条をそのまま残したことそれ自体がこの案の内在的な弱点で自衛隊には、どうしても、9条の禁止する「戦力」であってはならないという規範上の制約がつきまといます。この緊張関係は、完全には解消されないわけです。そこで、安倍フェイク政治を引き継いでいる岸田政権は、9条そのものの削除へと進むことでしょう。必ず参院選で勝利して、これを阻止しなければならないと考えます。