~宙から大地を観る~  陸域観測技術衛星「だいち」 | 宇宙(そら)を見ながら「旅」するmomoの日記。 

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1995年、1月17日。

マグニチュード7.3の地震が

兵庫県南部を襲いました。


阪神・淡路大震災。


この大災害もまた

国の防災姿勢を左右するような

多くの課題を浮き彫りにしました。


そんな時代に考えられ開発された、人工衛星のこと。




2006年1月24日。
宇宙(そら)を見ながら「旅」するmomoの日記。 

日本中を襲った寒波 異常気象に悩まされたこの年。

種子島宇宙センターから、飛び立つH2Aロケット8号機。


開発期間 約10年。 

宇宙へと旅立った人工衛星

陸域観測術衛星(ALOS)「だいち」


宇宙(そら)を見ながら「旅」するmomoの日記。   Advanced Land Observing Satellite(エイロス)

「だいち」は世界最大規模の地球観測衛星です。


重量:4t 

大きさは幅3.5m奥行き4.5m高さ6.5m 電池パドルは22mx幅3mにもなる大きな人工衛星です。

地上から約700km上空を周回する軌道を飛びます。

単純に考えると 「だいち」は

東京から広島の距離を飛んでいることになります。


宇宙(そら)を見ながら「旅」するmomoの日記。 

地球一周をわずか100分で回ることのできる「だいち」

特定された地域に、より迅速観測することができるようになりました。


「だいち」ミッション(任務)

地図を作成すること、世界規模の地域・資源観測。

そして、大規模災害時の状況把握です。


宇宙(そら)を見ながら「旅」するmomoの日記。 


PRISM(パンクロマチック立体視センサー)

地上の凹凸や標高などを測ることができます。

AVNIR-2(高性能可視近赤外放射計2型)

鮮明なカラー画像を撮影。災害時に迅速にデータを送れます。

PALSAR(フェーズドアレイ方式Lバンド合成開口レーダー)

天候。昼夜に関係なく撮影できるレーダによって、より詳細な地形データを観測。

 2種類のマイクロ波を送受信するのは世界初の技術。


という、機器を搭載しています。


工学センサとレーダ

ふたつの機器をひとつの衛星に搭載したのが、「だいち」の大きな特徴です。



太陽電池パドルを広げて

通信を確保して

合成開口レーダ(パルサー)の展開にも成功。

搭載機器のチェック! んー・・・よしよし。
宇宙(そら)を見ながら「旅」するmomoの日記。 

事前の総点検のおかげで、致命的なトラブルもなく

いよいよ「だいち」の仕事が始まります。


「機械」の求められるもの

それは求められた仕事を順当に行い、正確に動くこと。

故障しないこと。


宇宙空間という、過酷な環境で働く人工衛星は

地上で試験する事が難しく

ほとんどが、ぶっつけ本番の運用です。


失敗しないように、地上でたくさんの研究をして宇宙で試す。

試したらまた試験、探究の繰り返しです。


数少ない宇宙での研究は

地球観測衛星だけ見ても、振り返ると様々な人生を送った先輩衛星ばかり。


日本で初めての地球観測衛星 気象衛星「ひまわり」をはじめ、

地球資源衛星「ふよう」 地球観測プラットホーム技術衛星「みどり」や、

その後継機「みどりⅡ」

宇宙(そら)を見ながら「旅」するmomoの日記。   ふよう1号

任務期間が2年だったのにも関わらず 約6年半も観測データを送り続けた衛星「ふよう」

今も、活躍する「ひまわり」

機器の不具合(故障)によって一年満たずに、志半ばで命を絶った衛星もいます。


1997年。

その年から、相次ぐ観測衛星の突然死に、大きな波紋が広がります。


宇宙(そら)を見ながら「旅」するmomoの日記。   みどりⅡ

日本の人工衛星の不具合の連鎖。

今まで積み上げていた信頼・評価は陰りをみせ、国内からの批難も強くなります。


「だいち」は大丈夫でしょうか?


完成を迎えていた「だいち」を

搭載機器から設計、評価まで大幅な見直しが行われることになりました。

約10ヶ月もかかった再評価と機器交換。

一年遅れた宇宙への旅立ち。


降って湧いた災難でした。


しかし、

「だいち」にとっては、ちょうどいい見直し期間でもありました。


「だいち」には長生きしてもらわなければなりません。

多くの技術成果を出さないといけません。

成功を形として残さなければなりません。


人工衛星達の未来を繋ぐために。

信頼を回復するために。


宇宙(そら)を見ながら「旅」するmomoの日記。 
「だいち」の再スタートです。



「だいち」が初めて見た地球の景色、それはどんなものだったでしょうか。


2006年 2月15日。


宇宙(そら)を見ながら「旅」するmomoの日記。  パンクロマチック立体視センサ(プリズム)撮影。

宇宙から届いた立体映像。

それは、間違いなく日本で一番高い山、富士山

700キロ上空から映したデータは、富士山の裾までくっきりと再現されています。


同月17日には

ロケットで宇宙に旅立った思い出の場所、種子島宇宙センターが撮影されました。
 
宇宙(そら)を見ながら「旅」するmomoの日記。    宇宙(そら)を見ながら「旅」するmomoの日記。 

高性能可視近赤外放射計2型(アブニール2)で撮影。


雲が雪のように眩しい、冬の種子島。


「元気に仕事をしています。」


空の彼方から届いた「だいち」からのメッセージは、

運用する人達にとっても

少なからず安堵と期待をもたらしたかもしれません。


宇宙(そら)を見ながら「旅」するmomoの日記。 

約100分で地球を一周しながら、地上を見つめる日々。

それは、とても優雅のようにあるけれど、とても繊細なお仕事でした。


昼夜問わず、天気も気にせず、世界中を観測する度、

見えてくる壮大な地球の大地。

地域・資源観測も「だいち」の大切なお仕事。


しかし、その姿は

同時に地球の悲鳴を生々しく伝えるものとなっていきました。


伐採された森林 広がる砂漠。

海に沈む島。

溶ける氷河 海に漂う重油。

地震や山火事、洪水などの自然災害まで・・・


心の痛む光景が「だいち」の目に飛び込んできます。


宇宙(そら)を見ながら「旅」するmomoの日記。   アマゾンの森林伐採

ふよう衛星画像(1996年)との比較。(※黒いところが伐採箇所)


緊急時災害派遣では、

「だいち」は国内外の多くの被災状況を撮影しデータを提供しました。


次々と送られてくる鮮明な地上画像。

一時は「軍事衛星か?」と、うわさされるほどに。


2007年10月23日。

新潟県中越沖地震が発生。


宇宙(そら)を見ながら「旅」するmomoの日記。   <最大で25センチ隆起した地殻変動が確認された。

合成開口レーダ(パルサー)からの撮影


地殻変動などを撮影。

その他、防災サンプルとして多くのデータを提供し貢献しました。


世界中で起こる大災害や事故。

「だいち」の出動観測は何度もありました。

黙々と命令に忠実に、観測してデータを提供する忙しい日々。


変わりゆく地球の表情に

物言わぬ「だいち」は、どんな想いで眺めていたのでしょうか。



2007年(平成18)10月2日。

「だいち」に写ろう! 

全国の小中、高校を対象としたキャンペーンが行われました。

たくさんの人に「だいち」を知ってもらうチャンスです。

抽選で10の学校が参加しました。


広場に現れた大きな「人文字」

宇宙(そら)を見ながら「旅」するmomoの日記。   小さく見える「10」という文字。


「だいち」の目は、そんな子供たちをやさしく見つめる存在でもありました。

キャンペーン結果↓

http://www.eorc.jaxa.jp/imgdata/gallery/daichi_camp/index.html



2008年 5月30日。

世界初の米国中継衛星間でのデータ送受信に成功。


日本の中継衛星「こだま」が届かない範囲での、

データ送受信が可能であるという技術を立証し、世界高速(240Mbps)送信も成功します。

また、世界最大級の観測データ量(これまでの衛星の20倍)を送信できたことで

その実用性も証明されたのでした。


そこはやはり、技術衛星 としての「だいち」の姿。

いつしか、

世界遺産を監視や、地下資源を調査したり

国際協力も含めた活動を、幅広く行う人工衛星となっていきました。


宇宙(そら)を見ながら「旅」するmomoの日記。   世界遺産ピラミッド(エジプト)


比較的身軽な(使いやすい)「だいち」は、世界中を行ったり来たり。


国内外の不法投棄や森林伐採の監視。

それはまるで、防災衛星とも宇宙警察ともいえる働きぶりでした。



でも忘れてはいけない。


「だいち」の仕事には、地図作成もあるということを。


いまさら、地図を作るって・・・間に合ってるじゃないの?


という意見もありますが、

どうも、今の日本地図は曖昧で、各所誤差が出てきており

不正確なのだそうです。

また、日本は特に地盤が弱く、災害や地殻変動によって地理も変わってきているとのこと。


正確な地図がもたらす成果はいわずもがな・・・。


天候に左右されることなく、正確な地図を作成する能力を磨くこと。

高精度の眼(カメラ)をもつ人工衛星にとっては、

求められて当然の技術なのかもしれません。


宇宙(そら)を見ながら「旅」するmomoの日記。   福岡市立体図。


しかし、ここで問題が起こります。


「だいち」の画像データが、地図の作成に不適合であることが判明したのです。

それは、

地形と、撮影された画像との間に誤差が生じたためでした。


複雑な地形に、「だいち」の搭載機器が対応できず

ノイズが発生したのです。


地上では、この誤差を解消するために

解析度や圧縮データ、衛星制御に至るまで、ソフトウェアを準備し対応が図られました。


対応の結果。

誤差は5m以内まで改善し、「だいち」の画像は晴れて採用が決定されたのでした。


何もかも初めての仕事ばかり、失敗は許されず、結果は求められます。

それが現状。

「だいち」への挑戦は生きている限り続きます。


徐々に、精度が良くなっていく「だいち」は

海外での正確な地図・地形の作成にも参加しました。

国によっては

まだ十分把握できていない地域もあり、それを少しお手伝いしたことになります。


技術衛星として、「だいち」の経験は

次の人工衛星たちの、大きな糧となることでしょう。


そんな「だいち」も

2011年で、5歳になりました。


誕生5周年も祝う暇なく、

1月にはブラジルで洪水、鹿児島県では霧島山(新燃岳)が噴火。

翌月にはニュージランドの震災が起こり、

「だいち」は、相変わらずの忙しい日々を過ごすことになります。


3月11日。

マグニチュード9.0という

東北地方太平洋沖地震(東日本大震災)が発生しました。


宇宙(そら)を見ながら「旅」するmomoの日記。   宇宙(そら)を見ながら「旅」するmomoの日記。 
仙台・名取市の冠水状況。                      陸前高田市(岩手)の震災後画像。


「だいち」も、緊急観測を開始しました。


破壊された堤防、水につかった町。

大きな地殻変動の検出と、海に浮かぶ多数の漂流物・・・


日本地図の書き直しが必要だとまで言われた大規模な地震でした。


目を覆うような悲惨な状況。

それからも余震、地震は続き 「だいち」は休みなく観測を続けます。




少しずつ、復旧していく町並み 道路。

片付いていく瓦礫。

復興へ動き始めた人たちの姿。


「だいち」の眼にも、写っていたのかもしれません。


JAXA施設内も、震災の影響を受けながら通常業務(通信)を開始。

日本中が、世界中が「祈り」に包まれるなか

ISS(国際宇宙ステーション)に滞在中だった

こうのとり2号機も、静かにその任務を終えました。



地球に裏側で起こったメキシコ火災。

駆けつけた「だいち」は データを送ります。


いつもの仕事。いつもの観測。




2011年4月22日。


それは突然起こりました。


ベルギー上空で、「だいち」の電力が低下しているのが発見されたのです。


衛星に何らかの異常が起こり、観測センサの電源をオフにし、電力の負荷を最小限にする

体制(軽負荷モード)におちいっていたのです。

何らかの電力異常が起こった可能性があります。


原因を探ると共に、復旧作業が試みられました。



5月12日。

JAXAは、

交信不可であることから、「だいち」の復旧は不可能と判断されました。


搭載されたバッテリーの停派コマンドを送信され、「だいち」の運用終了が発表されました。

異常が起こって3週間後のことでした。


「だいち」の2度目の再スタートはありませんでした。


宇宙(そら)を見ながら「旅」するmomoの日記。   「だいち」が最後に撮影したアフリカ中央部とアラスカ


東日本大震災では400枚以上の画像データを提供しました。

海外からも、約5000シーンのデータ提供があり、

これは、災害時など国際貢献した「だいち」のおかげといってもいいでしょう。


設計寿命3年、目標寿命5年。


よく考えてみれば、天命を全うした人工衛星ともいえる「だいち」の一生。
もっと長生きしてほしかった・・・という気持も、山々なのだけど。



年間約100件もの、世界中の大規模災害を観測し、650万回(シーン)撮影した「だいち」

それは、間違いなく「だいち」の足跡であり、立派な成果でした。


「だいち」によって得られたデータは、きっと次に生かされるはずです。




2004年4月。


あの震災から、およそ9年。

「だいち」が撮影した神戸の町並み。


宇宙(そら)を見ながら「旅」するmomoの日記。 
かつて、大地震に襲われた神戸はここまで復興しました。


フランスのスポット衛星(CNES:クネス/ESA)やふよう1号が撮影した震災後の神戸。

宇宙(そら)を見ながら「旅」するmomoの日記。    宇宙(そら)を見ながら「旅」するmomoの日記。 

SPOT衛星画像(1995.1/21)               ふよう衛星画像(1995.1/20)


その時代。

まだ、プロジェクトの初期段階だった 地上の「だいち」


その「だいち」が、震災から復興した町を見渡したように

今度は、その遺志を受け継ぐ後継機が

復興した東北の町並みを撮影できる日がくるといいですね。



宇宙(そら)を見ながら「旅」するmomoの日記。   だいち2号

2013年、後継機「だいち2号」(ALOS-2)打ち上げ予定。

(一年早まるといううわさもありますが…)


それまでの間。

地域観測は、海外の衛星に協力してもらうとのこと。




今はただ、とにかく。


お疲れ様・・・そして、ありがとう   だいち。



宇宙(そら)を見ながら「旅」するmomoの日記。 




とりあえず、大まかにまとめてみました。

「こんな人工衛星がありますよ」

と、知るきっかけにでもなれば・・・これ幸いです。


また長々文になっちゃった(汗)



参考・引用文献/


宇宙から見つめる目は世界のために


だいち画像ギャラリー<ALOS解析研究プロジェクト


衛星画像ギャラリー<地球観測研究センター


陸域観測技術衛星衛星「だいち」


大地の目で見る世界遺産


阪神・淡路大震災衛星画像(JAXA)


など。


宇宙から地球を見つめる「だいち」ギャラリー
JAXAニュース(動画)
http://www.jaxaclub.jp/cgi-bin/index.cgi?MODE=NEWS_DETAIL&ID=748