今日、僕は何か変われただろうか。

いつもどおりの時間にソファで目が覚め、

いつもの時間の電車に乗り、

会社につくと、PCの電源を入れ、
メールをチェックする。

埋まっていく手帳のスケジュールの
空白を失くすように、
商談のアポイントをいれていく。


内勤の時もあるが、
ほとんどは外出をしている。


今日も、外出をした。


暑い日だろうが、寒い日だろうが
関係ない。

国内だろうが、海外だろうが
関係ない。

寒ければ、コートを着て、
雨が降れば、傘をさせばいい。

会社に利益をもたらすビジネスが存在するならば
どこへでも行く。

それが、仕事で
それでメシを食べている。

そして気がつくと、32歳になっていた。





また、今年も暑い夏がやってくる。

この季節になると、いろいろなことを思い出す。


狭いマンションの窓に切り取られた
白い雲。 

間の抜けたような、風鈴の音色。


机の上に無造作に転がる、写真のネガフィルム。


汗ばんだシーツの上に脱ぎ捨てられた二人の下着。

僕の腕枕で眠る
彼女の額にキスをしたこと。


若かったが、毎日が楽しかった。



今の僕には、もう少し
時間が必要なんだろう。


人は過去を記憶でしか認識できない。

だとするならば、思い出としての記憶は
ずっと大切にしていきたい。

ただ、その過去に縛られて
今を生きるのは、誰かを傷つけてしまうことになる。


「あなたの心は誰をみつめてるの」


Twitterでの、ある会話の中で、
何かに気づかされた思いがした。


僕は楽だから、それでいいかもしれない。

ただ、そんな僕と、正面から向き合おうとしてくれる
女性がいたとしたら、
僕の遠い目を見るたびに、
彼女はきっと、寂しくて寂しくて仕方なくなるだろう。




しばらく、仲通りを歩いた。



温かい、夏の夜風と
アスファルトの匂い。


寄り添いながら歩く男女のシルエットが、
丸の内の、いつもより少し暗い通りに影をおとす。


僕は、その影を踏まないように気をつけながら、
そんなことを考えていた。