夜桜

咲いていた 見知らぬ花を見て
つぼみのままの 木立を見上げて
「間に合うだろうか 旅立ちの日に」

二人手をつなぎはじめた その日から
気にしていた いつも

雨上がりの濡れた花びらは
街の灯りに照らされて
狂い咲く木々の下をくぐり抜けて
足取りが重い
かたく手を結んで 二人

まだ少し 寒さの残る 暗い
薄暗い朝に 君がつぶやいて
「間に合ってよかった 旅立ちの日に」

二人手をほどくしかなかった その日から
気にしていた いつも

雨が降って濡れた花びらは
街の灯りに照らされて
生き急ぐ人々の間をすり抜けて
はかなくも舞い
時を待つのみの 二人

雨がやんで濡れた花びらは
街の灯りに照らされて
振り返る各々の足元に散らばって
まためぐりあい
かたく手を結んで 二人
窓の外、閃光。
閃いて、消える。
轟くは、轟音。
切り裂いて、空。

なにもない なんにもない
ただ ここに いるだけ
ほかにはない どこにもない
ちいさな いのちの ひかり

家の中、灯り。
揺らめいて、ともる。
ざわめくは、騒音。
引き裂いて、心。

そこにある ここにある
ほら そこに あるでしょう
ほかにはない どこにもない
ちいさな いのちの ひかり

忘れかけていたあの日に
呼びかけてくれたのは誰?

思い出せないあの日を
呼び起こしてくれたのは誰?