寒い朝だった。
早く起きて始発便で移動する。
着いた空港の中にある大好きなファミレスで朝食を取る。
地下鉄で移動して市街地へ。
待ち合わせの場所で頼んだのはエスプレッソ。
ふと外を見ると学生のカップルが腕を組んで歩いていた。
初々しい。。。
ふと思い出す。手を繋いで歩いた時のこと。
お待たせしました。
その声の方を見ると穏やかな顔をした2人の女性。
カズの母親とお姉さんだった。
いえ。ご無沙汰してます。
前に触る彼女たちはまず開口一番に頭を下げて謝ってきた。
気持ちはわかるけどお互い相入れない感情で手一杯だったことには変わりない。あれこれ言わずに必要な言葉だけを交わす。
30分ほどで限界だった。
思い出話をするほど気持ちの整理もできてないし一緒に過ごして話せることもない。
もう1人にして欲しい。
その気持ちが言い出せずにぼんやりと話を聞く。
気分悪い?
心配したお姉さんが声をかけてくれたのでさっくりと伝えた。
ごめんなさい。もういいですか?カズと話をしたいので。
お母さんの顔は曇っていたけど私は私のために時間を使いたい。
伝票を持ってレジに向かうと慌ててついてきたお姉さんがここは私が。という。
借りは作りたくないのでこちらで払います。
そんな風に考えないで。
私は貴女がたと仲良くカズの話をするつもりはありません。今日明日はお寺に伺うので申し訳ないですが1人にさせてください。
自分でも信じられない冷たい声でそう伝えていた。
何もわからないと思う。
最期の別れもできず手を合わせることも許されず壊れた心を癒すことも救いを求めることも何もかもできないまま過ごしたあの時期の気持ちなど今更理解されたくもなかった。
私より遥かに年上の今は老人のその方は何を持っての謝罪なのか。まだ10代だった私にしたことを時間が経てば誤って済むとでも思っているのか?
腹立たしい気持ちを抱えたままカフェを出て歩き出すと涙が止まらなかった。
なんで泣いてるのかも分からなくて捕まえたタクシーに乗るとそのままお寺へ。
住職はお出かけだったので留守番をしていたお婆さんに挨拶をして心遣けのお菓子を渡すとカズの場所に向かった。
独り言を喋りながら話をする。
そして身勝手な態度をとってしまったことを謝りながら少しぬるくなった缶コーヒーを口にする。
体が芯から冷え切って感覚がなくなってきたし頭も痛くなってきたので帰ろうとした時住職がきてくれた。
暖かい甘酒でも飲みませんか?
甘酒?
苦手ですか?体が暖まりますよ。
いえ。大好きです。いただきます。
暖かな部屋に戻ってもしばらくは感覚が戻らず。。
それでも甘酒の入ったカップを包み込んで手を温めながら口にすると体の中から体温が息を吹き返す。
何かありましたか?
いえ。
目が赤かったようだと母から聞いたので。
あっ、、、
ここに関することはここで。。ですよ。
私はカフェでのことを話した。
黙って聞いていた住職は
麻美さんは間違ってないですよ。でもカズさんのご家族も間違っていない。
はい。
お互いの禁区というか聖域なんですよ。きっと。。
聖域ですか。。
しばらく話した後お寺を後にした私はホテルにもどるとそのままねむりこんだ。
目が覚めて時計を見ると23時を過ぎていてこれから外でご飯を食べる気にもならずルームサービスをオーダーしてカーテンを開けた。
綺麗な夜景が広がっている。誰かと喋りたくなっておねーさんへ電話をしたけど繋がらず諒さんへcallした。
大丈夫か?
うん。でも気持ちがうまくコントロールできない。
そりゃそうだろ。
やな女だよというかやな人間だよ。あたし。
ゆっくり話せることからでいいから話してごらん。
ん。。
その時コンコンとドアを叩く音がしたのでルームサービスが届いたからと言って一旦電話を切った。
ドアスコープを見るとそこにいたのは諒さんだった。
なんで?
泣いた顔しか想像できなかった。
仕事は?
済ませてきたよ。入ってもいいか?
うん。
部屋に入った諒さんは麻美が1人の時もダブルを取るタイプで良かった。
そういって少し疲れた顔で笑ってカバンを置くとそっと抱きしめてくれた。
コートに着いた外気の温度が少しずつなくなっていく。
でもまだ、私は泣けなかった。