―ミスター・プレッシャーから鉄人へ17―
5.自信―2
回りの目に負けるな
さてキャンプを過ごし、25年負け続けた負け犬集団の私達広島カープのシーズンがいよいよ始まりました。今年はそんな教育を受けたものですから、選手達皆がチームを、そして何よりも自分自身を今までと違った目で見だしていました。
毎年カープは「鯉」ですので、5月の鯉のぼりが上がっている頃までは強いのですが、所詮負け犬ならぬ負け鯉集団です。優勝なんて遠いところにあったんです。ところがこのシーズンは違った感覚で入っていったんです。
確かに感覚は違う。そんな感じです。
しかし、回りはそうは思っていません。何しろ、球団創設以来25年間、一度も優勝していないですから。「広島を優勝させる会」というのを著名人の方々が作ってくれましたが、優勝なんて考えられないんで、おそらく一生この会は続くだろうなんて言われていましたから。ひどいもんです。味方からこれですから。
その上このときにユニホームも変わったんですが…これがいけません。「赤い帽子」なんです。ルーツ監督がキャンプの初日に赤い帽子をかぶってきたんです。その帽子には「C」というマークがあるんで、アメリカではシンシナティーが野球の歴史の古いところなんで、その帽子をかぶってきたのかなーぐらいに思っていました。そしたら違うって言うんです。この赤い帽子をかぶるっていうんです。
「(赤…?赤の帽子?赤の帽子なんて小学校いらいかぶったことないぞ…。おぃ…。えらいことになったぞー。これは…。俺は28才だ。28で赤い帽子はちと恥ずかしいぞ)」
案の定、シーズン始まって成績でないとき、相手チームからも、スタンドからも、お前達はとうとうチンドンヤになってしもうたかと笑われました。これにはまいりました。
その上これだけ教えてくれたルーツ監督は球団と関係でもめ、5月の1週目に監督をやめアメリカに帰っていきました。後の古葉監督が同じ路線で我々を引っ張ってくれたのですが。
しかし、私達は確かに変わっていました。特に内面的に変わっていました。だからこの年は、オールスター戦前まで、いい位置につけたのです。
ところがいぜん、回りのファンやチームはどうも今年の広島はおかしいというぐらいです。強いとか変わったとかいうのではなく「おかしい」のです。