「ハメられたって何よ?そんなドラマみたいなセリフ
リアルで初めて聞いたよ~」
だろうな、俺は心の中で呟いた
「だけどな、あひる・・本当なんだ
じゃなきゃ、あんな時間にお前を店から連れ出すか?」
「俺の格好を見てみろ、店の黒服のまま持ち物は何もない」
あひるはマジマジと俺の顔を見つめると、
「でもさ、列さんがこんなに慌てて逃げ出す程なら
警察にでも行ったほうが良くないの?」
そこまであひるが言い終えた時、遮るように運転手が
「そろそろ宮前ですよ、このまま井の頭真っ直ぐでいいですか?」
「あっ、三鷹台の駅の方に行って欲しいのでその先の丸正を左へ」
運転手は頷きウィンカーをカチカチと鳴らし始めた
「まっ何か凄いマジ話みたいだからおウチで聞くね」
俺は黙ったまま町並みを見ていた
立教女学院前を左折した所で、俺達はタクシーを降りた
タクシーが去った後、しばらく立ち竦んで尾行者が居ないか確認していると、
「行こうよ~この格好じゃさすがにまずいよ~」
あひるはコートの前を握りしめていたが、スケスケのスカートの下の
パンティまではっきり見えた
「行こうよ」
あひるは手を握ると早足で歩き出した
少し歩き角を曲がると洒落たマンションのライトUPされた玄関が見えてきた
「ここだよ」
あひるは手を握って離さずにオートロックの番号を押した
エレベーターを押すと5階を押した
「よかったー誰にも取り敢えず会わなかったぁ~
しかし店のこのスケスケセーラーで家に帰るとは思わなかったよ」
5階に着き角の部屋の鍵を開けると、玄関がこんな仕事の子には珍しく
綺麗に掃除されていた
「我が家にようこそ、ご指名ありがとうございます」
コートを掛けるとあひるは店のユニフォームでふざけて部屋に引き込んだ
「取り敢えず・・・座ろうよ」
俺にソファーを指差しながら、ペタリと絨毯に座り込んだ
「烈さん正直言うとね、混乱してるのよ
突然の電話で呼び出されて、ハメられたって言われて・・」
「で、私は乳首が丸見えの格好でここに座ってる」
家に戻って緊張が取れたのか何時もの笑顔で話し始めた
「でもまずは、初めて来てくれたんだから飲み物くらい出してからだよね
コロナでいい?ライムもあるんだよ、今切ってくるね」
「すまない、灰皿が見当たらないのだがタバコ良いか?」
「これがダメなんだなぁ~禁煙マンションなんだよね
ごめんね、ベランダで良いかな?」
「用意しておくから吸い終わったら飲もうね」
頷きベランダに出ると街を見渡しながら、マンションの周りを注意深く見下ろした
下から部屋を見上げる奴や、怪しい車は見えなかった
取り敢えず逃れたことへ、やっと安心の吐息が漏れた
しかし、これからどうしたら良いのか全く解らなかった
オーナーが言った「あれ」とは何なのか?
その「あれ」の為に俺は何らかの意思の下に
こんな目に遭ってるのか?
あひるを巻き込んでしまった事も後悔し始めていた
今頃、ケツ持ち達は中野界隈を隈無く探し回っていることだろう
何も良い思考のない中で、一つの疑問が過ぎった
一体何故あの時店のブレカーが落ち、店内が真っ暗になったのか?
あのチャンスがなければ、一体俺はどうなったのだろう・・
ブレカーは店の従業員共用の更衣室にある
誰かが、俺を救ったのか?
それとも、もっと深い闇にハメられたのか・・
タバコをベランダに置いてある灰皿にもみ消すと
部屋のドアを開けてソファーに座った
待ちくたびれたのか、あひるは横になって
寝息を立てていた
机の上にメモ用紙があり
「西町あずさ 19才」
と、あひるの名前が書きなぐってあった
Chapter.3 「深い闇の中へ」
