インパルス【かくしごと】

堤下…父親。息子の部屋でタバコを発見し、
板倉…息子。高校生。


堤下「まさか和彦がタバコを吸ってるとはな…。いや、これは父親である私から言う。母さんは奥で休んでなさい。大丈夫、殴ったりなんかしない。そんなことをしたら、返って父の威厳ってものがなくなってしまうからな。話し合いで解決するよ。休んでなさい」

板倉「ただいまー」

堤下「おお和彦、ちょっと話がある。そこに座りなさい」

板倉「話…?」

堤下「いいから」

板倉「…うん」

堤下「……何か、父さんに隠してることがあるだろう。自分の口から言いなさい」

板倉「…いや、別にないけど」

堤下「隠さなくていい。父さん、全部わかってる。安心しろ、叱ったりなんかしない。まぁ若い時にちょっと粋がりたい気持ちってのはわかるからな」

板倉「……どうやらバレちゃったみたいだね」

堤下「ああ」

板倉「父さんの言う隠し事って、僕が岡野自動車の新型エンジンの設計図をハッキングして、ライバル企業の上野自動車に流したことだよね」

堤下「ーーーーー」

板倉「でも父さん、ちゃんとした理由があるんだ!奴ら、リコール隠しやインサイダー取引だけじゃなく政治献金までやってて、そんな汚い手口を使う奴らが僕…どうしても許せなくて、つい………ごめん…父さん……」

堤下「………………ダメだぞっ!
……他にもあるだろ?」

板倉「えっ、今のじゃなかったの?」

堤下「い、いやいや!今のはだって、父さん知ってたんだもん!あの〜アレだろ?新型エンジンハッキングしたんだろ?父さんもハッキングしてたもんだって」

板倉「あ、そうなの!」

堤下「そりゃしてたよ!それは父さん知ってんだよ」

板倉「皆やるの?」

堤下「皆やるんだよ!皆やるんだよ!だからほら、他のやつは?他のやつ」

板倉「……あ、ひょっとして…」

堤下「なんだ?」

板倉「僕が無免許で…」

堤下「無免許で何乗ったんだ?」

板倉「ヘリを操縦したことかな?」

堤下「…………へ、ヘリ??」

板倉「でも父さん、仕方がなかったんだ!設計図を盗まれただけじゃ岡野の奴らは何も変わらなかった…だから奴らの悪事を白日の下に晒してやろうと思った。けど僕の今のハッキング技術ではその証拠となるデータまでは到達できなかったんだ…だから夜中、直接岡野自動車に忍び込んだ。でフロッピーディスクを入手して屋上で待つヘリに乗り込んだところまでは予定通りだったんだけど、操縦する予定だったイーサンが」

堤下「イーサン??」

板倉「体調をおかしくして、もう…Ethan Hawke!! are you alright?!」

堤下「外国人。外国人なんだ……」

板倉「て言ったんだけど、No…I'm groggy…って言うからもう…」

堤下「英語喋れるんだ…」

板倉「イーサンは持ってるんだ免許を…僕は持ってない……でも…その、不慮の事態で…でもこんなの言い訳だよね父さん………ごめん……」

堤下「………………………こらっ!
……他にもあるだろ?」

板倉「今のじゃなかったの?」

堤下「いやいや!今のはだって、父さん知ってたんだもん!ヘリを…お前操縦したんだろ?無免許でな?父さんも若い頃乗ってたもん!無免許で。これ皆通る道なんだよ!当たり前なのそれは!」

板倉「そうなんだ…ちょっと安心した」

堤下「他のやつよ!」

板倉「……あ、もしかして…僕がイスラエルの軍事機密である、新型ウイルス兵器の受容体リガンドの」

堤下「ん違うよ違うよ違うよ違うよなんだよさっきから!!!!チンプンカンプンだよ!!!!
これだよ!!タバコだよ!!!わからないよさっきからお前何言ってんだよ!!!ひとつもわかんないよ意味わかんないよ!!なんだよなんとかギガントって知らないよそんなもの!!!!白日のなんとかとか難しい言葉使うなアアア!!!!
オイ!!コレだよ!!!タバコー!!!
いいか?未成年者の喫煙は、法律で禁止されてるだろ!?なんでタバコなんか吸うんだ!!」

板倉「父さん、それタバコじゃないんだ……」

堤下「え…?」

板倉「ちょっといいかな…?」

カチカチッ

堤下「アンテナ??」

板倉「起爆装置なんだ」

堤下「ナニソレ……」

板倉「岡野自動車の悪事が露呈しても奴らが心を入れ替えなかった場合コイツを使う事になる…でも勿論!僕は死者を出したくない!だから休日を狙って押すつもりなんだ、このボタンを……それは分かってほしい、父さん……あの…平日じゃないって事を…分かってほしい……父さん……だからあの…僕を見限らないでほしい……失望しないでほしい…父さん………」

堤下「………………失望しないよっ。好きだもん、お前のこと。休日だろ?」

板倉「うん」

堤下「いや休日ならいいよ〜平日なら危ないけどな!」

板倉「よかった…」

堤下「優しいなお前〜」

板倉「ああよかった………じゃあ、もういいかな…?」

堤下「いいよっ」

板倉「いや〜、警察の目は欺けても、父さんの目は欺けないね」

堤下「ハッハッハッハッ!…欺けてたけどね、全部ね」

板倉「あ、そうだ。この一連の事件に関しては母さんには内緒にしといてもらえるかな…少なくとも明日の朝刊が出るまではマズいんだ」

堤下「おう、わかった…!」

板倉「男の約束だぜっ!」

堤下「おうっ!」


堤下「……ハァ〜………ってことは今夜中に起爆すんのかなあいつ…もう新聞は解約しよ。あいつ……母さんに似たんだろうな…」