カクヨムにWEB小説KUUGA.A.Ω"とうタイトルで掲載している話数の一部です。

元々はYahooブログに2014年から掲載していた小説を加筆修正して、現在カクヨムに載せてます。

アギトの章】

001

榊 亜紀。


彼女も、あかつき号に乗船し救出された乗客の一人であり、哲也と同じく香川県立綜合病院に搬送されていた。


入院して三日の間、何度も繰り返し同じ夢ばかり見ていた。


妙にリアルさを感じるその夢は、あの日のあかつき号の甲板上で見た、自分達を異形の怪物から救ってくれた、光の救世主と一緒にいた、少年が襲われる情景だった。


其れは、今迄見てきた夢”とは全く異なり、まるで自分の魂が肉体を抜け出して、浮遊し次元を越えて見てきた様な感覚を、目覚めた後も残していた。


『私が…今度は助ける番みたいね…』


まるで自分とは違う意思”が働いたように、榊 亜紀は哲也の病室へと歩き出した。

病室の扉をノックする音。


真魚が扉を開けると、其処には自分よりも背が高い年上の女性が立っていた。


『突然ごめんなさいね…


私の名前は榊 亜紀。


彼とは同じ船に乗り合わせていたのだけれど…。

少し話せないかしら…。』


そう言って真魚の肩越しに、哲也を見やる。

其処には、確かにあの日あの場に居合わせた少年の姿があった。


『あなたは、あの時

展望デッキにいた方ですね。』


哲也も亜紀の容姿を覚えていた。


亜紀は安堵し、ゆっくりと哲也が座るベッドの横に歩を進める。


『これから、私が話す事を信用してもらえるかわからないけれど…


最後まで話を聴いてほしいの。』


哲也と真魚に、この三日間見続けた夢”の内容をつぶさに話した。


話を聴いていた哲也は、真魚が昔からよく見る”予知夢”と同一の物だと直感した。


幼馴染の真魚には昔から不思議な力”があり、哲也は真魚のその力”に何度か救われた過去を持つ。


あの日。


あかつき号の甲板上に降り注いだ無数の光…。


姉の雪菜は異形へとその姿を変え、自分もまた、眠りの中で肉体が変わる”夢を見た。


【アギトノインシ”ヲカイホウスルコトハ、カミヘノハンギャクダ。】


あの日あの時、脳裏に響いた思念の残響。

身体中の細胞が総毛立つ畏怖…


哲也は、次第に不安で押し潰されそうな錯覚に陥るのを、必死で抑えながら真魚の手を握った。


『分かりました…


一先ず、この病院からは出た方が良さそうですね…

どうやら、狙われてるのは僕らしいし…。』


亜紀は言葉なく頷いた。


本当に、自分だけが狙われているのか?


もしかしたら、あかつき号からの生存者全員が標的”になるのでは?


哲也は言い知れぬ不安を無理に掻き消そうとしたが、心に広がる深い闇のとばりは無限に広がり続けるのだった。

其れから三十分後に病院の正面玄関で三人は待ち合わせた。


病院の受付窓口に少し外出する旨を亜紀が代表して伝える。


受付の女性がナースステーションへ確認を取り、

”出来るだけお早くお戻り下さい”

と怪訝そうな表情で外出の許可を出した。


亜紀は、病院を出て直ぐにロータリーで待機していたタクシーに乗り込み、哲也と真魚に乗るように促す。


『運転手さん、香川県警へ向かって下さい。』


亜紀が運転手に行き先を伝える。


タクシーの運転手は、後部座席に座る若い男女をルームミラー越しに見やり、ギアをドライブに入れ、ゆっくりと車を発進させた。


『哲也、お父さんには連絡したの?』


真魚が哲也の父親が突然、病室からいなくなると心配するからと、気を回して聞いたのだったが、やはり連絡はとらずに出てきたらしかった。


『なんて説明すればいいのか、

思いつかないのもあるけれど…


父さんを巻き込みたくなかったんだよ。』


哲也は俯き、自分の手のひらに目をやった。


”真魚を巻き込む事も出来ない。”


しかし、哲也の口をついて

その言葉は出てこなかった。


真魚の身の安全よりも、一人になる不安を回避する方を選択していた。


そんなやりとりは、助手席にも聴こえていたが、亜紀の意識は別の事を考えていた。


『予知夢”は絶対的な未来にはならない…未来は変える事ができるはず。』


タクシーは国道を海岸線へと走る。


因果が待つ未来へ…。


002

国道を海岸線から市街地に向かうカーブで、突然タクシーが急停車した。


『そんな・・・・、逃げ切れないの・・・・・・・・

運命から・・・・・・・・』


助手席の亜紀は、行く手に立塞がる男の姿に愕然としていた。


タクシーの運転手は、血相を変えて運転席から降車し

突如、車道に飛び出してきた男に苦情を言いに近づく。

が、---------------------

男の前に近づく前に、いきなり道路にうつ伏せに倒れる。


『津上さん・・・・・・・、

だよな、何故こんな場所に?・・・・・・』


亜紀が助手席から飛び出し、後部ドアを開け放ち

哲也の腕を掴みながら叫ぶ!!


『彼が”!

夢に出てきた、あなたを襲う敵よ!!』


早く逃げて”と血相を変える彼女の目からは、
涙が溢れ出していた。


タクシーのガラス越しに、映る光景。


姉である雪菜の婚約者の津上。

その前で、道路に倒れている運転手。


哲也は困惑しながらも、真魚の手を掴み後部座席から立ち上り
走り出す。


国道を横切り入った道は、神社へと続く一本道だった。

神社の鳥居をくぐり、境内に入ったた瞬間。

水際の砂浜に足をとられる錯覚を哲也と亜紀は感じた。


『哲也!亜紀さん!』


真魚が手を差し出すが、二人はそのまま地面へと沈んでいった。


何が起きたのか困惑し、周囲を見渡すが、先程までの景色とは余りにも異なる霞がかった広さも認識出来ない空間に二人は立っていた。

距離までは掴めないが、見上げた先には、真魚の姿が確認できる。


しかし、哲也から見える真魚は、まるで透明の床に立っている様で、その異様もあいまって不安になる気持ちの色合いがより濃密になる。


ふいに、前方から津上の声が奇妙な反響を伴い聴こえてくる。


『沢木哲也。お前の人としての時間が終わろうとしている。』


哲也と亜紀は、その声に五感を研ぎ澄まし最大限の警戒をはかる。

コツ…コツ、と足音が反響し次第に大きくなる。


『この場は、私が創り出した亜空間だ。

故に、他の人間を巻き込む事は無い。

さあ、粛清の時だ。』


津上は周囲の水蒸気に似た霧をその身に絡ませながら、姿を変えて行く。


その威容は全身が深い海水の様な碧色。

体表面は、滑らかに光沢をあびている。

長い鋭利な先端の尾がある人に近い異形。

仄暗い翠色の眼光が、鋭く哲也と亜紀を射抜いていた。


『いや…

死にたくない…、お願い』


声にならない嗚咽のような呻きを発し、亜紀は金縛りにあっていた。


周囲を見渡すが、距離を測れるような遮蔽物はなく、迫り来る津上との距離すら曖昧に感じられる。


『俺が、闘って守らないと…』


そう言葉に発したが、哲也の全身は恐怖に縛られ指先ひとつ動かない。

心は、ひたすらこの場からの逃避を叫んでいた。


横目で亜紀を見やる。


何とかしないといけない”


でも、どうやって”


勝てるわけがない”


逃げる方法は?”

思考は全く整理が付かず、次第に頭の中は真っ白になっていく。


殺される…、


まだまだやりたい事が沢山あるのに


何も悪い事をしていないのに…”


そんなの嫌だよ…”


助けてよ、姉さん…


姉さん‼︎』


姉を呼ぶ声だけがハッキリと発せられたと同時に、哲也の中で何かがハジけた。


《ソノタマシイヲカイホウシ、ジシンヲシバル、クサリヲトキハナタン。》


その幻聴ともおぼしき声に、哲也の意識は深層心理へ飛んでいた。


目の前に突如出現した見知らぬ世界。


荘厳な二つの柱。

其れらに支えられる三角形の石造物。

巨大な扉には、哲也が見たこともない文字らしきものがびっしりと書かれている。


その人の身の丈の三倍はあろう扉に、手を触れた瞬間。

太陽のように強烈な光を放つ虹色の球の集合体が浮かぶ、まるで宇宙の深淵の様を映し出した空間に、放り出された。


見たこともない異世界の景色と、自分が別の何か、に変質する様な錯覚が襲う。


頭が変になりそうだ”



其れは、一瞬の出来事だったのか、それとも何時間も経過したのか…

立ちくらみに似た感覚が残る中、哲也は元の現実世界で目覚めていた。

003

『やはり…


異能の力だけを持ち帰ったようだな。

その肉体は、既に存在してはならないものだ!』


滅せよ!”津上変身体の右手から、蔓状の触手が伸び
凄まじい速さで、哲也の心臓を貫かんと迫る。


しかし、人の身体機能から超越したアギトへと変身した哲也には、

その迫り来る切っ先がハッキリと見えていた。


これなら避け切れる”

そう頭で判断し、踵から身体の重心を右にズラし躱す。


猛烈な勢いで哲也へと伸びた触手は、的を外れ中空を舞う。


『なんだ!この身体の柔軟性…


でも…素早さだけじゃあ…』


津上から発せられる、霊圧に押し潰されそうな感覚が、じわりと哲也を追い詰める。


『身体能力が向上しようとも、所詮は人から成るもの。』


津上が、前屈みの体制から

一気に哲也のいる場所へ加速する。


周囲の霧が一気に拡散し、津上の実態が哲也と亜紀の視界に入る。

その勢いのまま、右手のかぎ爪を繰り出し、連続して左の手刀を哲也めがけ繰り出す。


『なんてスピードなんだ…』


必死に津上の攻撃をかわす間、哲也の意識から恐怖心が次第に小さくなっていく。

『見える!これなら何とか…』


そう考えた刹那。

津上が繰り出した右の蹴りが哲也の身体を後ろへ仰け反らせ、そのバランスが崩れた処へ、鞭のような尻尾がビシッと、脇腹へ直撃した。

思いもよらない位置からの攻撃を、もろに受けて、哲也の身体は10メートルも吹き飛ばされた。


ぐほっ!”

アギトのクラッシャー部分から、赤い鮮血が迸る。

蹴り…じゃない…、


『人に似たカタチ”に惑わされたな。』


たかが一撃。

しかし、今の一撃だけで肋骨が数本折れていた。

『駄目だよ…やっぱり俺には敵わない…姉さん…』


《大丈夫よ!哲也。》


聞き慣れた姉の声を哲也は聴いた。


亜紀は、その姿を見た瞬間

金縛りが解けた様子で、喜びのあまり大声で、泣きじゃくりながら叫んでいた。

『ありがとう!…本当に来てくれたのね…』


亜紀の目の前には、あの日。

あかつき号で最後に見た、アギトへ変身した姉、雪菜が焔の剣を片手に携え津上と対峙していた。


『姉さん
?目の前の怪物は津上さんの姿で現れたんだ!…』


チラリと哲也に目線を向け、すぐさま目の前の敵を見据える。


『わかっているわ。


既に、一度いまの翔一さんには会っているから。』


どうやら姉は、状況を全て把握しているらしかった。


『なら…

尚更、そんな敵と闘えるのかよ!』


雪菜は少し戸惑いながらも、ハッキリとした口調で応える。


『あなたを護るためならば、相手が誰であれ。
私は、全力で闘えるわ。』

『ヨグ=ソトースの深淵から、よく這い出てこれたな。

しかし、霊力をかなり消耗した様子だな、沢木雪菜。』


津上の口元に不敵な笑みが浮かぶ。


『其れは、あなたも同じのようね…翔一さん。』


『確かに…私もこの現世では、本来の霊力のほんの一部しか使えないのが忌々しい…

津上翔一の肉体を器としなければ、実体化することもままならないのだからな。』


しかし!”言うなり津上が先に攻撃に転じる。


両手から蔓状の触手を四本伸ばし、雪菜を襲う。


凄まじい連続攻撃を剣でさばきながら、雪菜は後方に回避する。

『はあー!』


右手に構える焔の剣へ、霊力を込めると、その剣先から無数の火球が、津上めがけて猛烈なスピードで発射された。


小癪な!”言い放ち、津上は両手の指先から水の螺旋を形成し、防御壁を展開した。


霞かかっていた空間に、火球を無効化した防御壁が蒸発し、更に濃霧がはげしくなる。


一瞬。

津上は、視界から雪菜の姿を見失う。


側面からの焔の斬撃が、霧を薙ぎ払い津上を左右真っ二つに切り裂いた。

揺らめきながら消えゆく実体。


それと同時に先程迄の亜空間は消失し、哲也の耳に鳥のさえずりや、蝉の鳴き声が聞こえてきた。


緊張のあまり周囲の音にも、気づかなかったが、姉のおかげで平常心に立ち戻る。


『あの程度で、完全に倒せたとは思えないけれど…、事態は何とか好転したみたいね。』

004

榊 亜紀は、真魚が哲也と雪菜を超能力で治療している間に、助けを呼ぶ為に、国道を走っていた。


行きかう車は、助けを求めて手を振る亜紀を無視して走り去る中、
一台の乗用車が止まった。


黒塗りのセダンから降りて来たのは、年齢が30代と思しき細身の男性で亜紀の救助を要する事態を聞き、共に山間の神社へ向かった。


其処で、男が目にした光景は

血まみれの女性と、異形の怪人を介抱している若い女性の姿だった。


『真魚ちゃん大丈夫!』

助けを求めて来た女性が、一人と一体の介抱をしていた若い女性に話しかけた時、その真魚と呼ばれた若い女性は意識をなくし、その場に倒れこんだ。


その直後に、異形の怪人は少年の姿に変化していった。


その光景を見ながら、救助に駆けつけた男性は、つり上がった細い目をよりいっそう細め、口元は次第に笑うように口角が上がっていく。


そうして、その男性は胸ポケットから携帯端末を取り出し、あらかじめ登録していた先に、電話をかける。

『私だ。至急、ヘリを回してくれ…ああ、目標を発見した。』


救急車の手配をしてくれたのだろうと、思い男性に感謝を伝えた亜紀だったが。

其れから数分後に信じられない光景を目の当たりにする。

まるで、スパイ映画の様な一コマが亜紀の視界と耳を支配していた。


神社境内の真上に旋回するヘリコプターから、ロープで降下して来た全身黒ずくめの男達。

彼等は、すぐさま哲也と雪菜を担ぎあげ、そのままヘリコプターへと連れ込んでいった。

あまりの突然の事態に、困惑していると、救助に来た最初の男性が、亜紀のこめかみに左手の人差し指を、とん”と置いた瞬間。

亜紀はその場に崩れ落ちてしまう。


その後、もう一機のヘリが到着し、亜紀と真魚を連れ去った。