空殻わかっているねえ。それでいいことをここまでわかっているならもう何も言うことはないねえ。椅子の上で踏ん反り返っているのが脳だとしても、首から下の先細り感は否めないしねえ。これにてお仕舞い。サヨナラの巻。すこぶる好調。明日の陽が昇ることを一切期待していないこの清々しさ。満ちて引く気持ちの取って返しがこの上なく心地良い。いいねえ。終わることは何にしても気持ちがいいねえ。
空言 見るものすべてが黒になる。 竿の先にぶら下りながら今日のひとしずくをすくい取ると唇を湿らす。 初めての食事だ。甘い。何物にも代えがたい至福のひととき。 明日も同じ陽を拝むことができるのか定かではない身にとって、 この瞬間が生きている証なのだ。 竿を斜めに構えて露草に濡れたズボンをこすりながら、 いつものねぐらへと歩を進める。 こんな生活をしているというのに五体満足な暮らしを送ることができる。 まさに奇跡だ。 いつ死んでもかまわないと腹をくくったことが 生命力に溢れるきっかけになったのか。 ひとり口の中でもぐもぐと言葉を飲み込む。 夕日に向かって目を眇めつつ、 明日は雨が降ると新聞が告げていたことに思い至り、 寄り道をすることに決めた。