ウォールストリートジャーナル
原発事故の「想定外」と「今後の想定」
東日本大地震後の津波で大きな被害を受けた福島第一原発。原子炉4基で水素爆発が起こり、深刻な状況が続いている。さまざな事象が連続して起きたことに原子力安全・保安院などは「想定外」としているが、はたしてそれは不可避だったのかと、疑問を差し挟んでいるのが、原発の危険性を告発し続けてきたノンフィクション作家の広瀬隆氏。

- Reuters
- 原子炉の図を見せながら、記者の質問に答える東京電力の社員。東京電力は、放射能レベルが人体に影響が出るレベルになったと説明した(15日)
ダイヤモンドオンライン によると、同氏は「津波そのものによる天災は、避けることができない。これは日本の宿命である。しかしこの悲惨な原発事故は人災である」と指摘。今回の津波の高さについては「本当に予測できなかったことなのか、1896年の明治三陸地震津波では岩手県沿岸で最大約38.2メートルの津波の高さも記録されている。『想定外』の言葉を安っぽく濫用するなとマスメディアに言いたい。被害が出たあとに、被害を解析してくれても困る。事故後に『想定できなかった』ということは、専門家ではない」と断じている。
福島第1原発の爆発事故の緊急対応に動員されたのが中央特殊武器防護隊だ。陸上自衛隊の対核・生物・化学(NBC)兵器専門の化学科部隊である。NBC兵器による攻撃を受けた際、有害物質を検知し、汚染された隊員を除染するのが主要な任務。14日に起きた同原発2号機の爆発事故では、給水作業中に隊員4人が負傷している。毎日新聞などの報道 によると、自衛隊は東電からは給水作業が「安全だから」と言われ、指示された活動だっただけに安全性に対する東電などの判断に疑問が噴出したという。これも自衛隊にとって想定外の任務だった。
日本の原子力行政は、2001年1月の中央省庁再編に伴ない、原子力の開発利用に関して主に内閣府、文部科学省及び経済産業省が担当することになった。内閣府の原子力委員会は原子力平和利用の推進に関する政策、原子力安全委員会は原子力安全に関する政策をそれぞれ担当。文部科学省は主に科学技術としての原子力研究開発、試験研究炉等の安全規制、環境モニタリング、放射線障害防止などを扱う。経済産業省ではエネルギー利用における原子力政策を資源エネルギー庁が、原子力安全規制を原子力安全・保安院がそれぞれ担当することになった。これについては、原発推進を進める経産省内に置かれた特別機関である原子力安全・保安院が原発のチェック機能で独立性を保てるかとの指摘もある。
今回の事故では原子力安全・保安院の関係者が頻繁に記者会見に臨んでいる。「なぜ保安院の人は謝らずに威張っているのか 」と自身のブログで指摘しているのが武田邦彦氏。同氏は定説とは異なる独自の視点で環境問題などに関する著書がある中部大学教授。同氏は「原子力委員会が推進、原子力安全委員会が抑制ということになっていたが、政府がいつの間にか、原子力安全・保安院というのを作り、抑制機関無しの原子力行政を始めた」と指摘。同氏によると、この原子力行政が「地震対策はしてきたが、津波が起こるとは知らなかった、などという奇妙な言い訳を作り出す原因にもなった」と批判的だ。
もちろん、これらの意見は鵜呑みにはできない。本紙の「国民の不信感とも戦う原発当局 」の記事も、政府の監督の不備が福島原発の問題の一因になった証拠はないと指摘している。しかし、国民を落ち着かせようとする政府の試みが、受け取る側の認識に誤解を与える恐れも考慮する必要がある。記事では原子力コンサルタントのジョン・ラージ氏が「日本政府は格納容器に問題がないと言うが、その言葉は激しい爆発の光景を見たときの認識と矛盾する」と指摘。「当然ながら、国民をパニックに陥れたくない」ための言葉だという。
ただ、本紙の「【津山恵子のアメリカ最新事情】地震大国なのになぜ 米市民が日本に不信感 」によると、米国から救援を計画していたボランティア関係者が、日本からの情報はあてにならないとして、CNNやなど欧米メディアや米海軍の動きを見ながら、準備を進めているという。
現地の被災者はもちろん日本国民がだれでも知りたがっているのが「想定外だった」という言葉ではない。「可能性の段階で軽々しく見通しは示せない」という見解は十分理解出来る。ただ、事態が一段と予断を許さないなか、今後予想される不測の事態に備え、当局が想定していることを真摯に国民に伝えることも必要ではないか。
記者: 宮本 辰男
参考リンク:「原子力安全・保安院」とは≫
