【2018.10.12例会 尾坂明義会員 卓話】
今日は大学の研究の在り方について話をしてみたいと思います。
研究の中にも偶然や偶発性というものが重要な要素になることがあります。これを受け入
れるだけの余裕のある研究活動というのも必要なところです。
筑波大の白川先生のノーベル賞受賞につながった,高分子伝導体を発見した事例では
、実験を受け持った学生が薬品の配合量を間違って予定の10倍の量で
行った結果、まったく予期せぬ真っ黒な物質が出来上がりました。なんと電気の通りが格
段に優れた物質ができたということです。実験を指示通りにしなかったということで学生
を責めるのではなく、「これは面白いじゃないか」ということで「調べてみよう」という
風になったのでしょうが、当時はそういう“心の余裕”があったと思われます。
私も永年工学部の中で研究生と一緒に色々と研究して参りました。学生は良い結果を出
そうと懸命に研究に励みます。自分の思い通りの結果を求めます。しかしそれだけではダ
メで曖昧さや偶然を受け入れる気持ちも必要なわけです。また何より実験を重ねることが
大切です。先般ノーベル賞を受けられた本庶教授も相当の実験を繰り返されたはずです。
先生がどのくらいの予算をお持ちだったかはわかりませんが、たくさんの研究の積み重ね
がノーベル賞につながったと思います。私も研究室の研究予算を確保することに苦労しま
したがそれだけの研究を確実に行うことも大変でした。
米国の NSF(国立科学財団)は8000億円, NIH(国立衛生研究所) は4000億円,企業
からの資金供与を含めると,日本の文部省予算の10倍ぐらい持っているとも聞きます。日
本の大学全体での科学研究予算は4,000億円前後であります。イージス艦一隻が4,500億円
でありますから金額的にはそんなに大きなものではありません。4,000億円あれば日本の大
学全体の研究者の研究予算が賄えるということです。今後もたくさんの費用とたくさんの
人的資源が不可欠です。
今大学の底上げが強く求められています。基礎力をしっかり築いていかないと今後の日
本はないと思います。ノーベル賞も30年から40年の長い実験や研究の積み重ねの成果であ
ります。今の日本の研究活動、大学の研究活動おいては予算の問題もありその基礎力が落
ちてきているように思います。今教育を受けてる人がノーベル賞を取れるかと聞かれ
るとそこまでの力や余裕がないのではないかと思わざるを得ません。日本全体の基礎力を
上げなければ未来はなく、正に変革が求められていると思います。