呆然とするおれを挟んで、保食神と呼ばれたりなさんと犬神がケンカを始めた。

 「だぁって犬怖いもん!!

 いきなり吠え掛かってくるから悪いんじゃない!

 お腹すいたんならそういいなさいよ!」

 旨ソウナニオイガシテ、夢中ダッタ。

 「・・・ほら、おまんじゅうならあるわよ。」

 またもどこからか、りなさんは温泉まんじゅうを取り出した。

 ただし、差し出した手はものすごく引けていて、犬神には届きそうも無い。

 彼女が差し出したまんじゅうを、おれから犬神に渡してやった。

 「はい、これで仲直りできるよな?」

 ただでさえ混乱しているのだから、ケンカだけでもおさまってほしかった。

 ウマカッタ、感謝スル。

 犬神は落ち着いた様子でそう言った。

 (形としては頭に浮かぶ文字だったが)

 りなさんが、ホッとした表情になる。

 すると、今度は犬神がうなだれた。

 ダガワレハ、呪ウコトシカデキヌ。

 コノモノハソレヲ望マヌ。

 神タルオマエニモ呪イノチカラハイラヌ。

 呪イノ塊タルワレハ、ワレハドウスレバヨイ?

 礼モデキナイデハナイカ。

 「別に、このくらい」

 おれの言葉を待たず、犬神は続けた。

 生ミ出シタ者モスデニナク、

 ワレハ、コノママ消エルベキナノカ?

 自分の存在意義にまで考えが及んだらしい。

 「うーん・・・。」

 りなさんは考え込んだ。

 おれは思わず声をかけた。

 「それは待って!よかったら、うちにおいでよ。」

 気づくとそう口走っていた。

 「妖怪とかってやっぱり、消えたりてできるでしょ?

 ウチにもいるんだ、一人。

 だから、なんとか一緒に暮らせると思うよ。」

 犬神は顔をあげ、おれを見る。

 ニンゲン・・・。

 「おれは、ヨシアキっていうんだ。」

 ここで、考え込んでいたりなさんがまた話に参加してきた。

 「ねえねえヨシアキ。」

 「はい?」

 「ヨシアキの家にいるのって、もしかしてタマってコ?」

 おれは驚いた。

 「え?タマを知って・・・?」

 その顔がおかしいのか、りなさんは小さな声を出して笑った。

 「うふふ。そっか、意外と普通の人なのね。」

 「は?」

 「なんでもないの、独り言。

 さっきの話に戻るけど、だったらヨシアキんちはダメよ。」

 「え、どうして?」

 タマちゃんは、キツネでしょ。

 キツネは犬を怖がるのよ。」

 犬神は、またうなだれてしまった。