「なあヨシアキ、その狐って会えねぇかな?」

 頭をひとしきりばりばりかきむしった後、ショウリは言った。

 電話のこちら側で、涙目のヨシアキが答える。

 「どうなんだろ。

 動物とは違うから、おれたちにも見えるもんなのかどうか・・・。」

 「とにかく、誤解をといてソイツからも何とか言ってもらえばタマだって信用するんじゃないか?」

 ヨシアキの表情がパッと明るくなる。

 「そっかあ、そうかも!

 じゃしょーちゃんも来てよ。」

 「オレそいつ殴るかもしんねーぞ。」

 「あはは、それはさせないから。」

 「ふん、じゃしっかり止めてみろよな。」

 話がまとまったところで、ヨシアキの部屋のチャイムが鳴った。

 チロリロリーン。

 「あ、ごめんしょーちゃん誰かきたみたい。

 細かいことはまた今度ね。」

 「おー。じゃーな。」

 ヨシアキは電話を切ると、玄関へ向かった。

 「はーい、どちらさまですかー?」

 ドアの鍵に手を伸ばしながら、スコープを覗き込んだ。

 「隣の、織田です。」

 ドアの前で名乗ると、山形さんはすぐにドアを開けてくれた。

 「あ・・・と、こんばんは。どうしました?」

 驚いた顔をしている。

 急に来られて迷惑だったのかも。

 わたしは、まず謝ることにした。

 「すみません、お邪魔でしたか?」

 「そんなっぜんぜん、でも、どうしてかな、と。」

 勢いよく首を振る山形さんに、わたしは持っていたものを差し出す。

 「あの、これ・・・手伝って頂きたくて。」

 山形さんは、うっすら口を開けてそれを見つめる。

 また驚いているみたい。

 「これって、ロールケーキですよね?」

 わたしのお気に入りのお皿の上で、ラップに覆われているハーフサイズのさらに半分のロールケーキを山形さんが指差した。

 「はい。ランコントルってお店、ご存知ですか?」

 売っていたお店の名前を出すと、山形さんはすぐに反応してくれた。

 「あーっ、知ってるよ!・・・っと、すみません。」

 つい敬語を忘れて、山形さんは苦笑した。

 8つも年上なのだから、敬語なんて使わなくてもいいのに。

 礼儀正しい人なんだな、と思う反面で少し距離を感じてしまう。

 だから、謝ってくれたけど本当は、敬語を忘れてくれてちょっと嬉しかった。

 「いいんです、普通に話していただいても・・・」

 なのに。

 「いやいや、すみませんでした。」

 と、大人の対応であっさり却下されてしまった。

 やっぱり、ただのお隣としてしか認識されてないんだなぁ。

 山形さんは優しいから、結構仲良くなれた気がしていたけど。

 肩透かし感を味わっているわたしに、気づかず山形さんは話し出す。

 「おれね、あのへんに実家があるんですよ。」

 「え?そうなんですか、桃苑ですよね?」

 「うん、最寄駅っていうと桃苑になります。

 だから、ランコントルも行った事ありますよ。」

 にこにこする山形さんは、お菓子を貰った子供みたいな表情をしていた。

 お菓子・・・そうだ、ロールケーキ。

 会話に気を取られて、まだわたしはロールケーキの乗ったお皿を自分で持ったままだった。

 「あ、じゃあこれ。

 友達と一緒にハーフサイズを買ったんですけど、一人だとそれでも多くて。」

 かといって、一切れではちょっと少なすぎて買いにくい。

 すぐに山形さんの顔がうかんで、半分づつならちょうどいいかと思えた。

 もちろんそれでも多いけど、別にダイエット中でもないし、好きなんだから、たまには。

 山形さんをすぐに思いついたのは、好きとかそんな男女の感情じゃなく、女友達に近い感覚。

 自然に、持っていってあげようと思えた。

 見た目も、声だって普通の男の人なのに、一晩二人きりで居ても怖くない、何も起こる気がしない、そんな感じの人。

 そう思っていたのに、ありがとう、とお皿を受け取った山形さんは

 「あの店、女の子がみんな可愛いから、おれみたいなおじさんは行きづらいんですよね、はは。

 だから、嬉しいですこれ。」

 と言った。

 山形さんは32歳のはず。

 おじさんといえば、おじさんの年齢。

 でも、それより気になることがあった。