島村 美由紀

島村 美由紀

都市計画、商業施設計画、業態開発等のコンセプトワークやトータルプロデュースを手掛ける
弊社代表・商業コンサルタント 島村美由紀の執筆記事を紹介していきます。

『感性仕事術』
島村 美由紀 著   定価:1,400円
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“臨機応変”という自分の力をつかってみよう。

販売士 第59号 (2025年12月10日発行)女性視点の店づくり㊹ 掲載

 

 

「会社から言われているので…」

 

 全国53店舗を展開する有名ワイン専門店での出来事です。知人に小さなギフトをとその店へ行きました。接客をしてくれた店長らしき40代の女性に「7,000円程度のワインを」と伝えると何種かを薦めてくれ、その中の1本を選びました。会計時にギフトボックス(有料)に入れるかを問われたので仰々しい包装は不用と思い「普通の包装で。プチプチ(気泡緩衝材)には包んでくれるでしょ?」と聞くと「プチプチに入れてからショッパーに入れます」との話になりました。

 

 支払い後、別用で店を離れ10分後に戻ると店長はカウンターのショッパーを手に取り「出口までお見送りします」との事。小さな店なので大げさだなと思いつつも、有名ワイン専門店は丁寧なのだろうと理解し4~5歩先の出口まで店長の後に従いました。彼女はドアを開け足は店内で上半身だけ乗り出し、左手でドアを押さえつつ右手でショッパーを私に手渡しました。その姿に「ママが出勤するパパを見送るようだ」とびっくりしました。

 

 店を後に歩き出しましたが、手渡されたショッパーを見ると細長い袋状のプチプチに入ったワインの口がパカンと開いています。プチプチ上部が閉じられていないのです。しょうがなく店に戻りカウンターにいた人に「有料でよいのでギフトボックスに入れて欲しい」と頼みました。先程の店長が顔を出したので「テープ等でプチプチの口を閉じないと包装の意味を成さない。ボトルが袋から飛び出す危険もあるのでは」と言うと彼女は「会社から言われているやり方です」と答えてきます。「このワインはギフトだと説明したはず」と私が言うと「言ってくだされば無料でプチプチの口にリボンをかけました」とのセリフが返ってきました。

 

 会話が成立しないと思い、そそくさとボックス代金を払ってワインを受け取り店を後にしましたが、大きな疑問が残る出来事でした。

 
 

忘れられた“臨機応変”

 

 疑問とは細かなやり取りではなく「会社から言われている」という彼女の使った言葉です。

 

 考えてみると近頃よくこのセリフを耳にするようになりました。「会社のルールです」「前からこうなっています」「上から言われています」いつの頃からか接客時や外部との交渉時にこのセリフが使われるようになっています。

 

 ワイン専門店では有料ギフトボックスの包装や簡易包装のやり方が会社で決められ、それに従って店員は対応しているという事なのでしょう。多くのお客様は“ルール”と言われると「しょうがない…」と諦めるのでしょうが、ワインボトルを緩衝材であるプチプチに包んで上部を閉じないのは包装の体を成していません。

 

 この店の人たちはこのやり方では万が一の事が起こるかもと感じ、自分たちの判断でプチプチの口を閉じようとは思わないものでしょうか。この包装ではお客様が気持ち悪いだろうと感じないのでしょうか。そして“臨機応変”に口を閉じるという行動につながらないのでしょうか。なぜ自分の気付きへの機転を利かせないのでしょうと感じ、同時にこれが私たちの判断力や気付きを潰している“マニュアル化”という恐ろしい化け物だと思いました。

 

 ちょうど同じ時期にクライアントの中堅社員とやり取りをしていて「既存の方法より○○を工夫する方が合理的では」と詳しく説明し提案すると、中堅社員はNOと言います。「時代が変わったので○○が適応力あり」と言っても「昔から会社が決めたやり方」の一点張りでした。しかし、後日の資料では私がアドバイスした方式が記載され、中堅社員は変更理由もなく以前からそれであったかのように涼しい顔で説明しています。「おや、この人はNOと言いつつ考えて社内調整を図ったのだな」と思いました。

 

 問題は自分で考える事をしない人たちの増加です。マニュアルはとても便利な手引きです。そこに示してある事を是として物事を進めれば仕事をやった事になるのでしょう。「会社が決めた」「上が決めた」が全ての基準になり、自分の考えやその時の状況把握で判断するという苦労を伴う自己作業をやる必要はなく“誰かが決めたやり方やルールに従う事が楽な仕事”になってきているのでしょう。

 

 前述のワイン専門店店長もクライアントの中堅社員も40代半ばで、すでに仕事キャリア20年強、人生キャリアも長く何がよいのかを考える力は十分持ち合わせている年齢なのです。状況に応じて対応する、機転を利かせるという“臨機応変”をすっかり忘れてしまっているのですね。

 

 

AIが教えるマニュアル化とは

 

 実務の手順やルール、品質基準等をデータでまとめ誰でも同じ作業を行えるようにする事。業務の均一化、効率化、生産性向上、意識共有、教育コスト削減、ナレッジ(有益な知識や事例)の蓄積という、マニュアル化の利点が挙げられています。しかし、臨機応変さ、考え行動する機会の減少とマニュアル作成・更新・管理の手間がかかるという欠点もAIでは挙げられていました。

 

 そして注目すべきポイントは「創意工夫や観察力、人間関係に基づく意思決定が求められる業務には不向き」ともあります。良い事言うね。AIは‼
 

 

 私たちの仕事はまさに創造性や人と人のコミュニケーション力とその場の直観力でモノやコトを動かしていく仕事です。「会社のルール」や「上が決めた事」を口にする前に自分のアタマ(知恵や経験)やココロ(お客様への気遣い)をまず働かせてみませんか。

 

 私も今回の出来事で“臨機応変”という4文字を久々に思い出しました。確かに昔は先輩から「臨機応変に動け!」などとよく言われた馴染みの言葉でした。臨機応変は英語では“Flexible”であり「フレキシブルに動こう」「フレキシビリティを持って対応」など今も日常的に使っている単語です。

 

 再度、自分たちの持つ力を発揮しなおすチャンスになるはずです。

 

 

(島村 美由紀)