その島はそこにあった…。 昔からずっと。 なにぶんあまり大きくない為人口も少なかった。 子供達は20人もいなかった。 大人ですら100人いればいいところだ。 その村の年寄りの間では言い伝えがあった。 親の親のそのまた親…何代も前からの事だ。 それは江戸時代の頃だろうか? 若い娘がいたそうな。 見た目もそれは美しい娘で村の間ではよく娘の名が話のネタにあがっていた。 娘はおとなしい性格らしく、大きな声を出すこともなかったが、心に秘めた想いがあったようだ。 そう…それはこの島から出るという夢だった。 娘は広い世界を見たかったのだ。 その願いは叶う事はあり得なかったのだが、いつかはとずっと思って来ていた。 だが、そんな娘の思いを知らない両親達は娘が年頃になると嫁ぎ先を探すようになる。昔から娘は子供を産むためのみに存在すると言われていた為女性達はそのしきたりに従い守ってきた。でも納得できなかった娘は嫌がり親に反抗した。 ある夜、娘は逃げ出すことにした。 わずかなお金を持って…。 翌朝娘がいなくなったことに気がついた家族は真っ赤になって探すことにした。それは恥と思われていた為親戚も駆り出して村じゅうの人間が探したのだ。 学校に行くまでは義務教育の為話の話題にもならなかったのだ。 必死になって逃げる娘、追いかける村人。 人数の差が徐々に行動範囲を狭めていく。 娘はこれ以上は逃げられないかもしれないと腹を括って包丁を手に入れた。 何をするのか…誰も想像もできなかってのだが、娘は村人に見つかったら自害するつもりになっていた。 好いた相手でも無い人の子供を産むことも嫌だったし、何より娘は子供を産むためだけの道具と思われていたのも嫌だったからだ。 そうこうしているうちに1人の村人に見つかってしまった。 もうダメだと観念した娘は包丁を持ち直して叫んだ。 「私のことは忘れてください。私は村のしきたりに従うことはできません。好きでも無い人の子供を産むこともやですし、もっと広い世界を見てみたいんです。」 だが村人は誰1人として助けの手を差し出すものはいなかった。 悲しそうな顔をした娘はもうダメだと諦め、思いっきりお腹に包丁を突き刺した。 そして近くの川に入って行った。娘が通った川の色は真っ赤に染まっていた。 「憎い。なぜそうまでして私の思いを踏み躙るのか。このままにしておかぬぞ。こんな村呪ってやる。」 そう言いながら川の中に消えて行った。 それからだ。 村の赤ん坊に娘が産まれなくなったのは。 時代が変わっても娘は生まれなかった。かれこれ150年になる。 そんなある日、たまたま里帰りしていた娘が孕っているということで性別を聞いたら女児だというでは無いか。たいそうな喜びようで、村を上げてのお祭りとなった。 だが村人はわかっていなかった…。 身重の女性は島中の人間に大層可愛がられた。 だが日が経つごとに徐々におかしくなっていく……。 ケラケラと笑いながら川に入ろうとしたり、まるで獣のような雄叫びをあげたりするのだ。挙句に尖った道具を手に振り回す始末。 一体何が起こったのか村人はわからないままでいた。 そんな中、1人の若者が昔の文献に興味を持っていた為読んでいることを皆に話、昔の事を話して聞かせた。 みなしんとした…。 誰も彼も信じられないという顔をしていた。 当たり前にしてきたことが1人の女性の呪いによって村に禍が。 身重の女性はその後すぐに旦那と共に村を出て行った。 その後どうなったかはまだ聞いていない。 村人は村に男児しか生まれないのはたまたまだと思っていたが、どうやら呪いによるものだと知り、神社仏閣に祈りを捧げるようになった。 年頃の息子を持つ家族は息子を村から出るように言いつけた。そうなるとますます人の数は減って行った。 それでもなんとか年老いた村人は残り、祈りを捧げた。 そんなある日、青年がやってきた。 しかも全部で5人。女性もいた。 何しにきたのかわからないので聞いてみたが、なんでも動画を撮る為にやってきたらしく、怪しんだ村民は1ヶ所に寝る場を提供するだけで特に何もしなかった。 だが色々と準備をしていたらしく、食事の間も事足りた。 そもそもなんでこの島にやってきたのかを1人に聞くと村を出た人がいて、怖い話があると聞いたからだという。 怖いもの見たさかもしれないと呆れたが、放っておくことにした。何かあっても自己責任でとは言ってあるから問題ないだろうとのことで。 それがどうやら思うようにはいかなかったようで、様全体が恐怖に包まれ村民全員が逃げ出すことになるなんて考えもしなかった。 青年達はまず昔の地図を見ることから始めた。 なんでそんなもんが必要になるんだ?と頭を傾げたが、わからないまま青年達に知っている事を話して聞かせた。 そこは昔、ある娘が住んでいた場所。そう言われ聞かされてきたところだ。 なぜそんな場所が気になるのか…聞いてみたが女性はなんかはっきりしない。トランス状態になっているかのようだ。 目が白目になっており不気味でしかなかった。 他の仲間達も多少は怯えているようだが、キモが座っているのか度胸はあるようだ。 それからだ。 おかしなことが起き始めたのは…。 いるはずのない場所に人の姿を見かけたり、物が動いたり。 青年達はそれでも映像を撮り続けた。 一体何がそんなにいいのかわからない年長者達は苛立ち、陰で色々と言い合うようになった。 「なんであんな若者達をこの島に入れたんじゃ?静かだった村が変わってしまったわ。」 「そうだそうだ!あのもの達がきてからだ。島におかしなことが起きてきたのは。」 「なんとかならんものかのぅ?」 「そうは言ってもきっと絶対に動かんぞ?」 「う〜ん。腹が立つ。」 「そうじゃ。わしらが取り憑かれた風を装い、奴等を脅かしてはどうじゃ?」 「おお、それはいい手じゃないかな?」 「そうだそうだ!」 「ならすぐに動くとするかのぅ。」 村人は口づてで村中の人間全部にこの事を伝えた。 そうなるともう村中でヒソヒソ話が止まらない。 青年達はそれでも映像を撮り続けた。 変わらないのだ。だが、彼らにもおかしなことが起きてきたのは島に来てから1週間が経った頃だった。 唯一の女性メンバーがまたおかしな事を言い出したのだ。 「呪い。続く。今度は男子に。クックック。」 「な、何言ってるんだよ。俺らは関係ないって。この島の人間じゃないしさ。」 「皆、居なくなる。島廃れる。無人島となる。」 「はぁ?何言ってるんだよ。おい。」 そう言いながら女性メンバーの両肩を思いっきり揺する。 これはもうただ事ではないと感じ、村長?らしき人のところに急いだ。 映像が残っているため見せるだけで良かったのだが、その肝心の映像が消えていた……。 だとしたら、僕らで見聞きした事を伝えないとヤバい。 青年達は身振り手振りで一生懸命に伝えようとしたが、もうこの頃には村人は結託して呪われた風を装うことにしていたのでそれを知らない青年達は驚き恐怖した。 慌てた青年達はすぐに帰宅の準備を始めた。 メンバーの女性は相変わらずだが……。 泣きそうなメンバーもいたが、泣くとますます言われるのはわかっている為口をつぐんで我慢した。 青年達が帰る日海は荒れ模様だった。朝はそんな事なかったのに。 仕方がない為村人はもう一晩だけと渋々泊めてくれた。本当なら一刻も早く帰ってもらいたいのに…。村人達もきっとこんな思いだったんだろう…。 その日の夜は荒れていた。 風も強いし、雨も降っていた。 青年達はやることがなくなってしまった為、今まで撮った映像の編集をする事にした。 所々に何かが映り込んでいた。それはぱっと見では気づきにくいものだった。 だけど、しばらく見ていたら女性メンバーの様子がおかしい。全身が震え出し、洗面器に水を張って顔を突っ込んだ。手はあらぬ方向で震えている。 そんな映像撮ったか?って思い、しばらく見ていたら水飛沫が出てそこから逃げ出そうとしているのが見ていてわかった。しかししばらくしたら動かなくなった。え?動かなくなった?でも彼女ここにいるぞ? 皆が女性メンバーの方を見たら、髪はボサボサでギリっとした不気味な眼光が見てとれた。 慌てたよ。皆がね。 でね?その場から逃げ出したんだ。 近くに住む村人が何事だと慌てて出てきたら女性メンバーが他のメンバーを襲おうとしているのを見てしまった。 気づかれないうちにまた家の中に戻り、電話の連絡網で慌てて連絡する。そして家の中で1番安全だと思われる防空壕に隠れる。だが防空壕に入ってしまえば外の様子はわからない。 誰かが様子を見にいかなくては…。そこで村から1番ハズレの民家に住んでいた男性に頼むことになり、男性は恐る恐るそーーっと防空壕のドアを開けた。すると外の景色が見えた瞬間目の前に真っ赤な顔をした女性の姿が。 慌てて閉めようとしても力任せに開けようと引っ張られる。一体どこにこんな力があったのかそんなことが頭の隅をよぎったが、もう閉められないなら開けて出るしかない。幸いにも今男性がいる防空壕は1人だけしかいなかったので、躊躇いはなかった。 ドアを持つ手を離すと女性は後ろに転んだ。その隙に男性は立ち上がって走り出す。他の仲間がいるところまであと少しというところで女性に捕まった。 なんていう怪力だ。掴まれた手首が悲鳴を上げる。痛みしかない。 だがまだ諦められず大声を出して助けを求める。すると女性の仲間達がわーっと走ってきて手に持っていた紐でぐるぐる巻きにする。 「はぁはぁ、これで時間が取れるかな?」 「いや、まだ油断できないぞ!ものすごい怪力で掴まれたところが今も痛むしな。」 「そ、そんなぁ〜。」 「一刻も早く島を出ろ。この荒波だが、時期に止むと思う。いいか、行け!」 「仲間と共に島を脱出する。そのための用意はしてある。」 「分かった。じゃあここで。」 「死ぬなよ?」 「アンタもね。」 そう言って二手に別れた。 青年達は必要最低限のものだけ持って島を後にした。あの女性メンバーには悪い事をしたと思ったが、やりようがなかった。申し訳ないと祈った。 一方、村の全員を乗せた船が出発した。貴重品だけ持って…。 目の前には真っ赤な目をした女性メンバーが1人崖のそばを立っていた。 いやな風が吹いたと同時に女性の姿がその場から消えた。 すぐ近くの海面で水飛沫が上がった。 まさか…泳いでくるつもりか? 皆固唾を飲んで見守ったが、結局女性は諦めたか島に戻って行った。 それ以降誰も島には足を踏み入れてはおらず、国からも無人島として登録されるようになった。 島民は国から与えられた土地に住むことになり、皆固まって住むようになった。 そしていつからかその島は呪われた島と呼ばれるようになった。