その日の夜、いつもは見ない夢を見た。
よほど疲れてたんだなぁと思いながらももう一人の自分がなにか喋っている。何だろう?
もう一人がいる場所は…知らない場所みたい…。
ボソボソと独り言を言ってる気がするのだが、何を言っているのかなぜかわかってしまう私がいる。
なんでだろう……。なんかよからぬ感じがして寒気が取れない。
もう1人の私は全く気づいてなかったが私は気づいた。
壁にもやのようなものが立ちこめるのを。
それはやがてかたちを作り、黒い人影となった。
「ヒィィィィ。」私は慌てて口を噤んだが、相手の方には気づかれてないようでほっとした。
目の前の自分の分身はそりゃもう驚いたのなんのって……。言葉に言い表せない程だった。
壁伝いにドアを探した。出口から逃げようとしたのだ。でも肝心の出口は黒い影の後ろにある。
なら窓から飛び出るしかない。
あいにくここは一階。出られないわけではなかった。
慌てて窓を開けると柵をまたいで飛び出した。
「フゥ……助かった、かなぁ?」
助かったと思っていた。
でもね、なんか変なの。
壁にもやのようなものが立ちこめていた。
霊によって黒い影だ。
ヤバい!
なんでこうなるの〜?
私が何したっての?
全力でダッシュしたが、しばらくすると横っ腹が痛くなる。
普段使わない筋肉を使ったせいとはわかっているが、逃げる事で頭がいっぱいでほかのことには気が回らなかった。
だからさ、逃げても逃げても追いかけて来る。
どうしたらいい?分かんない。泣きそう……。
走る足も疲れが見え始めやがて歩き出す。
走れないのだ。
疲れてしまって…。
その時耳元に生暖かい風が吹いた。
分かっちゃったんだもん。怖いよ。怖いけどこのまま逃げ続ける体力もない。意を決して振り返った。
そこには……。
口だけが大きく開いた霊が立っていた。
目も鼻もない。
普通の人の倍はあろうかと言うくらいの口の大きさに私は怖いを通り越して泡を吹いて倒れた。意識が無くなったのはどのくらいだったのか。
気が付いたら誰もいなかった。霊も何も。
一体なんだったのか……謎でしかない。
ただあの恐怖にまた遭遇したら耐えられそうもない。
口元をハンカチで拭いて携帯で時間を確認するも気を失っていたのはせいぜい1時間くらいだろうかというとこのようです。
起きなきゃ。
怖い体験なら雑誌とかに投稿できるじゃんと忘れる前にノートにメモをし始めた。
するとね、背筋が寒いの。
何でだろう?
あれって夢…だよね?だから私は無事に済んだんだよね?
でもおかしいな…誰かがいる気配がする……。
腕を見たら鳥肌が立っているじゃないか。
ほんとにどうしたんだろう?私の体は。
それでも何とか文章を描き続けた。
大丈夫、まだ覚えてる。
恐怖との戦いだった。
なんでこんなことになってしまったのか、私には分からない。たかが夢。だけど夢。
ようやく全てを書き終えると1度読み直してミスがないかをチェックした。どうやら間違いはなさそうだ。
ホットしたら背中が寒くて堪らなかった。
そうだ、さっきなんか変だった。
夢と現実がごっちゃになっちゃってるのかなぁ?
でもね?
ある瞬間私はその場で固まってしまった。
そう、鏡を見てしまったのだ。
ほんのわずかの隙間から見えた鏡に写るそれは明らかに男性だった。
そう、数日前に雪の中から助け出したけど助からなかった男の人だ。
口だけだからはっきりとは分からないが多分そう。
何がしたくて出てきたのか。
なんで私のところにでてきたのかはわからない。
でもやっぱり霊は怖いよ~。
数珠も何も持ってないからただお祈りした。
どうか成仏してくださいって。
それと霊として出るなら娘さんのところにお願いしますって祈っちゃった。
ただそれ以降私の元には現れることはなくなった。