よく聞くよね?
恋愛には白魔術がいいって。
その反対の呪いは黒魔術。
僕はどちらかというと後の方の部類の呪文を集めるのが好きで、古文書など文献をあさって解読するのが好きだった。
なぜ好きだって?そりゃ使いたい相手がいるからさ。

近所に住む口の悪いババアとか、頑固なジジイとかさ。こっちの話を全く聞かずに頭ごなしに怒鳴ってくるからこっちも腹が立って怒鳴り返す。そんなことをかれこれ何年やってるんだろう?
ひとん家の事を言うならまず自分の家をどうにかしろって言ってやりたい。いわゆるゴミ屋敷。
腹立つよ、そりゃ。
夏は臭いし、汚いものが散乱してるし、環境にも良くない。近所ではちょっとした有名人だ。

皆、関わり合おうとはしないのでますます付け上がる。一時期ネズミやゴキブリが大量発生して市に苦情を入れ、掃除を頼んだのだが,敷地内のことには手が出せないと取り合ってはもらえなかった。
今ではその家の屋根にカラスがうじゃうじゃやってくる始末。
なんとも思わないのかと問いたい。


そんな時事件が起きた。
その家の近所でぼや騒ぎがあったのだ。
幸いにも火はすぐに発見され消火できたのだが、もし万一の事があったらどうなっていたことか。

もうこうなったら僕がなんとかするしかないという正義感からか禁断の黒魔術に手を出してしまった。
呪いにもいくつか種類があり,ちょっとした怪我から最悪のケースまで様々だ。僕はそこまでする気はなかったので、ちょっとした怪我程度で済むものを呪いとしてかけようと思うようになっていた。

必要な材料の中で特に手に入りにくいものはあるにはあったが、なんとか手にすることができると後はいつ決行するかということくらい。
始める前に体を清めなくてはならないからだ。
そして準備ができるとすぐに始めた。
呪文は簡単に言えた。
手順に間違いはない。
これで小うるさいジジババが大人しくなってくれればいいなと思っていた。
ところがある日あり得ないことが起こった。
呪文をかけた相手が亡くなってしまったのだ。
しかも2人とも。
慌てたよ。
だってそうだろ?
怪我程度でまさか死ぬなんて思いもしなかった。
2人とも不可解な死に方をしていた為、すぐに警官が近所に聞き込みを行っていた。
僕は焦ったよ。でも証拠は何もない。当たり前だ。ただの呪いだからだ。
相手に触れてもいない。
ただ警官は違う。
まず疑ってかかるのだ。
あいにく僕はその時間は友人と会っていた為アリバイが取れた。助かったよ。
でも怖かったから友人にちょこっとだけ話しちゃったんだよね。
そしたら友人ちょっと引いてたな。
「僕にはやるなよ?」って言ってたけど、僕もやるつもりは一切ない。だって憎いって思った事ないもの。それに例の2人の死因が気になって仕方がなかった。
本当に呪いで人は死ぬのか?
分からない。
そんなわけないよね?
過去にだって使ってみたけど何にも起きなかったし…。単なる偶然?

そんな事があった日から深夜になると目が覚めるようになった。夢に出てくるのだ。亡くなった2人が…。
なんで僕の所に?
まさか…死んだ時に知ったのか?
そんなことわかるわけないよね?
不安に押しつぶされそうになっていた。
だって…だって、単なる軽い怪我程度の呪いだよ?
なんでそんなんで死ぬ?
あり得ないだろう…。

それからは睡眠が取れなくなり、病院に行くことになってしまった。でも処方されたのは睡眠が取れる睡眠薬。寝たくないのになんで飲まないといけないんだ?あいつらが出てくるんだ。
あの2人が。
死んだ時の格好?ってやつ?
顔が血だらけで気味が悪い。
徐々に近寄ってくる2人。歩いているというよりもういてるって感じかな。
僕のところにきて一体どうしたいのかとも思ったりしたが、答えは出てこない。
恐怖しかなかった。
もしこのまま目覚めなかったら僕はどうなってしまうのか?
夜が怖い。
でもそのうちにさ、昼間に眠くなって寝てしまったことがあった。その時も…出たんだよ。マジで。
2人が僕の手を掴んで離さない。そのまま真っ暗闇の中に連れてこうとする。僕はやだと叫んで腕を振り解こうとするも2人の力が異常に強くて振り解けない。
顔は般若のような顔になっていた。血だらけの般若だ。

「やだやだやだ!」

終いには泣き出していた…。
黒魔術なんかやらなきゃ良かった。
全て捨てる。
もうやらないから助けて。
何度も何度も願った。

そしたらさ、気がついたらそこには僕一人だけがぽつんと立っていた。
その瞬間に夢だと気づき目が覚めた。

目が覚めたらまずしたのは魔術全般に関する書類等を全て破棄すること。何年もかけて集めて来たからたくさんあるんだ。親はビックリしてたよ。何でこんなのがあるの?と聞かれても知らんぷりを通したよ。
段ボール箱4箱ギュウギュウに詰め込まれたそれを縛り直してゴミ出しの日に出したよ。全部ね。

友人にもそれに関する事は一切話さなくなった。
そのせいかわからないけれど処分した日以降亡くなった2人が僕の前に現れる事は無くなった。