逃げていた。
そう、全てのことから。
その為にこの電車に乗り込んだ。
行き先を気にする暇もなかった。
だから当然切符は一駅分しかない。
途中で駅員に言って追加分を払うか降りた先で不足分を払えばいいやと思っていた。
終電ではない為、次々と人が乗り降りを繰り返す。
しかし徐々に人の数が減っていった。
街から離れているのだろう…。所々で木々が増えている。
「あー、緑が増えてきたなぁ〜。そろそろ降りようかなぁ。次の駅は何だったっけ?」
車内には生憎と路線図はなく、古い吊革が揺れてるだけだ。
気がつくとこの車両には僕だけしかいなかった。
他の車両はどうなんだろう??
でも気にしたところでどうと言うことでもない。
まぁ、一応見てみるかと思い他の車両も覗いてみたがやはり誰もいなかった。
「貸切じゃん。」と呑気に考えていたが、電車は駅に着くことなくスピードも加速していく。
「おいおいおい!なんで早くなる?駅にはいつ着くんだ?」僕は不安になってきた。
だから車内にいるはずの車掌を探した。運転手とは別に乗っているはずだから。でもどれだけ探しても見当たらなかった。たまたまか?

先頭車両に行ったが、運転席は二階にあるらしく話しかけることもできなかった。パノラマカーというやつだ。

どうしようどうしようと内心冷や冷やしていたが、そのうちにスピードが落ちてきた。ようやく駅に着くようだ。ホッとしたよ。これで電車を乗り換えて…とかして帰れる。



電車は止まった。
でも駅が寂れている。無人駅か?
だとしたらここで降りても次いつ来るかわかんないじゃ無いのか?疑問だらけだった。首だけ車両から出して外を覗き込んだが、看板らしきものも一つもない。
だから降りるのをやめてしまった。
そしたらドアが閉じた。
そしてまた動き出した。
今はまだ先頭車両に乗っている。どこに向かうかは見てればわかるに違いないと僅かな期待を込めて外の景色を眺めていた。
そしたら突然トンネルに入った。
周りは暗いまま…どれだけ走ったろう。そのまま建物の中に入っていった。終点か?
にしては駅っぽくない。まるで車庫のようだ。まさか乗ってる人がいるの気づかなくてきちゃった…とか?
頭の上の方で音が聞こえてきた。
ドアらしき音が開く音だ。
だから僕はドンドンとドアを叩いた。
気付いて!って祈りながら。
でも気付いてはもらえなかったのか車両の電気も消えて真っ暗になった。
慌てて携帯電話の明かりを使い暗闇から逃れるが、これからどうしたものかと考えた。


手動でドアを開けられることを思い出し、それがある車両まで移動すると蓋を開けて操作した。
ドアに手をかけ、開けるとそこは真っ暗だ。
建物の中のようだ。誰一人として人の姿がない。
気味が悪い場所だと思ったよ。だってそこには墓石があったから。
何でこんなところにあるのかなんて知らないし、ここがどこなのかもわからない。建物から出なきゃと思い出たはいいけどはてさてここはどこだ?
あたり一面が何もない。
そう、草一本も生えてないのだ。
まるで砂漠のようだと思ったよ。
焦りしかない。
携帯の電波がどうなっているのかを確かめる為アンテナを見てみたがちゃんと3本立っていた。
大丈夫。コレなら最悪警察に電話して事情を説明すればなんとかなるやと思った。
でも目印がねえ…。
もう一度駅構内に戻り、この駅がどの駅なのかを調べることを始めたが、看板はおろか時刻表すらなかったので調べる術はない。
その時だ。
生暖かい風が首筋を舐めるように通り過ぎて行ったのは。
ビクッとしたよ。ホント。
だって気持ち悪く感じたから。
腕時計の針は11時を回ったとこだった。ならまだ電車は通るはず、待ってみようと思い待っては見たが30分経っても一向に電車音が聞こえてこない。
その時ジャリッジャリッと歩く音が聞こえた。誰か来たのか?
なら聞けばいいやと思った。でもそれは間違いだった。だって足だけしか見えなかったから。ここはどこ?まるであの世に迷い込んでしまったかのようだ。

それでも歩いていると道らしきものができ、そして開けた場所に出た。そう、それはさっき見た駅だった。謎が深まる。 
だってそうでしょ?
不気味な駅だったから降りずに電車に乗ってたんだよ?
それなのに何でまたここに…?
立て看板を探していたら、小さな薄い字で書かれているの。何でこんなところに?というのが正直な感想だった。

駅名は  【サカイ駅】 

「何だ?変な名前の駅だなぁ〜。」正直な感想だ。
こんな名前の駅聞いたこともない。
そう、まるでこの世とあの世の境のような駅の名だ。
虫の鳴き声も聞こえてこないから無音なのだ。不気味すぎて仕方がない。
とりあえず駅名はわかった。あとは警察が場所を調べてくれるだろう…。そう思って電話をかけてみた。
発信音はなっているが、繋がらない。
何で?
根気よくかけてみることにした。
何度目かの掛け直しの時にようやく繋がりホッとしたけれど、テレビの砂嵐のようなザーザー音しか聞こえてこなかった。
「な、何で?」
僕はこの時になってようやくコトの事態を把握することになる。
ここはこの世じゃない場所なんだ。
でもあの世じゃない。だって死人が見当たらないから。なら何処かと言うと時の狭間に取り残されているんじゃないかと考えた。

「どうしよう、どうしよう?」
焦りが思考を狂わせる。
線路を伝って帰る方法を思いついた僕は早速来た道を引き返し始めた。でも霧がかかってなかなか前が見えず思うように進めない。
携帯の明かりだけが頼りだった。


遠くで何かの音が聞こえた。
そう、電車の音だ。
走ってくる。近づいてくる。ヤバイヤバイヤバイ。

僕は歩いていたがずっと歩いていると近づく音は間違いがなく、怖くなって走り出した。
焦っても足は速くならない。
もともと運動は苦手だった。


サイレンが鳴る。
近づいてる証拠だ。
もうダメだーっと思った時に、とっさにサッと横にそれる事ができた。そこはさっき離れたはずの【サカイ駅】だった。
僕はもう怖くて怖くて何度も逃げ出したいと来た道へと足を向ける。
今度はそのまま走り続けることができ、どのくらい走っただろう…20分くらい全力で走っただろうか?霧から抜け出すことができた。
今度は有人駅に着いたようだ。だって駅室があったから。
ホッとしたよ。これで何とかなる。
ホームには誰も立っていないから駅室にでもいるのかなと思い、ドアをノックした。
しかし何の反応もない。
??
なんか嫌な感じがした。
まさかと思い、ドアを開けるとそこには誰もいなかった。
夜食と思える丼とかはそのままに忽然と姿を消していた。何でだよ!ここもダメ?
諦めて後ろを振り返ったその先にしゃがみ込んでいた駅員らしき人が2人いた。ため息が出たがいてくれて良かったと駅員に声をかけたが返事がない。その時になってなんか不自然な感じがしたのはホント。だって頭の部分が盛り上がってないから。振り返ってたたれた時僕はその場で大声で叫んだ。首がない。
もう1人もそうだった。
怖いったらなかった。
叫びながら部屋から逃げ出したよ。
そしたらさ、追っかけてくるじゃないか。

逃げなきゃ!

それしか頭になかったよ。
振り切るために全力で走った。
こんだけ全力で走ったことはないだろう…。
汗がシャツを体に張り付かせる。呼吸も苦しかった。

その時にふと携帯のことを思い出していた。

振り返って見る勇気がなかったので、そのままに携帯から110番をかけた。
【………は…い。………警察です。事件ですか?事故ですか?あなたは生きてますか?】
「ハァ?」ビックリして電話を切ってしまった。
「生きてますか?って何?何でそんなこと聞くの?これ…ちゃんと警察に繋がったんだよな?」
不安だけが募る。
それでも開けた道に出た為道沿いに走る。
疲れたら休んで、疲れたら休んでを繰り返し、2時間ほど経っただろうか?ようやく民家が見えてきた。
「やったぁ!これで帰れる。」
そう。僕はこの不思議な出来事から解放されたのだった。


それからは辛いことや嫌な事があったら今日の事を思い出して頑張ろうと思った。