RapMusical(ラップミュージカル)のブログ -2ページ目

RapMusical(ラップミュージカル)のブログ

公開はしても後悔はせず航海をしていきます。
どうだい!!

公式ホームページ http://www.rapmusical.net/
Facebookページ https://www.facebook.com/partulutulu

※話の流れが分からない方はお手数ですが第一回からご覧ください!

第九章  うざい

 マルミエール戸越屋上。屋上のドアからバーミヤン、さとし、若者が入って来る。
 「お、来たね!」
ドアの方を振り返り手を挙げるドン。ハイコ、テイジー、トビー、シームレスもドアの方を見る。
 「二階堂くん、屋上どう?」
バーミヤンがボソッと言う。
 「あ、何かすごい屋上っぽいっす」
辺りを見回しながら呟く若者。
 「でしょ、ここを屋上に見立てるのには苦労したよ。この上なく苦労した!ハハハ!」
ハイコが満面の笑顔で笑う。
 「ホント最高っすね、ソファとかもあって何か一つ屋根の下って感じっすね」
若者は無表情のままボソッと言う。
 「おーい!ボケ重ねるな!この上なくって屋上だからね!それと一つ屋根の上だから!」
さとしはハイコと若者にツッコむ。
 「ビールの人?」
シームレスが缶を片手に面々に問いかける。
 「あ、じゃあいただきます」
若者が手を上げる。発泡酒を若者に手渡すシームレス。
 「はい次、本物のビールの人?」
シームレスが黒ラベルを手に尋ねる。
 「はい!」
さとしが勢いよく手を挙げる。
 「よかったねさとし、第一のビールだよ」
シームレスがさとしに黒ラベルの缶を手渡す。
 「じゃあ一番搾りの人?」
ドンとテイジーが無言で綺麗に手を挙げる。缶を二人に手渡すシームレス。
 「ちくしょー!また一番が……」
さとしは膝から崩れ落ちる。その様子を不思議そうに見つめる若者。
 「じゃあハイコとトビーはチューハイね」
シームレスはハイコとトビーにチューハイの缶を手渡す。
 「それじゃ、新入りも加わったところで……」
ドンが古い茶色い革のソファから立ち上がる。
 「鼻見スタート!」
面々は缶を高く掲げ乾杯をする。若者も戸惑いながら輪に加わる。

 30分後。面々がサバを食べながらお酒を飲んでいる。
 「それじゃあだ名決めようか!」
ドンが言う。
 「そうだね、二階堂じゃ長くて呼びにくいし」
テイジーが言う。
 「じゃあ三階堂でどう?ハハハ!」
ハイコが大きな声で言う。
 「むしろ長くなってる!」
さとしがツッコむ。
 「なんかあだ名とかあった?」
シームレスが若者に尋ねる。
 「あんまないっすね。何でもいいっすよ」
若者は呟く。
 「そっか。下の名前は?」
シームレスが尋ねる。
 「健です」
若者が答える。
 「健か……いい名前だね!」
シームレスが高いトーンで言う。
 「普通だねって言わないんすか!」
さとしがシームレスにツッコむ。
 「健か、じゃあ高倉でいい?」
トビーが優しい声で言う。
 「絶対嫌っす。器用ですから」
若者は語気を強めて言う。
 「分かった、じゃあオレが決める!」
バーミヤンが手を横に広げて伸びをしながら言う。
 「そ、その恰好は……ジーザス」
若者はバーミヤンを真っ直ぐに見つめる。
 「オニューだな」
バーミヤンが言う。
 「オニューって!バッシュか!」
さとしがツッコむ。
 「オニュー、いいっすね、よろしくお願いします」
若者は胸の当たりに手を当てながら言う。
 「オニューか、悪くない」
ドンが言う。
 「よろしくオニュー」
テイジーが手を差し出す。握手をするテイジーとオニュー。頷いているハイコ、トビー、シームレス。
 「オニューさんさっきからバンドセット気にしてるみたいですけど、バンドやってたんすか?」
さとしがオニューに尋ねる。
 「え?あ昔ちょっとDJを」
オニューが低いトーンで応える。
 「へぇ、DJか、いいね!」
バーミヤンが言う。
 「そんないいもんじゃないっすよ」
オニューが言う。
 「なんで?」
テイジーが尋ねる。
 「まあDJやってたんすけどね、全然うまくならないんでやめたんです」
俯くオニュー。
 「そうなんだ」
テイジーが言う。
 「何でやめちゃったの?」
シームレスが尋ねる。
 「まあ学校も行かずにのめり込んでたんすけどね、だんだん周りが就職活動をする年齢になって友達とか両親からも咎められるようになって」
オニューは言う。
 「そんなの関係ねぇ!って言えばよかったのに!ハハハ」
ハイコが笑いながら言う。
 「まあそうなんすけどね。3年もやって全然上手くならなかったし、両親からは昔から失敗するな、無難にやるのが一番いい生き方だと言われて育てられたので、その時その言葉がグサッと来たんです。ホントはそんな生き方嫌で始めたDJなんすけどね、結局無難な生き方をするのが一番なのかなって思ったんです」
オニューは続ける。
 「無難な生き方ね、オレみたいな感じかな」
バーミヤンが頷きながら言う。
 「あんたは無難じゃない!」
さとしが軽くツッコむ。
 「それがきっと一番なんすよね。親もよく言ってました。『大体みんな私らくらいの年齢になると無難が一番だってことに気付くんだ』と」
オニューはボソッと言う。
 「そうなんだ、ってことは無難じゃなかった人が多いってことだよね?ハハハ!世の中比べないと分からないハズだからね」
ハイコが真剣な表情で笑う。
 「まあまあ、無難かどうかはさておきさ、失敗しないで生きるのは無理だよ」
ドンが言う。
 「そうだね。大体人間はこの世に生まれた時点で失敗してるからね」
シームレスがボソッと言う。
 「失敗の失敗は成功だ」
トビーがボソッと言う。
 「名言めいてるけどよく分かりません!」
さとしがトビーにツッコむ。
 「え?今の失敗したかな?」
トビーが頭を掻きながら言う。笑う一同。
 「とにかくさ、オレら最近マルミエーズってバンド作ったんだ。一緒にやろうよ!最高だよ!」
バーミヤンが笑顔で言う。
 「いや、もう音楽はやりたくないっす。もう二度と失敗したくないんで」
オニューは呟く。
 「いいじゃん最高だから!失敗とかはわかんないけどとにかく最高だからさ!」
バーミヤンは尚も笑顔で言う。
 「いくらジーザスの頼みでもできないっす。練習して上手くなってからならまだ……」
オニューが呟く。
 「でもさ、オニュー。3年やって上手くならなかったって思ったんでしょ?ならヘタでも今やっちゃおうよ。日が暮れて昇ってまた沈んで昇っての繰り返しを、指銜えて見てるだけで終わっちゃうよ」
テイジーが言う。
 「無理です」
オニューが呟く。
 「ヘタとか上手いとかどうでもいいんだよね、楽しくやろうよ!」
バーミヤンが言う。
 「ヘタだから楽しくないんです」
オニューは呟く。
 「でもオレらはすげー楽しめると思う、それじゃだめかな?」
バーミヤンが言う。
 「だからオレが楽しくないんですって」
オニューは少し強めに呟く。さとしが立ち上がる。
 「オレなんて一番を取れない男だ!」
屋上に響き渡る声で言うさとし。面々はさとしを見つめる。
 「でも、このマンションに来て1つだけ一番を手に入れられた」
さとしはオニューを見つめる。
 「オレは今が一番楽しいと思えるようになった」
さとしは続ける。
 「だからさ、一緒に失敗しようよ、一緒に失敗したら楽しいよ!」
さとしはそう言うと微笑む。
 「私も楽しくなる自信ある!ハハハ!」
ハイコが笑う。
 「オレも失敗しかしてないけど楽しくてしょうがないよ」
バーミヤンが言う。
 「オレも」
トビーが呟く。
 「私も」
シームレスがボソッと言う。
 「失敗しても楽しめる、そんな自信を持ってる」
テイジーが言う。
 「自分に嘘をつかなければ、失敗はしない」
ドンが言う。
 「自信……」
オニューは無表情のままボソッと呟く。
 バンドセットへと無言で歩いて行く面々。さとしがドラムの後ろからターンテーブルをおもむろに取り出す。ターンテーブルを見て目を丸くするオニュー。
 「何でターンテーブルなんて……」
口を開けたまま呟くオニュー。
 「昔ねクラブに行った時、すげーDJがいたんだ。上手いかは分からないけどスゲー楽しませてくれた」
ターンテーブルを台の上に置くさとし。
 「なぁ?DJ二階堂」
茫然としたままのオニュー。
「DJKenでした……」
ボソッと言うオニュー。
「え?」
頭を掻き微笑むさとし。トビーがドラムスティックを叩く。マルミエーズの『自心』の演奏が始まる。戸越の街に演奏と歌声が響き渡る。

 マルミエール戸越103号室。暗い部屋にエレキギターを持ったさとしが入って来る。電気をつけるさとし。エレキギターを本棚に立てかける。微笑むさとし。
 「うざいな、オレも」
エレキギターの置かれた本棚には、ペンギン、くま、恐竜のぬいぐるみが、それぞれが支え合うように置かれている。
                 
                 
※話の内容が分からない方は第一回からご覧ください!

「いつからだ?」
ペンタゴン面々から少し離れた路地裏で、いつの間にか移動したブーヤンがウ
ドハゲに語りかける。
 「一年ほど前からですかね、銀座で仕事をするようになってしばらくしてからです。」
ウドハゲは笑顔で静かに語る
 「そうか、詳しくは知らんがあのギンザ女に言わなくていいのか?」
ブーヤンは落ち着いた声で聞く。
 「いいんです。私ももう堅気の人間ではないですし、迷惑はかけられません。あの子もきっと気付いたハズです。ま、これからも遠目から見守っていきますよ、ブハハハハハっ!」
サングラスの奥に悲しげな表情を浮かべながらウドハゲは笑う。
 「そうか、お前の人生だからな、好きにしろや。」
ブーヤンはウドハゲの肩をポンと叩き呟く。

 「帰ってモノポリーでもやんべよ!!」
グラサンが小学生の下校途中のような会話を振っている。
 「だな!再戦だな。」
サムも同調する。
 「おっしゃ、行こうぜ!」
タンクがそういって手を挙げると、ペンタゴン面々は黒セルへ向かって動き出
す。
 「……おいしい。」
その光景を見つめ、雷おこしをかじりながらギンザ女は呟く。目にはうっすら
と涙を浮かべながら。これまで人を信じることなく生きてきたギンザ女にとっ
て、ペンタゴン面々に当に「雷をおこされた」ような衝撃が走っていた。そし
てギンザ女の胸には人はおこしの米のように、一人一人ではバラバラで、ボロ
ボロになってしまうものだが、それが集まったときにいい味が出ることも、痛
いほど染み渡っていた。冬の銀座の汚い空に、一つの奇麗な北極星が輝いてい
る。
※話の流れが分からない方はお手数ですが第一回からご覧ください!

 マルミエール戸越エントランス内。二階へと続く階段を上がって行く若者。そこへバーミヤンが勢いよく自動ドアから入って来る。
 「新入り!ちょっと待って!」
バーミヤンが笑顔で大きな声を出す。肩をビクッとさせ振り返る若者。
 「……」
無言で驚いた表情を浮かべバーミヤンを見つめる若者。
 「あ、ごめんいきなりでかい声出して」
バーミヤンは頭を掻く。バーミヤンの後ろに続いてドン、さとし、ハイコ、テイジー、トビー、シームレスが入って来る。
 「……ジーザス」
若者は胸の当たりに手を当て立ち尽くしている。
 「え?201に引っ越してきた人だよね?」
バーミヤンが尋ねる。
 「あ、はい。今日からお世話になります二階堂です」
若者は小さい声で言う。
 「二階堂?だから二階に行こうとしてたの?ハハハ」
ハイコが笑う。
 「201号室だから二階行くんでしょ!」
さとしがハイコにツッコむ。
 「……し、失礼します」
そう言うと逃げるように二階へと上がって行く若者。
 「あ……行っちゃった」
シームレスが呟く。
 「まあまあ、今日は鼻見もあるし後で異文化コミュニケーションしよう!」
ドンが笑顔で言う。
 「じゃあ今度こそ買い出し行くよ!」
そう言うとテイジーがエントランスから出て行く。
 「オレも手伝う」
そう言うとトビーもテイジーの後に続く。

 マルミエール戸越屋上。夕日が差し込んでいる。シームレスがクーラーボックスにビールやチューハイの缶を入れている。屋上に置きっぱなしになっているバンドセットの中からバイオリンを取り出し、古い茶色い革のソファに置き眺めているハイコ。ソファに座り読書をしているドン。サバの切り身が山盛りに盛られた皿を運んでいるさとし。七輪に火を付け団扇で仰いでいるトビー。その隣で腕を組み立っているテイジー。その時バーミヤンが屋上のドアから入って来る。
 「みんな、新入りがいくら呼んでも反応してくれないんだ……」
バーミヤンは悲しそうな顔をしている。
 「そうなの?まさかり貸すからドアぶち破っちゃいなよ!ハハハ」
ハイコがドアの方を振り返り満面の笑顔で言う。
 「そっか!その手が……」
バーミヤンが頷いている。
 「いや無いから!そんな力ずくでドア開けちゃだめでしょ!らしくないっすよ」
さとしがツッコむ。
 「そうだね。北風と太陽の話もあるしね」
ドンが言う。
 「北風と太陽なら私は南風に吹かれたい」
シームレスがボソッと言う。
 「それは気持ちよさそうだ」
トビーが言う。
 「南風の話は出てきませんから!」
さとしは大きな声を出す。
 「何で来ないのかな、遠慮してんのかな」
テイジーが言う。
 「何か理由があるんですよ……オレが行きます」
さとしが言う。
 「お、さとし!じゃあ一緒に行こう」
バーミヤンはそう言うとドアを出て行く。屋上の入口のドアへと小走りで向かうさとし。

 201号室前。バーミヤンがドアをノックする。
 「おーい!いないのー?いないならいないって言ってくれ!」
バーミヤンは大声で呼びかける。
 「二階堂さん、いないんですかー」
さとしも大きめの声を出す。
 「まさかりしかないか……」
バーミヤンは決心した顔でボソッと言う。
 「いやいや、まだ早いっすよ!時間がかかっても呼び続けましょう」
さとしはそう言うとノックをする。

 一時間後。
 「で、オレもそんなサバ好きじゃなかったんですけど鼻見で食べてからうまいな~って思ったんですよ」
さとしがドアに向かって語りかけている。
 「そうなの?さとしサバ好きじゃなかったの?」
バーミヤンがさとしに話しかける。
 「いや、嫌いじゃないですけどね、特別好きでもなかったです、って今二階堂さんと話してるんですよ!」
さとしは言う。
 「いいじゃん三人で話せば」
バーミヤンがすねた表情で言う。
 「そろそろ開けて下さいよ」
さとしが言う。
 「さとしの時はもっと時間かかったな~、楽しかった」
バーミヤンが言う。
 「オレの時って……そうか!まさかりでドアを開けるフリをすればビックリして出てくるかもしれませんよ!」
笑顔で呟くさとし。
 「そう言うと思ったよ」
バーミヤンはズボンの中からまさかりを取り出す。
 「えええ?そこに入ってたんですか?」
目を見開き驚くさとし。
 「はい!」
まさかりをさとしに渡すバーミヤン。
 「開けてくれないとまさかりでぶち破りますよ!」
そう言いながらまさかりを振りかぶるさとし。
 「何してんすか?」
とその時、さとしの背後から声がする。
 「何って、まさかりでドアを……」
まさかりを振りかぶったまま振り返るさとし。若者が冷たい目で見ている。
 「え?あれ?」
そう言うとさとしは若者と201号室のドアを交互にキョロキョロと見る。
 「犯罪ですよ」
若者はボソッと言う。
 「ち、違うんですよ、今から鼻見をやるから誘いに……」
焦るさとし。微笑みながらその光景を見ているバーミヤン。
 「花見?今秋ですよ?バカなんすか?」
若者はボソッと言う。
 「え……バカ……?」
さとしは唖然としている。
 「とにかくさ、今から上で鼻見って名前の飲み会やるからきなよ」
バーミヤンがさとしのまさかりを下におろしながら、上を指差して言う。さとしはまさかりを下ろすように窘められた感じに、怪訝な表情をしている。
 「それってまさか菜の花ですか……ジーザス」
胸のあたりに手を当て茫然とバーミヤンを見つめる若者。
 「菜の花の季節じゃないよ。今日は収穫祭だよ、秋サバの」
バーミヤンが言う。
 「収穫祭……ちょっとなら行きます」
そう言うと階段の方へと歩き出す若者。微笑みながら眺めているバーミヤン。まさかりを握り立ち尽くしているさとし。
 「……って家にいなかったのかよ!」
バーミヤンに手の甲でツッコミを入れるさとし。痛がるバーミヤン。
 「古傷が痛む……」
バーミヤンがボソッと言う。
 「いつのだよ!」
大声でツッコむさとし。