「トシがいないと夜が長いな!」
そう言って、お父さんが泣いています。
この前も、トシちゃんの写真をなでながら
むせぶ様に泣いていたお父さん。
でもそんな時、私はお父さんに何の言葉もかけてあげることが出来ません。
無言のまま、坦々と時をやり過ごすだけです。
なかなか寝付けない夜や、まだ夜が明けぬうちに目覚める朝、
目を開けると飛び込んでくるトシちゃんの満面の笑みの写真。
「あ~、もうこの笑顔を見ることが出来ないんだ…」と思うと
一気に奈落の底へと突き落とされます。
息をするのも苦しくて
何故あの子を私から取り上げてしまったの!と声を上げて泣くだけです。
そんな時、お父さんは私にかける言葉がみつかりません。
そのまま夜が明けるのをじっと待つだけです。
私は、トシちゃんの写真を見るのが辛いです。
元気だったトシちゃんの笑顔を見ると
「ごめんね。助けてあげられなくてごめんね。」ってその言葉しか出てきません。
あの日
治療室で「ごめんね、ごめんね。お母さんのせいだね。ごめんなさい…」
と謝り続けていた私に
病院からトシちゃんを連れて帰る時、担当した医師は最後に
「決してお母さんのせいではないですから」と言ったけれど
その言葉は、虚しく私の中を素通りした。
お父さんは、子どもに先立たれてしまった父親だけれど
私は、子どもを守りきれなかった、助けられなかった母親。
そんな思いがどうしても拭いきれません。
「そんなふうに言うな!」と叱られるから口に出しては言えないけれど。
ずっとそばにいたのにね。
あの日もずっと一緒だったのにね。
一番肝心なときに、トシちゃんを守りきれなかった。
死ぬという事がどんな事なのかもわからない子を
助けてあげずに、たった一人で逝かせてしまった。
そんな私の母としての罪は、重いのだと思っています。
罪の重さと、子を失った悲しみと
そんな思いを背負った日々は苦しい…。
お母さんもお父さんも、トシちゃんに会いたいです。
トシちゃんのあの笑顔がまた見たいです。
またギュッと手をつないで一緒に歩きたいです。
トシちゃん
トシちゃんがいなくて、お母さん、寂しいよ。