ジロウ(二浪)君は、作夏、へこんでました。
「サブロウ(三浪)は、あり得ない…でも…オレの入れる大学は日本中どこにもないんダ~あせる
寛容な母であるわたくしは…
「スネちゃま…希望を捨てちゃダメよ!」
と…ここで…突然声のト~ンが変わる。
「でも国立にしてネ、うち金ないんだからヨ!」
いつの世も、母というものは子を追いつめてしまうものでございます。

冬が来て、年が明け…
父は訓示タレ…母の私はストレスで下血…自閉症の兄はインフル…
ジロウ君は、全てを遮断するかのように、自室に引きこもり…
そのままセンター試験に突入…85%の高得点で通過(ヤッタ~!)
受験校も奨学金も寮も…自分で決めて…3月末バタバタと旅立って行きました。

出発の前日…用もないのに彼の部屋にお茶ばかり運び…
「喘息の薬は持った?体に注意してネ」
「入学式には絶対行くよ!」(6年後の卒業式には出れないかもしれないから…)

なかなか寝付かれず…シクシク…
君が生まれた日の事を思いだす。
あの感触、あの重さ、あの香り、懸命におっぱいを吸っていたあの横顔…
でもちゃんと解ってるよ…明日は巣立ち…たとえまた遊びに帰ってくる事があっても、もう、この母ちゃんのボロな羽の下にかろうじて収まっていた君じゃない。若者は未来を、前だけをむいて歩んで行く。末期癌の私は、思い出に癒される。

「ちゃんと渡せたよね?命のバトンは君に確かに渡せたよね?」

旅立ちの朝…
用意していた立派な言葉は何一つ言えなかった。口を開いたら泣いてしまうとわかっていたから…
でも…恥ずかしくても…今そうしなければ次はない…だから…
私より頭ひとつも背が高い君を思いきっりギューっと抱きしめた。
互いに潤んだ瞳のまま無言で出発…
玄関から小さくなって行く君を見つめていた。あの角を曲がったら、もう君が見えなくなる…
その時君はチラリとこちらを振り向いた。何とか抑えていた嗚咽が堰を切る。


時は流れ…

春は去り…

夏が来て…

母ちゃんは君に負けないよう頑張っているよ…

そして…近所の掲示板のポスターの前を深くうなずきながら通ってマス…    

<これが、そのポスター>