未熟な自作小説です。ご了承ください。
二人は一階に降り、宿の受付でレアルは女将さんに事情を話した。戦いが起こり、部屋は半壊、その修理代は魔断協会に請求してほしい、そして処理班が来るまでシールのいる部屋には入らないでほしいと。
街に出て、レアルは伸びをした。朝日を存分に浴び、生暖かい風を全身に感じる。ソニアは目の上に手をかざし、日光をさえぎりながら羊雲の浮かぶ空を見上げた。
「そういや、宿代返すよ」
ソニアは腕にかけていた擦り切れたコートを差し出した。金具はすべて銀のようだったが、コート自体は見るからにくたびれてサンドイッチ一つとも同等の値をつけられそうにはなさそうだった。
「昔、隊長さんからもらったものなんだ」
ソニアの持ち物はそれしかなかった。魔法石もお金も持っていなさそうだ。それなのにお金を払わせる事なんて出来ない。
「大丈夫だよ。あんな事に巻き込んじゃったしね。ギャング団がいるのは知ってたんだ。だけど、怖がらせるのはいけないと思った。それが裏目に出てしまった。けど、まさボスが一人で来るなんてね」
「ちょっとびっくりしたけど、楽しかったよ」ソニアはコートを袖に手を通し、羽織って言った。「魔封師の仕事って大変だね」
「まあね。だけど、全盛期はもっと大変だったんだよ。そのコートって誰からもらったの?」
レアルはそのコートをよく観察した。パールグレイのラインが見て取れた。
「隊長さんだよ。今は副隊長さんかなぁ? 特殊部隊のコンタブって言ってたような……?」
特殊部隊は魔断協会の独立部隊だ。ラリマールやサニディンなどがあり、筆頭のコランダムは戦闘に特化している。広く知られているわけでもないが、国民の間では悪い噂が飛び交っている。
「たぶん、コランダムだよ……って事はストーナーかレヴィンさんのどっちかだな。でも、レヴィンさんだ。それって何年前の事?」
レアルが問うとソニアは指折り数えて考えた。
「六年前かなぁ……たぶんそれぐらい」
「って事は十歳ぐらい?」
レアルは大雑把に計算するが、当のソニアはあまり正確に思い出せないらしい。
「たぶんね」
ところどころに水溜りがあるぐらいで、雨が降った形跡はほとんどない。昨日の雨は夜だけの事だったみたいだ。
それもパンヌスの特性で、一時的な雨を降らせる。降った後もあまりジメッとせずに、晴れる事が多い。天気の予測などほとんど通用しないが、ソニアにはそれがわかった。
「ソニアはこれからどうするつもり?」
「どうもしない。あの人はどうするの?」
自分の首に凶暴な武器を突きつけたシールの事を気にするソニアにレアルは内心驚いた。思い出したくもないはずだろうに。
レアルは、人質に取られた時のソニアのあの落ち着きようが不思議だった。普通なら必死にもがいて逃げ出そうとするはずだ。
言葉からは二人のうちどちらかしか生き残れないと悟るはず。レアルが死なないとなれば、ソニアは自分が殺されると思ったはずだ。最初の反応は正しい。でも、レアルを自死させたくないと思ったとしてもあの反応だろう。レアルにはどちらの理由かわからなかったが、あの反応は正しいと思った。
しかし、途端に落ち着いたのは不思議としか言えない。あの状況を観察し、瞬時にレアルを信用した。後の言葉も聞こえていたはずなのに、落ち着き払って取り乱さなかった。
あの冷静さと瞳の奥の恐怖は何なのだろう?
「処理班が来て、連行する。それから裁判にかけるんだ」
「裁判……」
ソニアは不安そうにつぶやいた。レアルにはその不安の理由がわからない。もしかしたら、家族がいない事が関わっているのかもしれないと思ったが予測でしかない。
「参考人として呼ばれたりはしないよ」
気休めだったがレアルがそう言うとソニアは顔をパァッと明るくした。
「一緒にパンヌス探しに付き合っていいかな?」弾むように言う。
「大歓迎だよ。ソニアは天候がよくわかってるみたいだし、楽しさが増しそうだしね」
もしものためにも心のケアが必要になるかもしれない。レアルはそう思った。
「でも、先に靴を買おうかな」
ズボンの裾を引っ張り、裸足の足を見た。
この日はパンヌスの痕跡は街以外にはなく、街から離れて捜す事になったが、まったく跡がつかめず、山の間に続く広大な草原を歩いただけだった。しかも、青空のしたを。雲がほとんどない空になどパンヌスは用はない。見上げるだけ無駄だった。
(つづく)
二人は一階に降り、宿の受付でレアルは女将さんに事情を話した。戦いが起こり、部屋は半壊、その修理代は魔断協会に請求してほしい、そして処理班が来るまでシールのいる部屋には入らないでほしいと。
街に出て、レアルは伸びをした。朝日を存分に浴び、生暖かい風を全身に感じる。ソニアは目の上に手をかざし、日光をさえぎりながら羊雲の浮かぶ空を見上げた。
「そういや、宿代返すよ」
ソニアは腕にかけていた擦り切れたコートを差し出した。金具はすべて銀のようだったが、コート自体は見るからにくたびれてサンドイッチ一つとも同等の値をつけられそうにはなさそうだった。
「昔、隊長さんからもらったものなんだ」
ソニアの持ち物はそれしかなかった。魔法石もお金も持っていなさそうだ。それなのにお金を払わせる事なんて出来ない。
「大丈夫だよ。あんな事に巻き込んじゃったしね。ギャング団がいるのは知ってたんだ。だけど、怖がらせるのはいけないと思った。それが裏目に出てしまった。けど、まさボスが一人で来るなんてね」
「ちょっとびっくりしたけど、楽しかったよ」ソニアはコートを袖に手を通し、羽織って言った。「魔封師の仕事って大変だね」
「まあね。だけど、全盛期はもっと大変だったんだよ。そのコートって誰からもらったの?」
レアルはそのコートをよく観察した。パールグレイのラインが見て取れた。
「隊長さんだよ。今は副隊長さんかなぁ? 特殊部隊のコンタブって言ってたような……?」
特殊部隊は魔断協会の独立部隊だ。ラリマールやサニディンなどがあり、筆頭のコランダムは戦闘に特化している。広く知られているわけでもないが、国民の間では悪い噂が飛び交っている。
「たぶん、コランダムだよ……って事はストーナーかレヴィンさんのどっちかだな。でも、レヴィンさんだ。それって何年前の事?」
レアルが問うとソニアは指折り数えて考えた。
「六年前かなぁ……たぶんそれぐらい」
「って事は十歳ぐらい?」
レアルは大雑把に計算するが、当のソニアはあまり正確に思い出せないらしい。
「たぶんね」
ところどころに水溜りがあるぐらいで、雨が降った形跡はほとんどない。昨日の雨は夜だけの事だったみたいだ。
それもパンヌスの特性で、一時的な雨を降らせる。降った後もあまりジメッとせずに、晴れる事が多い。天気の予測などほとんど通用しないが、ソニアにはそれがわかった。
「ソニアはこれからどうするつもり?」
「どうもしない。あの人はどうするの?」
自分の首に凶暴な武器を突きつけたシールの事を気にするソニアにレアルは内心驚いた。思い出したくもないはずだろうに。
レアルは、人質に取られた時のソニアのあの落ち着きようが不思議だった。普通なら必死にもがいて逃げ出そうとするはずだ。
言葉からは二人のうちどちらかしか生き残れないと悟るはず。レアルが死なないとなれば、ソニアは自分が殺されると思ったはずだ。最初の反応は正しい。でも、レアルを自死させたくないと思ったとしてもあの反応だろう。レアルにはどちらの理由かわからなかったが、あの反応は正しいと思った。
しかし、途端に落ち着いたのは不思議としか言えない。あの状況を観察し、瞬時にレアルを信用した。後の言葉も聞こえていたはずなのに、落ち着き払って取り乱さなかった。
あの冷静さと瞳の奥の恐怖は何なのだろう?
「処理班が来て、連行する。それから裁判にかけるんだ」
「裁判……」
ソニアは不安そうにつぶやいた。レアルにはその不安の理由がわからない。もしかしたら、家族がいない事が関わっているのかもしれないと思ったが予測でしかない。
「参考人として呼ばれたりはしないよ」
気休めだったがレアルがそう言うとソニアは顔をパァッと明るくした。
「一緒にパンヌス探しに付き合っていいかな?」弾むように言う。
「大歓迎だよ。ソニアは天候がよくわかってるみたいだし、楽しさが増しそうだしね」
もしものためにも心のケアが必要になるかもしれない。レアルはそう思った。
「でも、先に靴を買おうかな」
ズボンの裾を引っ張り、裸足の足を見た。
この日はパンヌスの痕跡は街以外にはなく、街から離れて捜す事になったが、まったく跡がつかめず、山の間に続く広大な草原を歩いただけだった。しかも、青空のしたを。雲がほとんどない空になどパンヌスは用はない。見上げるだけ無駄だった。
(つづく)
