
時の濃縮 駿河亜希
平成20年~紅葉包囲す~
初花を愛づる熊本弁やさし (熊本城)
豆ひひな一人倒れて皆倒す
春深し古典は永久に亡びざる
春闌けて屏風絵の金剥落す (石山寺)
ゆすらうめ思ひ出ほどに甘くなく
鬼貫忌季語分類に酒の部も
程々の無愛想よし夏館
端居する昔ながらのあっぱっぱ
CGの飛鳥美人と会ふ冬野 (飛鳥)
満天星の紅葉包囲す村役場 (飛鳥)
母逝きぬ刃物の如き寒波来て
凍星となりたる母と交信す
灯籠を灯せば母の在る如く
平成21年~時の濃縮~
教へ子の顔文字泣きて卒業す
人生の節目節目の桜かな (龍野)
会へさうで出会へぬ町や花曇 (龍野)
翻るとき色変へて谷若葉
清貧の父母の当時を虫干す
酒都俳都柿衛文庫鬼貫忌
二重丸つけたし今日の爽やかさ
ちりちりとすぐ乾く葉や山ぶだう
いにしへの時の濃縮城紅葉 (明石城)
母に歩を合はせし日あり菊花展
短日の文冗漫を戒めて
返り花征きて帰らぬ墓の上
平成22年~昨日は過去と~
見下ろして見上げて花の有馬かな (有馬)
峡一戸春分の日の日章旗
陽炎や人は儚きものを恋ひ
あぢさゐや昨日は過去と割り切って
シャワー浴び汗の重さを落としけり
鳴り過ぎる風鈴にやや苛立ちて
やや荒き江戸風鈴の金魚の絵
雨の日は休業らしき蟻地獄
お年寄次々消えし熱帯夜
文字ごとに翳持つ点字秋灯下
七五三ポーズをとれと云はれても
秋深しコントラバスのためし弾き
歳晩といふ早送りめく時間
平成23年~風の居どころ~
雪解や屋根毎にある裏表
パンダ舎へ花の風紋踏みながら (王子動物園)
義経のかくれ里とや山桜 (吉野)
花冷の吉野に心残しつつ (吉野)
岬とは風の居どころ夕桜 (佐多岬)
咲き終へて球根痩せしヒヤシンス
湿度計大きく動き菜種梅雨
父の日や遺愛のルーペ取り出して
暮れ切って蛍の闇過疎の闇
梅雨じめりして古本の重さうな
廃校となりし母校の草いきれ
スーパーも伊丹様式爽やかに
ハーブよく匂ふ湿度と秋冷と (布引ハーブ園)
蒲団干すふとんに出来しゑくぼかな
木偏の字思ひ出しつつ掃く落葉
平成24年~みどり戻らぬ~
放射能降る啓蟄の地表かな
まんさくに公園の風集まれり
夙川のちょっとセレブな花の風 (夙川)
春眠といふ重力のなき世界
亡びゆく平家絵巻に春惜しむ
みちのくにみどり戻らぬみどりの日 (気仙沼)
咲き登るぺんぺん草に撥いくつ
母の日や母の匂ひのする絵筆
この山の無尽の水の滴れる
羽たたむ時見失ふ川とんぼ
原発に揺れる列島原爆忌
根こそぎといふ爪痕に濃き西日 (南三陸)
津波浴び夏の木蔭の出来ぬ木々 (南三陸)
夕菅の黄を溶かしゆく夜のとばり
徘徊の老人探す日短か
忘却といふ癒しあり返り花
臘梅に臘梅色の月も出て
被災地にサンタクロース集合す
平成25年~天界からの~
春を待つ暦に喜寿を祝ふ日も
牡蠣といふ文字書けずとも牡蠣旨し (相生)
卒業に入学に留守両隣
槍鉄砲物騒な名も春の草
憲法の日や平穏に感謝して
薫風も乗せて観光バス発車 (しあわせの村)
市旗村旗開村記念旗五月晴 (しあわせの村)
実梅売る傍に瓶やら砂糖やら
十薬の花に重たき夜風かな
予測した所へ飛ばぬ蛍かな
みちのくを支援す短夜の雑魚寝 (気仙沼)
被災地に夏燕来てピエロ来て (女川町)
報道が猛暑を更に暑くして
被災地を想ふ風鈴ずんだ餅
いにしへの乾きたる香や藤袴
鶺鴒の叩きし石に坐りけり
我が庭へ天界からの朴落葉
古時計迷路めきたる冬館 (大山崎山荘)
忘年会万年幹事居て続く
二次会に付き合ふ元気忘年会
ノーベル賞称へる雪と思ひけり
平成26年~豊かなる未知~
老といふ豊かなる未知初暦
塩味の五臓六腑に薺粥
居酒屋に鮊子釘煮派釜揚げ派
胃袋で光りはせぬか蛍烏賊
流觴の巫女に押されて流れけり (生田神社)
人形が泣けば人泣く春蔭に (淡路福良人形座)
旅人もバスも溶けゆく島おぼろ (淡路)
陽炎の集ってゐる交差点

☆しあわせの村
平成24年晩秋のしあわせの村ランダム句会直後にしあわせの村で俳句募集をしたいと当時の事業推進課長から相談があった。ねんりんぴっくなどに行って高齢者の俳句人口が多いことを知ったとのこと。投句箱、投句用紙、選句方法、選者など決めて平成25年3月、募集スタート、四季ごとに年4回選句。選者は千原叡子氏。表彰式も行い記念品も贈られる。回を重ねるたび投句数も増え質も高いと選者の言葉。しあわせの村は平成26年に開村25周年を迎えるそうだ。
市旗村旗開村記念旗五月晴
☆東北支援の旅
平成24年5月、一人で気仙沼へ行った。宿だけ予約し後はすべて飛び込みの覚悟。
仙台まで新幹線、仙台から南三陸回りのバスで気仙沼へ。気仙沼の宿は工事関係者等で満杯状態。予約した宿は、夕食なし、女性風呂なし、部屋の鍵なしと言う状況。ふすま一枚隔てた部屋からは男性の大いびき。
みちのくを支援す短夜の雑魚寝
はこの時の作品。全国俳句大会、斉藤始子先生特選は私の暴走へのご褒美と受け止めた。
この時の宿の若女将が市立保育所とコンタクトを取って車で案内してくれた。宿や保育所とはその後も交流が続いている。
☆NPO法人 食ネット
女子大を退職した平成21年3月。神戸市に勤務している後輩から、事業を委託したいが受け皿がなくて困っていると相談を受けた。シーズ加古川でNPOのノウハウを学び定款づくり、仲間集めからスタートし平成22年1月に認証、登記。仕事は順調に進み、5年目の平成25年度の事業は年間60回、参加者2200人までに増えた。
この様な仕事は今まで経験したことがなかったので、多忙にも拘らず子供の頃のごっこ遊びにも似た楽しさを味わったりしている。
老といふ豊かなる未知初暦
☆あとがき
このたび、ランダム編集部のご厚意で思いがけなく第2句集が出来ることになった。
第1句集『俳句の時間』から早7年近く経っている。その間の出来るだけ自分らしい句100句を集め、それぞれの年にタイトルをつけてみた。俳句における省略には言葉の濃度を高める濃縮が必要ではないかと勝手に決めて平成21年のタイトル『時の濃縮』を句集名とした。
その昔、俳句の蟻地獄に引きずり込まれて以来、句会、吟行、投句と適当に楽しんでいる。上達はしていなくても俳句が益々好きになっていることは確かである。
ランダム編集部のご厚意に感謝しつつ。
平成26年夏 駿河亜希
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句集 時の濃縮
著者:駿河亜希
photo : Naka Fujisawa
2014年6月1日
発行 KOBE@RANDOM
naka.kobe@nifty.com