$美味しいラーメンが食べたい!-つけめん




美味しいラーメンが食べたい!




つけ麺・・・・・竹屋




小金井街道の前沢四丁目あたりにある
たまたま、向かいのサンドラッグの店に入り買い物をして
ふと前を見ると、白地に黒文字で


竹屋


と書いてあった・・・・
白地に黒の提灯に「つけ麺」とあった


並み盛りで720円
量は大盛りぐらいありそうだった・・・




すぐ隣りのカウンターに親子連れがいた
楽しそうに話しながら食べていた


親子連れでラーメンを食べるとは羨ましい・・・・・



離婚する前、
一度だけ、二人の子供と
ラーメンを食べに行ったことがあった


俺の好きなラーメン屋だった


子供はまだ小さかったが
一人前の丼をそのまま食べさせてやりたくて
大人と同じ量を注文してやった


大人の丼から小さな器に分けるのではなく
目の前に大人と同じ量の丼が出てくるので
大人扱いされたような満足感を、
子供たちは感じて満面の笑みを浮かべていた




しかし、やはり子供にその量は多過ぎる
すぐにギブアップした
子供の残したものは俺が食うつもりでいた



初めからそのつもりで行ったのだった・・・・・・



しかし、子供たちは思いの外食べなかった
予想以上に残したので
俺はほぼ3人分のラーメンを食べたような感じになった



食べ終わって、胃が苦しかった・・・・
その苦しさを抑えて
消化を早くするためと、
子供たちを飽きさせないで歩いて帰るために



親子三人で、ふざけながら、はしゃぎながら帰った
車の通りのほとんどない道を選んで
遠回りして帰った・・・・・



俺たち3人の男はよく笑った
何でもないことでも、
よく笑った


そして長男が右手にぶら下がり
次男が左手にぶら下がった
少しも重たいと思わなかった


子供たちのことを考えながら
食べた・・・・・・




ふと気づくと、つけ麺を食べ終わっていた


魚粉の入った醤油味のスープが
飲み干したい衝動をかきたてる
いつもは飲まないのだが・・・・・・


スープをのばすお湯の入ったポットから
お湯を注ぎ、スープを残さず飲み干した
丼の底に残った魚粉も割箸でかき集めて食べた


俺に量は多過ぎると思ったが
スープの旨さであっという間に食べきってしまった
満腹感と満足感が残った



俺の二人の子供は
もう二十歳を過ぎている。
このくらいの量なら、
あっという間に食べきっているはずだ。



最初から大盛を食べさせろと
言っていたかもしれないな・・・・・



いつか再会する時が来るかもしれない
その時はこの店に来て
食いたいだけ食わせてやろうと思ってる





子供たちともう一度・・・


・・・一緒にこの店で。。。。。




美味しいラーメンが食べたい!









美味しいラーメンが食べたい・・・・・・・・





それは、ずっと前のこと・・・・・




別れた女の家に行った



その女に会いに行ったわけではない・・・・



子供たちにどうしても会いたくて
日曜日に行ったのだ
曇り空だった・・・・・


数か月前にその家をでたばかりだったのに・・・・
俺を忘れた犬が


ギャンギャンと吠えたてた
誰もいなかった・・・・・
何かの事情で皆が出かけていたのだろう
誰も出てこなかった


俺の臭いを忘れてしまったのか・・・・・


俺を敵とみなして犬は吠えまくる


今にも俺の足に噛み付きそうなほどに
犬は敵意をむき出しにしていた



俺だけが、取り残されている・・・・・


俺が居なくても、家族はそれぞれの人生を継続し、
必要な行動をしているのだ
家で俺を待っているわけではない


日曜日もそれぞれ、
大事な用事があって外出し生きているのだ・・・・


諦めて庭から道路に出ると
曇っていた空から、チラチラと雪が降ってきた・・・


寒かった・・・・・




体を温めようと思い
ラーメンを食べることを思いついた


よく通っていた、美味しいラーメン屋が
その家から駅に行く途中にあった


よく食べたその店の『坦々麺』を注文した。
ふと気がつくと・・・・・
店構えなど少し変更が加えられ、
店名も変わっていた・・・・・



メニューも少し変わっていたようだった・・・・・



待ちかねた坦々麺が出てきた・・・・
丼も同じだったが・・・


味は全く違っていた


俺の好きだった味とは全く違っていた・・・・


まずい・・・・・・


金を払う値打ちすら感じないくらい
まずいラーメンだった
金など払いたくなかったが・・・・・・



金を払って店を出た



二人の子供に会えなかった不満が心に残った
そして、恐ろしくまずい坦々麺・・・・・・



俺だけが取り残され、




犬からは忘れ去られていた・・・・





・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・






一週間後、また、会いに行った
今度は、少し時間をずらせて行った
今回は車を借りて行った
家のすぐ近くに車をおいた


ポツポツと雨が降り始めた・・・・・


傘がないので
そのまま、家に行く・・・・・


家に明かりがついていて
家の外から元の女房と子供たちの姿が見えた
子供たちに会えると思った・・・・




今度は犬は吠えなかった
なぜか、全く吠えなかった・・・・


長男が居間のドアから出てきて
俺をチラッと見て、そのまま勉強部屋に行ってしまった。


「やあ、こんにちは」
その後ろ姿に、俺は声をかけたが
長男は無言だった。



つぎに元女房がドアから出てきた
「帰って、私たちの生活を乱さないで・・・・」
「子供たちにあわせてくれ」
「帰って」


元女房の顔は恐ろしい顔つきだった。
あまりに、憎しみを露わにしている表情で
また、長男の冷淡な態度に悲しくなり
玄関のドアを開けて外に出る



そこからは勉強部屋の窓がすぐ見える
窓から長男がまっすぐに俺を見つめていた


少年の顔になっていた
凛々しく、純粋な少年の目だった
しばらく長男と俺は見つめ合っていた



何かが足に触れた・・・・・


見下ろすと、この間俺に吠えかかった犬が
俺の前に座り俺の足に、お手をしていた


土砂降りの中、
庭の土で泥だらけになった前足で
俺に向かってお手をしていた


俺のズボンは泥だらけになっていた


俺はそこで我に帰った
女房は玄関のドアを開けた
まだそこに立っていた俺に向かって
更に言った


「帰って、もう二度と来ないで・・・・・」


そしてドアにチェーンをかけた。





次男の顔を、見ることができなかった



居たのだろうか?

俺の声を聞いただろうか?





俺はそのまま庭を出た。
いつの間にか雨足が強くなり、ずぶ濡れになっていた・・・・



犬は俺を思い出したのだろうか?



そんなことを思いながら、ドライバーズシートに乗り込んだ




ずぶ濡れになった
心が一番・・・・・濡れたと思う







・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・





温まりたいと思った・・・
まだ寒い冬だった、この雨が雪に変わってもおかしくない
そんな寒さだった


すぐに、ラーメンを食べることを思いついた



しかし、この間食べに行ったあの坦々麺の店には
二度と行きたくなかった



寒かった・・・・・・


美味しいラーメンが食べたい・・・・・




そう思っていた・・・・・









・・・・・・・・・・・・・・





誓って言うが、女房にひどいことをして
離婚されたのではない
俺はその頃会社を経営していたのだが
バブルがはじけ、会社を潰さざるを得なかったのだ


苦しい経営の中
家に満足に金を入れられなかった。


「お金が稼げないなら、出ていって」
ある朝、女房に言われた。
「ふざけるな、俺が出ていけば、なんとかなるとなると思っているのか」
「すくなくても、あんたの顔を見ないですむわよ!」


それが、きっかけだった。
その時は・・・・・


元女房は一人娘だった
彼女の実家に二世帯住宅を建ててもらって、
そこに住まわせてもらっていた


出て行けと言われると、
俺は住み続ける権利は無いように思われた
家賃がわりに住宅の建設費を払うことになっていたが、
会社の倒産で、満足に金を作れない俺は
その建設費もろくに
支払いもできなくなっていた。



元女房の両親も、彼女自身も学校の先生で、
超一流の学校を卒業していた。



皆、プライドの高い人だった。



野良犬のような俺が、小さな会社を興し
土曜日も日曜日もなく、
必死に稼いでいても、
そんな生活を信じれる人ではなかった


朝の8時から夕方の5時まで仕事をして
土曜日は半日、日曜日と祝日はしっかり休む・・・・・




そんな生活しか知らない、彼女とその両親・・・
毎日自分の会社で働き、家に帰ってきてさらに働き、
休日も仕事と言って働きに出る俺を
浮気でもしていると、疑っていたのかもしれない



たしかに俺は、ろくでもない人間だが・・・・
浮気だけは決してしなかった。


俺の親父が
俺の子供の頃、愛人宅に住み着いて、
ろくに家に帰らなかった
そんな生活で育った俺は
母親の愚痴と一緒に、女癖の悪さを呪った


できるだけ子供と過ごそう
絶対に浮気はしない
家庭を全力で守る


それを人生のルールにして育った


酒もタバコも吸わない
趣味はラーメンを食べることぐらいだった・・・・・







バブルがはじけたあとの不景気で、
俺の会社が維持できなくなった
休日だろうがなんだろうが、
手当たりしだいに仕事をもらい働いた




しかし、すぐに不景気に追いつかれた



家に金を入れられなくなった


・・・・・お金が稼げないなら、出ていって・・・・


会社潰しても、頑張って家庭を守って行こう
一緒に頑張ろう・・・・・


どうして、そう言えないのか・・・・・




・・・・・お金が稼げないなら、出ていって・・・・


・・・・・・・・あんたの顔を、見ないですむ・・・・・・






二世帯住宅に住み、その建築費が払えない俺には
選択の余地はない
住み続ける権利はない・・・・・



そう思って家をでた・・・・・
離婚届にサインと印を押して出てきた




ボストンバッグの着替えと
俺の頭の中にある
うまいラーメン屋の地図・・・・・
それだけが俺の、持ち物だった




ラーメン



実質、ラーメンのこだわりぐらいが
俺の財産となって残ったものだ
それも、頭の中にある
それだけだった


しかし、これはいつでも持ち歩けるし
無くすことはない



この後、いろいろな人生を歩むが

いつも、俺の慰めはラーメンだったと思う









家を出たとき、これが最後の食べ収めと思って
あのラーメン屋でラーメンを食べた


お気に入りの『坦々麺』





あの坦々麺はもう食えない
あの、家にはもう行かない・・・・・・・








美味しいラーメンが食べたい!







俺の原点は、これだ・・・・・








iphoneのフリーアプリにあるラーメンマップを
ダウンロードした・・・・・・


これ、使えそうだな・・・・・・
さっそく、自宅の近所の気になっていたラーメン屋さんを
探してみる・・・・

あった、あった、、、
評判もまずまず・・・・・・


よし、行ってみっか・・・・・!!!!!









美味しいラーメンが食べたい・・・・・・・・










思えば・・・・・・・
ラーメンとのかかわり合いは長いな~~~~~~~~


辛いとき、悲しいとき、苦しい時・・・・・・
人生の曲がり角で泣きそうになったとき・・・・



ボロボロの心で今にも泣き出してしまいそうなとき、
自分を慰めるために、
よくラーメンを食ってきた・・・・・・



嬉しくて仕方ないとき、
大声上げて笑いたいとき、
新しい友達と出会ったとき、
友と喜びを分かち合いたいとき・・・・・・




やっぱりそこには、ラーメンがあった・・・・・





たかが、ラーメン・・・・・・
されど、ラーメン・・・・・





どんなラーメンでもいいってもんじゃない・・・・・・




あそこの町にある
あの店の、




このラーメンじゃなきゃダメだ!!!








そう思いながら、その店にゆく・・・・・


そこで出会う、『うまーーーーい、一杯のラーメン』


たかが1000円でお釣りが来るくらいのラーメンだが・・・・・


その丼の中に、人生が詰まってる


悲しいことも、嬉しいことも、丼の中に入っている









約半世紀・・・・・・生きてきた・・・・・





別れた人、出会った人、

・・・・・数々の出会いと別れがあったが・・・・・・

ラーメンはそのどんな時にも

顔をのぞかせる・・・・・・・・・・






ラーメンは俺の人生に関わっている





食うぞ!!・・・・ラーメン!!!!!!







美味しいラーメンが食べたい・・・・・・・・