第一話 そして没落へ

 

 

初めての感覚だった。

視界はハッキリしているのに、焦点が合わない。

音はハッキリ聞こえるのに、理解ができない。

手足がぐらぐらと揺れる感覚、何かが体から吹き出る感覚。

 

画面に映し出されたExcel上では、ただカーソルだけがそこに佇んでいた。

何をすべきかわかっているのに、何もできない。

考えるべきことが分かっているのに、何も考えられない。

世界的に超一流のコンサルティング会社。都内一等地の高級で洗練されたオフィス。フリーアクセス形式の洒落たデスク。そこに置かれた自分のノートパソコン。その前で、ただ重力に従い、椅子に腰を下ろすことしかできなかった。

 

俺は鬱になっていた。

 

 

こういうことは自分から発言すべきでないことは理解している。世間的には傲慢や自意識過剰と捉えられ、無駄な敵を増やす。周りからのサポートも受けにくくなり、物事を進めにくくなる。

それでも、自分が他社と比較して(何を比較の軸とすべきかは議論の余地があるが)、およそ平均とはかけ離れている、上位に位置することは理解していた。生まれは日本の平凡な町だが、生まれてから才能は出生地とは似つかわしくない程だった。

いつから自負し始めたかは覚えていないが、いつしか親も親戚も友人も、自分が非凡な才能であることを自覚させてくれるような接し方をするようになった。

「こういうのをエリートって呼ぶのか」

最初はぼんやりとした認識だったが、いつしか自分を強く構成する要素になっていた。

 

 

そんな俺は26歳の時。

鬱になっていた。

 

 

これは物語。

自由の物語。

落ちた俺がそこで見たもの、見えなくなったもの、手に入れたもの、失ったもの、気づいたもの、気づかなくなったもの、そのすべてを伝える物語。

 

そして

 

くそったれなエリートというフィクションへ、反旗を翻す物語。