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第一章

2.必然

6月に入ると、周りの同級生の中にはアルバイトを始める人が増えてきた。

<アルバイトか~、やってみようかな。>

求人誌を買い読み始めてみた。特に目的を持っていないあかりにとっては職種などどうでも良く、また家庭環境は上流・中流家庭の真ん中ぐらいに位置し、特に金銭に困っている訳でもなかったので、

<バイトをするならファーストフード>

意味もなく決まった。電話を掛けてみるが声が震え、上手く喋れない。

「あの~、アルバイトの募集はまだされてますでしょうか~?」

正しいかどうかもわからない日本語を消え入りそうな声でやっと話しをすると、店先の責任者とおぼしき相手が、

「じゃあ都合の良い日と時間を教えて頂けますか?面接を行いますので。」

「あっ、では次の水曜日にお願いします。」

面接日が決まった。一人前になれたような気がして、何故かそれだけで嬉しくなった。水曜日面接当日、学校帰りにアルバイトの面接に向かう。学校の最寄り駅からは5駅、自宅からなら3駅電車を乗ったところの駅前にそのファーストフード店があった。何度か由香と買い物ついでに立ち寄った店なので、方向音痴のあかりも道順の心配はしていなかった。自宅へ帰る時は電車の最後尾車両に乗るが、目的の駅は先頭車両の方が店に近くなるため、いつもと違う車両に乗った。些細なことでも緊張するあかりには、初めてのアルバイトの面接は、胸の高まりを増長させるには充分なものであった。電車は進み、いつもなら降りるはずの自宅駅を越え、目的の駅に近づく、緊張を抑える方法など知らないあかりは、一言目に発しようと考えていた

<斉藤あかりと申します。宜しくお願いいたします>

この言葉だけ唇を微妙に動かし、つぶやいていた。目的の駅に到着し、階段を降り始めるが緊張から足が震え、上手く降りられず、宙に浮いているような気分になった。

<どうしよう・・・>

不安に苛まれ

<やっぱりやめようか・・・>

そんな思いが脳裏をかすめた時、微妙に聞き覚えのある声に呼び止められた。

第一章 運命

「すんません、ここの図書館どやって行ったらええか教えてもらえませんか?」

地図を見せながら関西弁を話す英二に少し戸惑いながらも、

「あっ、ここの図書館ですか、だいぶ遠いですよ。前の道を左に向かって商店街を抜けて右です。でもそこから坂道を登って15分ぐらいはかかるんじゃないでしょうか。あっ20分ぐらいか。あっいやわかんない。」

「どっちやねん!」

英二は関西人らしく愛嬌をもってツッコミをしてみたが、関西弁はテレビぐらいでしか聞いたことがないあかりには少々怖く思えた。わずかばかりの不穏な空気の後、英二は

「有難うございました。とりあえず行ってみます。」

お礼もそこそこに立ち去り、教えてもらったように左へ曲がって行った。そんな後ろ姿を肩越しに振り返りながら見ていたが、英二が左へ曲がったことを確認すると、特に気にする様子もなく家路を急いだ。

第一章

第一章 運命

1.出会い

初夏を感じさせるような暑い5月23日。 =東京=

彼女はいつものように、唯一といえる友人の由香と共に下校していた。駅の改札を抜けると互いの家路への分かれ道となる。由香は左側へ歩を進め

「じゃあね、あかり、また明日。」

無表情に言う。無表情は由香の特徴であり、悪意があるわけではない。あかりも、

「うん、じゃあね。」

得意の作り笑顔で応える。これも作り笑顔だが悪意があるわけではない。幼い頃からの習性で作り笑顔が身についているだけだ。あかりの自宅は、その先の緩やかな坂道を登り、さらに約120段の階段を上った高台にある、いわゆる新興住宅地。毎日通いなれた坂道を歩こうとしたとき、後ろから声を掛ける男性に気づく。