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この記事は2019年9月6日公開の映画『ヴァイオレット・エヴァーガーデン外伝』の感想を書いたものです。これから観る予定の方、内容をまだ知りたくない方は閲覧を避けてください。ネタバレを含みますが悪しからず。



まず、この作品が通常の映画と同じようにただ公開されただけではないということを念頭に、劇場で2回鑑賞して気付いたこと、感じたことを書きたいと思います。原作となる小説を少し読んだことがありますが、あくまで外伝を観た感想にしたいと思います。原作・アニメを知らなかったとしても十二分に楽しめる、感動出来る作品であることに間違いはないです。一部、アニメ版オリジナルキャラクターであるルクリアとの再会シーン等ありますが、物語の進行に大きな影響はなかったと思われます。
また、舞台挨拶に参加していないので、そこで話された内容と重複する内容があっても、あくまでも個人が感じたこととご認識ください。



①3人の関係性と変化する一人称、二人称
この物語は大きく3つのパートに分かれています。まず、大貴族・ヨーク家の娘であり全寮制女学校に通うイザベラ・ヨーク(エイミー・バートレット)と、その家庭教師として派遣された自動手記人形ヴァイオレット・エヴァーガーデンを描くパート(a)、次に生き別れになったエイミーの妹テイラー・バートレットとヴァイオレットを描くパート(b)、最後にエイミーとテイラーを描くパート(c)。そして、それぞれのパートで核として描かれているのが一人称、二人称の変化ではないでしょうか。
(a)では自分の人生には何もないと塞ぎ込むイザベラの元に家庭教師としてヴァイオレットが着任しますが、始めは教育に関わる必要最低限のこと以外話しかけないで、と距離を置きます。この時のイザベラ→ヴァイオレットの二人称は¨キミ¨です。そして、後述しますがイザベラの一人称は¨僕¨ですが、ヴァイオレットから淑女としての作法を身に付ける為、¨わたくし¨にするよう改められています。しかし、冷たくする自分に対して常に優しく接してくれるヴァイオレットにイザベラは徐々に心を開いていきます(個人的には時間の限られた劇場版なので仕方ないことなのですが、イザベラお嬢様がデレるスピードが思ったより早くてちょろイン…(死語)となりました可愛かった)。そして、ヴァイオレットの任務の最終日となるデビュタントの当日、友達であるヴァイオレットとの別れを寂しく思いつつも、イザベラはヴァイオレットへ感謝の言葉を伝えます。「ありがとう、ヴァイオレット」と。イザベラ→ヴァイオレットへの二人称がいつ¨キミ¨から¨ヴァイオレット¨へ変化したか詳細に知ることは出来ませんでしたが、名前を呼ばれたヴァイオレットの反応を見る限り、そこが初めてではないかと推測することが出来ます。友達とは名前で呼び合うもの。これも、ヴァイオレットへ初めての友達を与えたイザベラが意図せずに教えたことなのかもしれません。
次に(b)では、孤児院で育てられ、数字以外の文字を覚えられないが、ヴァイオレットの働く郵便社で配達人見習いをすることになるテイラーと、見習いのお手伝いを担当するヴァイオレットの間でも二人称の変化が見られます。まず、前述の通り文字が得意ではないテイラーは、手紙を元に辿り着いた郵便社で出会ったヴァイオレットのことを、ヴァイアレット・エヴァーガルデンと呼びます(色々間違え過ぎ)。その後も、テイラーがヴァイアレットと呼び、ヴァイオレットが「ヴァイオレット…です」と訂正する描写があります。しかし、ヴァイオレットのもとでくんれ…勉強し、配達人の仕事をこなす内に徐々に文字を覚えていくテイラーはヴァイオレットの計らいで記憶の彼方にある姉・エイミーへの手紙を書くこととなり、それを届ける為にやれやれ系イケメン・ベネディクト君と遠くへ向かうことになります。そして出発の時、テイラーはヴァイオレットへ感謝の言葉を伝えます。「ありがとう、ヴァイオレット」と。ここではヴァイオレットがテイラーに文字を与えたのです。いや、与えたのは文字だけではないのでしょう。もっとたくさんのことをお与えになったことと思います。ヴァイオレットの想いも乗せ、新調したバイクでエイミーのいる上流貴族の屋敷を目指し旅立ちます。
そして(c)では、前述したイザベラ(エイミー)の一人称が変化します。ヨーク家がよっぽど秘密にしたかった嫁ぎ先を探し出し、伯爵の屋敷へ辿り着いたテイラーとベネディクト。決まった時間に外に姿を現わすことがあるという奥方を待ちます。そして、現れた奥方にベネディクトが手紙を届けるシーン。自分宛の郵便だと告げられたイザベラは「わたくし…?」と口にします。そう、イザベラ・ヨークは立派な淑女となったのです。これも、ヴァイオレットの教育のおかげでしょう。しかし、それは彼女にとって仮面の姿でしかありません。手紙の差出人の名前を、そして手紙の内容を読んだエイミーは「テイラー・バートレット…僕の…妹…」と泣き崩れます。ここが本作の一番の号泣ポイントであることに間違いはないと思います。¨わたくし¨という仮面を今だけ脱いで、¨僕¨として妹を想うその姿はとても美しいものでした。
このように、各パートで描かれる2人の心理的距離を一人称、二人称の変化を用いて緻密に表現されており、制作スタッフの方々には敬服するばかりです。また、最後のパートでテイラーが敢えて姉との再会を選ばす、一人前になったら自分でしあわせを運びに行く、と決意するところも¨らしい¨作品だなぁ…と感動しました(木陰でエイミーとベネディクトの会話を覗くテイラーのシーンでは、いつ出て行って抱きつくんだ…!とワクワク?ハラハラ?していましたが笑)。



②何気ないシーンに隠された名台詞
前述の区分でいうと(b)のパートに本作一番と言っても良い名台詞が隠されています(調べたところ、舞台挨拶でもその台詞に触れられたとのことです)。その台詞というのが…


『二つだと解けてしまいますよ。三つにすれば、解けないのです。』


一字一句正しいかは不明です(確かめる為にもう一度観る必要がありますね)。三つを編めば、だったかもしれません。これは、一人部屋を貰うも夜眠れなくなってしまったテイラーが、ヴァイオレットの部屋を訪れ、一緒に寝た後の朝に発せられたヴァイオレットの台詞です。朝の身支度でいつも通り髪を三つ編みにするヴァイオレットを見て、自分もやってみようと二つ編みを試みるテイラー。しかし、二つでは当然解けてしまいます。それを見たヴァイオレットが三つ編みを教えてあげる描写なのですが、この何気ない朝のワンシーンにとんでもない名台詞が隠されていたのです。
結論から言うと、二つ、三つというのは髪の束の他に、エイミー、ヴァイオレット、テイラーの3人のことを表している比喩表現になります。二つでは解けてしまうものが、三つであれば解けない。2人では解けてばらばらになってしまう関係も、3人ならば解けずに結ばれるということを表現した台詞になります。愛する妹の為、父と名乗る男に人生を売り渡したエイミーは皮肉にもその愛する妹と会うことを許されなくなってしまいます。しかし、自動手記人形であるヴァイオレットと出会うことで、妹であるテイラーに手紙を書くことを決意します。解けていたエイミーとテイラーは、ヴァイオレットの存在によって再び結ばれるのです。また、テイラーとヴァイオレットの関係も、エイミー無くしては存在しないものになります。エイミーに初めての友達を貰ったヴァイオレットは、その大切な友達の妹の為に手紙を書きます。孤児院を出て困ったことがあれば自分を訪ねるように、と。交わらなかったはずの2人はエイミーの存在によって結ばれたのです(実際は孤児院を抜け出してきてしまいましたが…笑)。そして、ヴァイオレットは再びテイラーとエイミーを手紙によって結びます。しかし、結ばれたのはこの姉妹のみではありません。ヴァイオレット曰く手紙の返事が途絶えていたというエイミーは、テイラーからの手紙を受け取った後、ヴァイオレットにも手紙を書くと宣言しています。今度はテイラーが、離れていたエイミーとヴァイオレットを再び結んだことになります。
私がこの台詞を通して製作陣が伝えたかったことは、「自分の見えないところにも生きている意味は存在する」ということではないかと思います。エイミーの「僕の人生は何もない」という台詞にもある通り、生きる意味を見出せなかったり、希望を捨ててしまった人へ向けたメッセージなのではないかと思うのです。例え、直接誰かに必要とされたり、誰かの役に立ったりしている実感が得られなかったとしても、自分の存在が誰かと別の誰かを繋げているのかもしれない。目の前には暗闇しかなかったとしても、周りを見渡せば自分を必要としている人は存在する、ということを伝えたかったのではないでしょうか。目に見える現実だけが全てではない、と考えられれば少しだけ楽になるかもしれないですよね。これは私の勝手な想像です。



③もう一つの名場面
個人的に、この作品には上述の3人以外にもう一つ特筆すべき関係があると思います。それは、エイミー(イザベラ・ヨーク)と彼女の通う女学校の同級生アシュリー(ミス・ランカスター)との関係です。ヨーク家と並ぶ名家・ランカスター家の令嬢と思われる彼女は、はじめ4人の同級生を従え(?)登場します。おそらく生まれつきの令嬢で、見た目も華やかな彼女はイザベラとは正反対の存在。イザベラはそんな彼女が私に近付こうとするのはヨーク家という家柄しか見ていなく、自分に箔をつける為だとお茶会の誘いを無下にしてしまいます。誘いを断られたミス・ランカスターは少しむっとした表情で去っていくのですが、やり取りを見ていたヴァイオレットはイザベラの思っていることが正しくないことに気付いてる様子。その後、ミス・ランカスターとイザベラとの関係はデビュタントが終了し、ヴァイオレットが学園を去ってから変化します。デビュタントでの舞踏を素敵だったと褒められ、「ヴァイオレットのおかげです。ミス・ランカスター…」と返すイザベラに対し、「アシュリーと呼んでくださる!?」。そう、ミス・ランカスター…もといアシュリーも、家柄などどこかに置き去って、イザベラ自身と仲良くなりたかったのです。きっと、アシュリー自身も名家に生まれ、ずっと家柄に付きまとわれて生きてきたのでしょう。そこで同じ境遇と思われるイザベラと出会い、純粋に仲良くなってみたいと感じたのだと思います。極めて短いシーンではありますが、ここでも製作陣は何かメッセージを伝えたかったのではないかと思います。例えば、「世間は自分が思うほど悪くない、悪い方向に考えて決め付けてしまうのは良くない」ということかもしれません。いずれにしても、本作では描かれていないものの、お身体が弱く1人で過ごされる期間の多かったイザベラお嬢様がヴァイオレットとの3ヶ月間を経て、徐々に周りと打ち解けていく、という未来が見えた気がしてとても好きなシーンでした。卒業までの間に楽しく2人でお茶会をするイザベラとアシュリー…なんてのも見てみたかったですね。想像の中で楽しみたいと思います。



④エンドロール
感動と充実感で涙しながら本編が終了し、茅原実里さんの歌う主題歌『エイミー』とともにエンドロールが流れます。普通の映画であれば、作中のシーンが静止画で映し出され、あるシーンを思い出しては笑い、泣き、と余韻に浸る時間だと思います。しかし、本作は少し違います。エンドロールに映し出されるのは携われたスタッフの方々の名前のみ。他の映画であれば、少し眠くなってしまうかもしれません。もしかしたら途中で帰ってしまう人もいるかもしれません。しかし、日曜のお昼にほぼ満員になった劇場はおそらく誰一人帰ることもなく、ただ『エイミー』の調べとともに、静かにゆっくりと時間が過ぎて行きました。
私も、食い入るように、エンドロールの名前を全て覚えるくらいの勢いで、ただ魅入っていました。なぜなら、そこにいるほぼ全ての人が、エンドロールとして映し出された方々の中には、もうこの世に存在しない方々が多数いらっしゃることを知っていたからです。社長さんのご意向で、制作に携わったスタッフの方々のお名前を全て流すことにしたそうです。あまり触れたくはない話題ではありますが、本作を語る上で避けて通れないと思うので、敢えて書きます。それは、絶対に許されることではないです。しかし、悲しいことに失われた命は還ってきません。大切な人を失くされた方々にとっては全て綺麗事に聞こえてしまうと思いますが、一ファンが出来ることは、忘れないこと・伝えていくことだと思います。こんなにも素晴らしい作品を作り上げた方々が確かに生きていたこと。人々の記憶に残り続ける限り、ずっと生き続けていくのだと思います。言葉にするのは簡単ですが、自分は自分の出来る範囲で想い続けることが出来ればと思います。例えば、感想を沢山呟いて、それを見た1人でも興味を持って観てみようとなってくれたら、そこからまた広がっていくと思います。長々と書いてしまいましたが、京都アニメーションの皆様、制作に携われたスタッフの皆様、素敵な作品を世に送り出していただき本当にありがとうございます。#PRAYFORKYOANI



⑤最後に
思いつくままに長々と書いてきましたが、本作には語り尽くせないほどの魅力があると感じています。時の流れを植物の開花で表現する技法、とってもセクシーなベネディクト、彼の配達先のお婆ちゃんが電波塔のことをいつの間にか覚えていること(おそらく何度もベネディクトに¨あの背の高い建物はなんだい…?¨と尋ねていたのが、作品終盤では¨いつ完成するんだい…?¨に質問が変わっていてベネディクトもどこか嬉しそうでした)、他にもきっと隠された見所がたくさんある気がして、何度も何度も映画館に足を運んでしまいそうです(そもそも同じ映画を2回劇場で観たのは人生初だったのですが…笑)。


それでは最後に個人的にツボだったシーンで締めたいと思います。


ヴァイオレットが同じベッドで寝るイザベラに今までどんな手紙を書いてきたのか聞かれるシーン。そんな堅物が恋文を書けるのかと茶化されたヴァイオレットの


『定評があります』


よほど自信があるのか、ちょっとだけ語気を強めた気がして、くすっと来てしまいました。他にも可愛いシーン、くすっとくるシーンも随所にありましたので、複数回観られる方は探してみても面白いかもしれませんね。それでは、こんな長文の自己満足ブログをここまで読んでくれた方がいるとは思いませんが、もしいらしたらありがとうございました。







ーfin.