こんにちは。

 本日も創作小説でお楽しみいただければ幸いです。

 セリフだけの小説なのでサクサク読めます。

 読み切り形式なので今回だけ読んでも大丈夫です。

 

 連続創作小説 病気屋のおばあさん

  CASE 22

 はいこんにちは。あたしは疫病神ですよ。どんな病気も売ってるからよろしくね。

あんたの町のガード下や高架下で営業しているから来ておくれ。え? 見たことないって? そうだね、あたしも一応神様の端くれだからさ次元が違うのさね。会いたかったらお酒を飲んでおいでよ。頭が正常じゃない状態の人にはあたしが見えるのさ。

え? 病気なんて買う奴いないって? そんなことないよ。だってタバコがそうだろう? あんな体に良くないものをさ、みんなお金払って買ってるじゃないか。

 さて、本日はどんな客が何を買いに来るのかねぇ、楽しみだよ、ひっひっひっ。

 

              *

 

「あああら、おばあさん、こんばんはぁ、ははは」
「あらまぁ、BL漫画家の、品格梨子先生じゃないかい。まぁまぁまぁよく来てくれましたねぇ、ひっひっひっ。あたしは先生の大の大の大フアンでしてねぇ。毎月新作が掲載されるたびに読みふけっておりますよ。ひっひっひっ」
「ありがとう。ひっく、でも最近載ってないでしょう? ふふふ」
「そうなんですよ。先生の作品が読めないと寂しくってねぇ、商売にも差し支えるって塩梅で、ひっひっひっ」
「もう描けないかもしんないのぉ。ひっく、ふふふ」
「まぁまぁまぁスランプなんてどんな漫画家にもありますさね。元気出して」
「スランプじゃなくってぇ、腰が痛くってさ、もう机に座って仕事できないのよねぇ、ふふふ、このお酒もね、だてに飲んでんじゃないのよ、痛みを和らげるためになの」
「そうだったんですか」
「そうだったのよぉ。でね、わたし漫画家やめたら収入ゼロな人なの。で、本日役所に行って生活保護申請してきたのよぉ、ひっく」
「そしたら?」
「駄目だって。まだ若いから働けるでしょう? ってこうよ。ふざけんなって話。普通に働けないからさ、漫画家になったんじゃないのぉ」
「そうですよねぇ」
「でね、この役所の担当の男がさ、会社の面接受けて来いって二十社のリストを渡すわけよ、このわたしにさ、ひっく」
「二十社も?」
「そう。それで全部だめだったらまた来いって」
「面接の結果はどうだったんだい?」
「訊くも愚か! 駄目だったからこうして酒がすすんでるわけ、ははは。漫画家以外働いたことない人間で、かつ、腰痛持ちじゃどこも雇ってくれないわよねぇ、ははは」
「それでも生活保護申請通らないのかい?」
「そうなの。さらに二十社追加で面接受けて来いってさ、もうあきらめた」
「酷いねぇ、その役所の担当の男。なんて名前だい?」
「斎藤とかネームに書いてあったわねぇ。なんでもさ、前に生活保護申請断られ続けた人が役所の立ち木で首くくって死んだんだって。その時でさえこの斎藤って男は新聞社の取材に対して、私は適正に仕事をしたという認識です、とこうだよ」
「嫌な男だねぇ。わかった。このあたしが何とか申請が通るようにしてあげるからさ、もう一度役所に行ってごらんよ」
「そう? 無駄だと思うけどねぇ、わかった。あなた、母に聞いたけど、疫病神なんだってね、ひっく」
「あああ、例の不潔恐怖症の一件ね」
「そうそうそう」
「わたしは、本日死に至る病を買いにきたのよぉ。ひっく、ある?」
「だから、先生、死ぬのは早すぎますって。もう一度役所に行ってからね」
「わかった。じゃそれまで命預けておくわね、さいなら」

       *

「また来たんですか? 追加の面接全部受けてきました? まだでしょう? そうたびたび来られても迷惑なんですよ。こっちだって忙しいんですから」
「前回全部酷い腰痛持ちだって言ったら不採用と言われました」
「健康状態は訊かれるまで内緒にしておいてください」
「でも結局採用されても腰が痛いから働けなるのは目に見えていますけど」
「痛くても働けます。みんなどこか痛くても我慢して働いているんです。とにかく健康状態を隠して面接を受けてください。話はそれからです。次の人どうぞ」
「ちょ、ちょっと待ってよ、まだ話は終わっていません」
「終わりました。次の方どうぞ………、いた、いたたたたたっ!」
「どうしたんですか?」
「こ、腰が急に痛くなって、いたたたっ。おーい、誰か、誰か担当代わってくれないか?」
「腰が痛くても働けるんでしょう? ふふふ、みんなどこか痛くても我慢して働いているんでしょう?」
「う、ううう、あああ………」
「ふふふ、誰も来ないわね、日頃の行いが悪いからみんなこんな時でも助けてくれないのね。助けてあげましょうか?」
「え?」
「わたしの生活保護の申請許可してくれたら、たぶんすぐに腰痛が治ると思うわよ」
「そ、そんな馬鹿な!」
「これは疫病神の呪いよ。きのうわたし頼んできたの」
「ぐ! わ、わかりました、申請を許可しますから、助けてくださいっ!」

       *

「おばあさん、ひっく、こんばんはぁ」
「あらまぁ、品格梨子先生! どうでした?」
「申請通ったわよ、ありがとう」
「それはよかったよ、ひっひっひっ」
「おばあさん、あの斎藤って男に腰痛を見舞わせたわけね」
「ひっひっひっ」
「でもさ、運命って不思議よね」
「?」
「生活保護申請が通ったその直後に出版社から電話があって仕事の依頼の」
「え? でも先生、もう腰痛で絵が描けないんじゃないのかい?」
「それがね、原作の仕事なの。出版社としては絵師はたくさんいるけど、わたしみたいにストーリーの書ける人は少ないって。だからね、今後は原作者として仕事をお願いしたいって」
「そりゃあよかった。あたしも嬉しいよ」
「そうなの。原作なら寝転がってでもタブレットで書けるし録音してもいいし」
「ひっひっひっ。BL漫画の原作者か。そりゃいいよ。先生の漫画はやっぱりあのねっちょりぐっちょりしたどろどろのぐちょぐちょの、あのストーリーがいいからねぇ。ひっひっひっ。今度はブラック企業の上司と部下がタッグ組んでさ、社長を犯しまくるってのはどうだい? 三つ子の兄弟が連結するってのもいいねぇ、あ、鼻血出てきちゃったよ、ひっひっひっ」
「おばあさん、あなたも原作者向いてるんじゃない? 書いてみたら?」

「あたしはだめだよ。だって一応あたしも神様だろう? 欠く(書く)べからざる存在だからさ」

       おしまい