沖縄のアメリカ軍普天間基地の移設問題を解決できなかったことが主因となって、鳩山由紀夫首相は辞任することになりました。しかし、鳩山首相の辞任によってこの問題が決着したわけではなく、その次に就任した菅直人首相の内閣に、この問題は持ち越されることになりました。
 普天間問題について菅首相は就任時の記者会見で、基本的には鳩山首相のときになされた日米合意を踏襲すると述べています。ということは、沖縄県民が猛反対している辺野古への移設を強行するということです。これでは問題の解決にはならず、その移設が実施されるときには、かつての成田空港反対闘争に勝るような反対運動を招くことでしょう。民主党政権は、他国の言いなりにはならない自主外交を目指すとしていますが、日米合意に従って辺野古への移設を強行するということは、まさしくアメリカの言いなりになることであり、従来の自民党政権のときと変わらず、自主外交とは程遠いものであることは間違いありません。
 普天間基地の移設について、アメリカは辺野古への移設が最善だと主張していますが、なぜ辺野古が最善なのかと、日本政府がアメリカ政府に対して問いかけた話は聞きません。自主外交を目指すというのなら、せめてそのような問いかけをしてもよさそうなものだと思うのは私だけでしょうか?
 軍事基地の移設における最善とは、軍事戦略的に最善であるだけでなく、地元住民の受入れ態勢においても最善でなければならないはずです。しかしアメリカの主張する最善論は、地元住民の受入れ態勢についてはまったく考慮に入れず、軍事戦略的にのみ最善であるということを意味します。
 それに加えて、沖縄の辺野古がなぜ軍事戦略的に最善であるのかと問われないのが不思議でなりません。これはつまり、日本政府がアメリカ政府の言いなりになっているということに他なりません。

 そもそも、米軍基地はなぜ沖縄に集中しているのでしょうか?
 それはおそらく、日本があの太平洋戦争に敗北する過程において、1945年、アメリカ軍がまず沖縄に上陸して激しい戦闘を経て占領を果たしたことに起因するでしょう。沖縄占領のあとアメリカ軍は日本本土への攻撃をさらに進め、日本は原爆投下というとどめを刺されて敗戦となったのでした。その最初の沖縄占領のときに多くの米軍基地が沖縄に設置され、それがそのまま現在まで続いてきているのでしょう。
 1972年に沖縄は日本に返還されましたが、米ソの冷戦がまだ続いていたので、抑止力保持のため米軍基地はそのまま継続されました。ソビエト連邦の崩壊により、1990年前後に冷戦は終結したと思われていますが、実は東アジアでは中国と北朝鮮という共産圏国家が存続しているため、いまだに冷戦が続いていると考えるのが妥当でしょう。その冷戦は、中国と台湾、そして北朝鮮と韓国との間において有事となる可能性があります。その有事が勃発する可能性のある台湾海峡と朝鮮半島との、ちょうど中間にあるのが沖縄です。それゆえ沖縄が軍事戦略的に重要であり、抑止力保持のため米軍基地がそのまま継続されることになったのでしょう。
 しかし、それまでは有事となる可能性がほぼ等しかったかもしれない台湾海峡と朝鮮半島のうち、今年2010年になってからは、朝鮮半島のほうにその可能性の更なる高さを見出すべきではないでしょうか?
 今年の3月、南北朝鮮の国境海域で韓国の哨戒艦が沈没し、5月にはそれが北朝鮮の魚雷攻撃によるものであることが明らかとなって、にわかに朝鮮半島での緊張が高まることとなりました。韓国は国連の安全保障理事会にこの問題を提起し、北朝鮮への国際的包囲網を形成しようとしています。北朝鮮はこれに反発していますので、近い将来ひょっとしたら、第二次朝鮮戦争という悪夢が待ち受けているかもしれません。
 だとすれば、これまでは台湾海峡と朝鮮半島とに等しく抑止力を発揮してきた戦略を見直すべきときが来ているのではないでしょうか?具体的には、これまで沖縄に集中させてきた米軍基地の一部を、もっと朝鮮半島に近い場所に移設してもよいのではないでしょうか?

 アメリカはこれまで、普天間基地の移設先は同じ沖縄県内の辺野古が最善であると主張してきました。しかし朝鮮半島での緊張がにわかに高まってきましたので、もっと朝鮮半島に近い場所へ移設することを検討すべきときが来ているのではないでしょうか?
 そこで私が着目するのは、朝鮮半島に最も近い島である対馬です。
 対馬は大昔から日本の領土ですが、日本本土よりは朝鮮半島のほうに近い位置にあるため、韓国が竹島に続いてその併合を目指しています。これが対馬問題です。そこで2009年1月、韓国の脅威に備えるため自衛隊を増強してほしいと、地元の対馬から防衛省に要望が出されました。しかし今のところ、その要望に対する動きはありません。もしそのような動きがあれば韓国の反発を招く恐れがあるので、従来の自民党政権に続いて現民主党政権も、今のところ躊躇しているのでしょう。
 韓国は日本の同盟国です。国境問題を抱えているとはいえ、冷戦状態が続く東アジアにおいて、この同盟関係は極めて重要です。その同盟関係に水を差すようなことは、冷戦状態のままの平時には控えるべきだという判断は、これまでのところ妥当でした。
 ところが今年になって、その状態に変化が起きつつあります。韓国と北朝鮮との間で戦争が起きそうな事態になってきました。もしそうなれば、日本はアメリカとともに韓国を支援するべきでしょう。
 その支援の方法として、沖縄のアメリカ軍普天間基地を韓国の間近にある対馬に移設するというのはいかがでしょうか?対馬では自衛隊増強の要望が出されています。だとすれば、米軍基地の移設も受け容れてくれる可能性があります。要望された自衛隊の増強は、当初は韓国の脅威に対抗するためのものでした。しかし韓国と北朝鮮との対立が先鋭化してきた今となっては、それは北朝鮮の脅威に対抗するためのものと言い換えることができるかもしれません。そして自衛隊増強とともに、沖縄の米軍普天間基地を対馬に移設し、韓国の後方支援に当たってもらうというのはいかがでしょうか?
 今まさに朝鮮半島で有事が勃発しようとしています。その有事に対応するための米軍基地です。現在その米軍基地は沖縄に集中しています。それよりはもっと朝鮮半島に近い場所にあったほうが、朝鮮半島の有事に際して迅速に対処できるはずです。アメリカは普天間基地の移設先については沖縄の辺野古が最善であると主張してきましたが、それよりは対馬のほうが遥かに適しているのではないでしょうか?そして対馬に移設することは沖縄県外移設であり、これは必ず沖縄の負担軽減につながるはずです。

これまで防衛問題はすべてアメリカの言いなりでした。普天間基地を日米合意に従って辺野古に移設するという政策はその典型です。何故アメリカ政府は辺野古が最善であると主張するのか?今まさに有事が起ころうとしている朝鮮半島の間近である対馬のほうが最善ではないのか?日本政府がこのような主張を始めるとき、これまでアメリカ政府の言いなりだった状態が変化してきます。東アジアの防衛問題において、日本が主導権を握り始めるときです。北朝鮮を打倒しようとする韓国を積極的に支援するこの政策は、まさしく民主党政権の目指す自主外交と呼べるものでしょう。


 私の頭の中では、普天間基地移設問題と北朝鮮問題と対馬問題とが結びついています。こうした考えを抱くようになったのは、北朝鮮に拉致された人々をどうすれば奪還できるようになるかという問いかけからでした。その問いかけの辿り着いた結論は、北朝鮮という国家を消滅させることによって拉致被害者の奪還を実現できるのではないだろうか、というものでした。その方法として、普天間基地移設問題と対馬問題とが結びついたのです。
 日本では去年から今年にかけて、普天間基地移設問題が解決できずにいることで混乱した状態が続いてきました。アメリカと韓国はこのことに懸念を表明していました。いっぽう北朝鮮はこの状態を歓迎しているかのようでした。おそらくそれを好機と見たのでしょう、北朝鮮は今年になって韓国の哨戒艦を魚雷攻撃によって沈没させました。普天間問題が解決されないでいることで、日米韓の軍事同盟に緩みが生じていると見なし、今こそ攻撃に打って出るべきだと思ったのでしょう。
 しかし、ここで怯んではなりません。逆に今こそ北朝鮮を叩き潰す好機です。日本は平和憲法の制約があるため北朝鮮への軍事攻撃には参加できませんが、米韓連合軍を後方から支援することはできます。沖縄の基地を対馬に移設して有事に備えるアメリカ軍は、韓国軍とともに、短期間で北朝鮮を占領し、戦争での犠牲者数を最小限に抑えようとしなければなりません。
 米韓連合軍が北朝鮮を占領したあと、北朝鮮の国土は韓国に併合されることになるでしょう。北朝鮮に拉致された日本人を救出するため、日本の自衛隊が北朝鮮の国土を捜索するのは、まさしくこのときでしょう。それまで政府に弾圧されてきて、ようやく圧政から解放されて自由を得ることになった北朝鮮の国民は、進んで日本の自衛隊に協力してくれることでしょう。そのときようやく、長いあいだ北朝鮮政府に拉致されてきた日本人多数の救出が実現されるのだと確信します。