オプションについて触れた記事で何度か、

『かなりのディープインザマネーのオプションであっても、満期日前に権利が行使されることはあまりないようです』
(実際今までオプションを売ってきて、途中で権利が行使されたことは一度もありません)

…と書いたのですが、本当にそうなんだろうか、そうだとしてそれは何故なのだろうか、と思って軽く調べてみたら、ズバリ解説してくれている記事を見つけたので、ほぼ丸っと引用の形になっちゃいますが紹介してみようと思います。

 

【参考: OptionsANIMAL, "How Often Do Options Get Exercised Early?" (https://www.optionsanimal.com/how-often-do-options-get-exercised-early/)】

 

 

その答をズバリ一言で言えば、

「権利を行使するよりも、同じオプションを売り払う方がお得だから」

ということになるようです。

 

 

具体例で考えてみましょう。

 

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例:対象の株が、現在50ドルだったとします。この株のコールオプション(満期まで60日)を、行使価格50ドル(=アットザマネーのオプション)で、コール価格3ドルで買いました。


(もちろん、オプション1単位は100株なので、このコール1枚買いで300ドル必要ということですね。
また余談ですが、コール購入時は、実際権利を行使することになった場合に備えて株を買い取れる余力があらかじめ必要なのかな、と思って今試してみたんですが、さすがにそれは注文時には必要ないようです。売りオプションと違いこちらはあくまで権利なので、証拠金的なものの束縛は存在しないわけですね。もし権利を行使する場合には、権利行使日までに、この例ですと50 x 100 = 5000ドルを用意しておけばよい(=注文時には必要ない)ことになります)

 

[ケース1: 最初の5日で株価が52ドルに上がった場合]
株価が上がったので、現在手持ちのコールオプションはインザマネーになりました。例えば同じ行使価格50ドルのコールが、現在4ドルで取引きされているとしましょう。

 

<選択肢1: コールを売り払う>
この場合、3ドルで買ったコールを4ドルで売却できることになるので、-300+400で、差し引き100ドルの儲けになります。

 

<選択肢2: 権利を行使する>
満期日までは残り55日ありますが、ここで権利を行使するとどうなるでしょうか?
もちろんこのコールオプションは「この株を1株50ドルで買う権利」なので、現在市場では52ドルで取引きされている株を、50ドルで購入できることになります。
しかし、言うまでもないですが、コールの購入に1株当たり3ドル消費しているので、実際は1株53ドルで購入したことと同じになります。
権利行使後にこの株を即座に売却しても52ドルでしか売れません。これでは実質1株当たり1ドル、100株の取引きでは100ドルの損失を出したことと同じであり、選択肢1と比べるまでも無く、権利を行使する意味はありませんね。

 

 

[ケース2: 最初の5日で株価が60ドルに上がった場合]
この例では、手持ちのコールオプションはかなりのディープインザマネーになっていると言えます。このオプションが、現在、10ドルの本質的価値と0.50ドルの時間的価値とで、10.50ドルで取引きされているとしましょう。

 

<選択肢1: コールを売り払う>
先ほどのケースと同じく、3ドルで買ったコールを10.50ドルで売却できるので、-300+1050で、差し引き750ドルの儲けです。

 

<選択肢2: 権利を行使する>
では権利を行使した場合はどうでしょうか?
権利を行使すると、現在60ドルで取引きされている株を50ドルで購入できます。…が、先ほどと同じく、コールの購入に3ドル使っているので、実際は53ドルで購入したことと同義になります。
よって、60ドルの株を53ドルで100株購入した、すなわち差分の7ドルx100で、700ドルの儲けになったということになります。


ここでも、選択肢1の場合より少ない儲けになっています。株価が大きく上がったとしても、『コール売り>権利行使』の図式は変わらないというわけですね。

 

 

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…長々と具体例を挙げましたが、こうなる理由としては、一言で述べると、

「権利を行使すると、オプションの持つ時間的価値も失ってしまうことになる。一方オプションを売るという選択であれば、時間的価値もそのまま売りつけることが出来る」

ということに集約されるわけですね。
オプションには常に時間的価値が付帯しているので、どんな状況であろうとも、理論上権利を行使するよりも売却することの方が有利になるため、結果として『オプションの権利というものは満期日前においてほとんど行使されることはない』という結論につながる形になるわけです。

 


それなら、いつでもオプションの権利を行使できるアメリカンスタイルなんて存在意義がないじゃん、何のためにいつでも権利が行使できるのさ?権利行使して意味のある場面は存在しないの?…という疑問が出てきますが、最もあり得そうなシチュエーションとしては、『企業が、特別配当を実施するというアナウンスをした』という例が考えられるようです。


この場合、失われる時間的価値と比較して、特別配当で得られる利益の方が多いのであれば、権利を行使して配当権利確定日前に株をゲットしておく、というのは意味のある戦略になります。

 

…と、引用元のページでは書かれているのですが、個人的には何となくですが、特別配当のアナウンスがされた時点で、速やかにオプションの価格もそれを織り込み済みの高い価格で取引きされ始めるんじゃないかな、という気がします。

 

6/27追記: 特別配当がなされる場合、オプションは調整されることが多い(行使価格が特別配当分引き下げられる)ので、もし織り込み済みになっていない価格のオプションを見ても、早まって飛びつかない方がいいと思われます。6/23の記事6/27の記事等参考にしていただければと思います。

 

もしそうなら、結局その場合もその特別配当分織り込み済みの高くなったオプションを売った方がいいのではないか、という気がしますが、満期日まで時間があり、かつ配当権利日が近い場合なんかは、もしかするとすぐにはオプション価格は影響を受けないのかもしれないですね。

 

 

また引用記事では最後に、もう一つ満期日前の権利行使があり得る場面として、ディープインザマネーで満期日まであと極僅かであり、ほぼ時間的価値の失われたオプションであれば、オプション権利保持者はちょっと早く権利を行使するという選択を取る可能性はあるかもしれませんね、と述べられています。
しかし、個人的にはもうそこまで来たなら放っておくかな、という気がします。時間的価値も「ほぼ失われた」と言ってもゼロではないですし、いちいち権利行使するのも面倒くさいですしね。

 


ちなみに引用記事ではプットオプションについて触れていませんが、時間的価値うんぬんの理論はコールでもプットでも同じなので、「売却する方が権利行使より有利」という図式は変わらないと思います。

 

プットを購入した場合の早期権利行使ですが、これは、なかなかいい例が思いつきませんね。
どうしても今すぐ現金がほしいのでディープインザマネーのプットの権利を手放したいけれど、手持ちのプットを買いたいという人がいなくて売るに売れない、という状況でしょうか。この場合は今すぐ権利を行使することで現在価格との差額をゲット、ということをする可能性はあるかもしれないですね。

 

 

いずれにせよ、原則としては、オプション購入者は権利を行使するよりむしろ転売ヤーになった方がいいということで、満期日前にオプションの権利が行使されることはほとんどないと言える、というお話でした。

 

オプション売りメインで行く人にとっては、途中一時的にインザマネーになってしまっても、権利が行使されて即敗北ということにはまずならないと言えるので、むしろありがたい仕組みと言えるかもしれないですね。時間は売り手の味方です。


途中負けそうになっても、時間が経過してくれることで自分の売ったオプションの価値が下がり、最終的に何とか勝利を掴んだ、というのはよく聞く話です。


もちろん時間の経過に伴いさらに思ったのと逆の方向へ移動してしまって損失が拡大することも十分あり得るので、いつだってオプションの売り手に油断が禁物であることには変わりは無いわけですが…!