(前回のあらすじ)
謎の『しりとり回』を終え、見事爆死したコブチャ氏。
しかし、オプション取引の達人オプーナ氏が身元引受人となり、心を入れ替えたコブチャさんは、以後見違えるように人として大切な何かを取り戻していく。
粉骨砕身この島の発展に全力を尽くしたコブチャさん、最後には島一番の功労者として島の者全員から愛され慕われる存在へと変わっていた。


さてそろそろ次の世代に全てを託す頃、自分なりにやり切った充足感と心地よい疲労感とで、「…ふうっ。なかなかどうして、悪くない人生だったな…。あの時の約束、自分の犯した過ちの償いが、このちっぽけな手を通して出来たのかどうか…それは分からないけれど……きっと……」と感慨に浸っていたその時、彼の目に映ったものは…!!
……というのは全く関係のないお話。以後彼は二度と出てきません(多分)。

 

 

一方スライムは、こちらは残念ながら爆死中…。
株価爆発を引き起こせるその日まで、少しでも体勢を整え直したいところだが…果たして突破口はあるのか…?

 


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ス「オ師匠。気付いたのですが」

 

オ「何ですかナ?」

 

ス「ETFっていうのがありますよね。日本語でいうと上場投資信託、簡単に言えば、ある特定のテーマの株価(※注)の平均値(株価指数)と同じ推移で動くように設計された株、って感じで捉えちゃっていいかと思うんですが」

(※注: ダウとか、バイオ小型株とか、株価に限らず原油価格とか、さらにはアメリカ国内のものに限らず中国株ロシア株やら日本株なんてのも)

 

オ「ありますナ」

 

ス「これもオプションに負けず劣らず魅力的な商品だと思うんですけど、ETFには単純な指数連動型だけじゃなくて、指数変化の真逆に動くよう設計されたもの(=ベアETFまたはインバースETF)もあるみたいなんです」

 

オ「ありますナ」

 

ス「ところがこれ、その性質上、確実に減衰していく仕様になってるみたいなんですよ。
(ETFは「前日比」で動くため、仮に株価が100→80(20%ダウン)→100(25%アップ)と横ばいで動いたとしても、ベアETFは100 x 1.2 (20%アップ) x 0.75 (25%ダウン) = 90と、現状復帰できず減衰する。「上がって下がる」パターンでも同様。さらに、ETF運営費用(?)として、信託報酬が日々引かれているのも無視できない。)
…また、言うまでもないんですけど、連動してる指数変化の3倍で動くように設定された『3倍ETF』なんかではそれが顕著みたいで」

 

オ「でしょうナ」

 

ス「そこで、例えばTZAっていう『アメリカ小型株(※注)連動・ベア・3倍ETF』のチャート見てて思ったんですけど、もちろんアメリカ小型株が長い目で見て成長し続けてるってのもあると思うんですが、やっぱりそれ以上に多分減衰効果の影響で、もう本当あり得ないレベルで株価がだだ下がってるわけですよ」
(※注:Russell 2000という、米国市場の時価総額上位3000社の内、下位2000社で構成)

 

 

ス「見て下さい、ETFはあまりにも価格が下がりすぎると株式併合されて適正な価格に戻されるんで、実際に当時その価格だったわけじゃないんですが、2008年にはなんと37,000ドルだったんですよ!1株3万7千ドルだったのが、今や40ドル。初めて見た時あたしゃ目を疑いましたよ」

 

オ「で?」

 

ス「で、ですよ。不景気・下りトレンドが来たらベアETFは上昇していくんで、必ずしもすぐには大暴落しないかもしれないんですけど、やっぱり最終的には減衰効果でベア3倍ETFっていうのはガンガン値減りしていくのが目に見えてる気がするんです。そもそも設定がそうなってるわけですし。
   そうすると、それを見越してこいつのプットオプションなんかを買っておけば、大儲けできるんじゃなかろうかと思いまして。ベア3倍ETFの最長期間のプットを買う、これ必勝法と思うんですが、どうなんでしょう?」

 

オ「ワカラン」

 

ス「ナ…そんな無責任な!」

 

オ「私にだって…分からないことぐらい…ある……じゃなくて、そんなもの分かる人はいませんよ。未来を正確に予知できる人なんていませんからね。ファンタジーやメルヘンじゃあないんですから」

 

ス「いや、一般的に、そうなる確率が高いと言えるかどうか、ぐらい教えてくれたっていいでしょう」

 

オ「スライムさんナ、私は別に意地悪をしてるわけじゃないんです。私が確率が高いと言ったら、それによって信憑性が増したりするんですかナ?私が死ねといったら死ぬんですかナ?…何やら小学校の先生みたいな物言いですが、何事も自分の考えで判断するのが一番です。特に市場取引なんて、自分以外誰も責任を取ってくれませんからナ」

 

ス「でも絶対いい方法だと思うんだけどナァ…」

 

オ「仕方ありませんナ、では具体的に見てみましょう。こちらがスライムさん注目のTZAのオプション板ですナ。現在最長の2018年1月限りが表示されていますナ」

 

 

ス「や!現在価格よりわずか半分程度までしか下がっていない株価(行使価格20)のプットが、ほとんどタダ同然で取引きされてるじゃないですか!これで勝てる!!」

 

オ「なるほど、もしスライムさんが最新の取引値0.65ドルでプットを購入したとして、2018年1月までに、TZAが19.35を下回れば、プットオプションの権利を行使して、利益になりますナ。またもちろん、19.35まで下がることがなくても、株価が下がった時点でプットの値段は上がりますから、株価が下がった時にプットを売り払って、その差額で利益を得ることも十分可能でしょう。
  いずれにせよ、もちろん株価が下がれば下がるほど利益が生まれるわけですナ。仮に2018年1月第3金曜日に、TZAが5ドルにでもなっていれば、20ドルから差し引き15ドルの100倍の儲け、 つまりプット1単位あたり65ドルの投資金額が1500ドルになって返ってくる、実に20数倍だかの利益になりますナ」

 

ス「ほらキタコレ!早速資金を工面してこなくっちゃ!!スライムレーススライムレース…格闘場の後に1-2…」

 

オ「あいや待たれぃ!頭カラッポにも程があるでしょう。夢を詰め込む前に絶望が詰め込まれてしまって涙するスライムさんが目に浮かびますですナ。
   なるほど減衰効果でベアETFは一般的には値段が下がっていくでしょう。しかし2年(現状実質2年に満たない)というのは本当に十分なのですかナ?それぐらい確認してもよかろうでしょう。
   Yahoo Financeのチャートの表示を2年にし、チャートをスライドしていきましょう。確かに2年という時間の経過に伴いTZAの株価は大分下がっていることが多いようですが……あっ!早速こんなパターンが」

 

 

オ「2年チャートなので端から端までがちょうど2年間の動きですが、2016年2月11日のTZAは71.54、丸2年前と比べて0.25%ほど高値のようですね。それでなくとも現在の最長オプションは丸2年よりも短いので、期間が2年未満、例えばこのチャートの始まりがもう少し右側の下がっている部分だったとしたら、これはもう『惜しくもダウンならず』ってレベルではありません。むしろ2年間で結構アップすらしとりますですナ。
…ま、結論を言えば、確率は高くとも、2年という時間では絶対に大暴落していると言い切れるほど確実な話ではない、ってことですナ」

 

※追記: 当時はオプション取引に関して、ほとんど満期後の権利の行使にしか目が行っていなかったので上のような話を出してしまいましたが、実際は途中の株価が下がっている段階で、価格の上がったプットを売り払うことによって利益を得ることは十分可能にはなっています。

しかし、大不況でも来たら2年弱で途中の谷すら来ない可能性はありますし、やはり確実に利益を上げられるわけではないように思います。

 

ス「ちぇーっ、つまんないの!せっかくすごい発見したと思ったのに…。モンスターから初のノーベル経済学賞受賞も待ったなしかと思って、もうスピーチで何言うかまで考えていた(一言目、『ぷるぷる、ぼく、経済が出来るスライムだよ!つまり、悪いスライムっていうことだね!(笑)』で笑いをとる)というのに…。これじゃ全部無駄な努力になっちまいそうだよ、トホホ…」

 

オ「まあまあそう落ち込まずに。…ただ、一つ間違いなく言えるのは、『市場は、スライムさんより遥かに賢い』…ということは、やっぱりあるでしょうナ。スライムさんが30秒ぐらいで考えたアイディアなんて、多分30億人ぐらいが既に同じことを考えてるわけです。
   仮にそれが必勝法だったとしましょう。あるいは10年先のオプションがあったとして、スライムさんの言うように減衰効果でまず間違いなくTZAの株価が十分の一、百分の一になっていることが予想できるとしましょう。その場合、まず間違いなくプットオプションもそれ相応に高い価格で取引きされており、とても生半可な株価の下落では大きな利益が出せないような状況になっているハズでしょうナ。
   十分成熟した市場において、抜け道必勝法などは決して存在しないのです。仮に存在したとして、その方法は、スライムさんの手に届く前に、間違いなく、既に合理的なリスク・リターン比になるまでに標準化されていることでしょうナ」

 

ス「市場にはガッカリだよ。もっと弱い者を助ける心掛けみたいなものがあってもいいんじゃないかな!?」

 

オ「それは残念ながら、ゲームの世界にしかないでしょうナァ…。スライムさんは、例えばGLBS株が突然50ドルに上がったとして、『自分より弱い者のために売るのはやめよう』などと考えますか?そんなことは考えないでしょう。非合理的な選択をあえてする人などおらず、それが積み重ねられた結果、市場というものは、時に冷酷とも思えるほど徹底的に理に満ちているのかもしれませんナ…。理が尻尾を巻いて逃げ出すようなスライムさんにとっては、やや居心地が悪いこともあるかもしれませんが……現実は厳しい、それをゆめゆめ忘れないことです」

 

ス「でも、株取引は楽しいよ。楽しいだけじゃダメなのかなぁ…」

 

オ「スライムさんはお世辞にも賢いトレーダーとは言えないのですから、取引が成立した時は、『自分より賢い人が、自分とは全く真逆の選択をした』と言っても差し支えないわけなんですナ。欲しかった株を買った、さぁどうなるかワクワク、と浮かれる前に、それが一体どういう意味なのか、なぜ自分が買った瞬間に同じ株を同じ数売った取引相手が存在したのか、そのことを一度落ち着いて考えてみるのも意味があることかもしれませんナ」

 

 

 

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本日スライムの取引はお休み(と言いつつそもそも最近ずっと取引はしていませんが…)。
GLBSは順調に下がって最早危険水域に。そろそろ決断が迫られる時期かもしれないぞ、スライムの判断やいかに!

 

 

 

※ブログ記事タイトル、「通算損益」はタグ付けしてあって記事タイトルにする意味もないので、今後は中身に応じてタイトルを変えて行こうかと思います。時間のある時に、以前の記事タイトルもちょこちょこ編集するかもしれません。わざわざ宣言する必要もない、どうでもいいことですが…。