喫茶店を出てからは、りんさんが荷物を持ってくれた。


り「このリュック何が入ってんの?」

私「折り畳み傘とか手帳とか普通に教科書とか」

り「あなたはもう少し背負う物を軽くした方がいい」

私「…」

り「色んな意味で」

私「…」

り「あと眼鏡ちゃんと変えなさい。眼鏡あわないだけでものすごく身体に負担がかかるんだから」

私「はーい…」



~取れたレンズをアロンアルファで付けててごめんなさい~

(女子力どこいった)



彼の家に着いて、紅茶を淹れてもらった。


彼に借りたジャージとフリースを着てぼーっと紅茶飲んでクッキーつまんでる私を見て

り「なんか…いいね、なじんでるね」

私「そうですか?たぶん部屋が片付いてないから落ち着くんだと思います(笑)」


うん、本っ当に部屋汚かった…!(笑)



り「そうか。よかったー片付けてなくて」

私「…うーん」



りんさんがベッドに腰をおろして、床に座っていた私の頭を撫でた。

溜まっていた何かが溢れそうで、先輩の膝に頭を乗せる。

本当は過呼吸を起こしたあの日の夜みたいに抱きつきたくて仕方がなかったけど我慢してた。


りんさんは「よしよし」って言って、ずっと頭を撫でててくれた。



「いいよ。おいで」




その言葉が引き金なって、先輩の隣に上って抱きついて泣いた。


「大丈夫、ここでは何でも許される」


「よく頑張ったよ。よく頑張った」



頭を撫でて、抱き締めてそう言ってくれる度に、部屋が水で満たされるような不思議な感覚が私を支配する。



すいませんこっからピンクライト入ります\(^o^)/



「大丈夫?横になる?」

「うん…」

泣きながらベッドに横たわった私の隣に彼が入ってくる。


最初は、側にいるだけで。

次に、手を繋いで。

気付いたら、抱きしめられていた。


私を支配していた不安から逃れるように私も彼に抱きつく。

それに応じて彼の抱擁もきつくきつくなっていく。



これ以上無理ってくらい、力を込めて抱き合った。





しばらくは、そのままひたすらにぎゅうーってしてた。



その話が一段落ついたら、演劇のことも話したり。

(ちなみにりんさんと私は同じ演劇サークルに所属している)


うちの大学には演劇サークルが複数あるため、他のサークルの公演についても語り合ったりした。
…正確には、りんさんの劇批評をひたすら私が聞いていた(爆)。



り「当日アンケートあるじゃん。俺さ、ああいうの即座に書けないんだよね」


私「私もです!その場で文章にできなくって…
え、でも今りんさん色々語ってたじゃないですか。

すごいなって思いながら聞いてたんですけど。

私はうまく言葉にできないで終わっちゃうんです」


り「観た直後は俺もそうだよ。でもそこからじっくり考えて、また色んな芝居を観て、そしたら前に観た芝居がフッと理解できたりするんだよ。
それに俺はゲームのシナリオ書いてたこともあったから、芝居を観てストーリーを分析して、伏線とそれによるミスリードを割り出すのが好きだったりもする」


私「なんか…すごいですね…。私はうまく言葉にできないままで終わります…。



ちょっと話ずれますけど、わたし゛言葉゛が好きで、でも怖いんです。

助けたい人を助けられなくてすごく悔しかったり、逆に私の言葉で誰かを救えてすごく嬉しかったり。

もちろん誰かの言葉で救われたことも傷つけられたこともあったし。
頼り方が分からなくてSOSが相手に伝わらなくて、まぁ私が悪かったんですけど、大変だった時もあったり」


り「……俺はさ、自分の身をけずらなきゃ誰かを助けられないって思ってたんだ。

でもそうすることで自分がオーバーフローするギリギリまで追いつめられて

ちょうど今年の春くらいかな。

だから、ちょっと冷たい言い方だけど、割り切ることにしたの。
なんだろ…上手く言えないなぁ…。幽体離脱するっていうの?」


私「…はぁ」


り「ごめん、わけ分かんないね(笑)。

つまりさ、自分も相手も客観的に見なきゃ、相談に乗れないと思うんだ。


゛今ここにいる自分゛

゛話を聞いている自分゛


を完全に別物にするの。

そうしたら、全面的に頼られてもオッケーなんだよね。

完全に゛話を聞いている自分゛の方に頼らせるから。

…話、分かる?(笑)」


私「分かったような、分かんないような……。

なんていうか、今の話自体に共感はできないんですけど、りんさんがそうやって人の相談に乗ってるんだってことは分かって、でも理解はできないというか…
私が言ってることこそ分かります?」


り「うん、大丈夫、分かるよ。

まぁさ、年齢が全てではないけど、あなたの年齢で言いたいことがちゃんと言えたり、4つ上の俺の言うことが理解できたらそっちの方が驚きだよ」




そりゃあね、喘息とアレルギーとアトピーと自律神経ryもってて高校4年かけて卒業して2浪して大学入った人の話がすんなり理解できるほど人生経験積んでませんよ…!(震)



り「だからさ、あー……あー?まぁ、言葉は無力だってこと!笑」

私「はぁ(笑)」


り「でも、俺には全面的に頼っていいから」



…不意討ちとか卑怯だよね←

りんさんはちゃんと私の目を見て言ってくれた。


彼の言葉が本物だからこそ、
本当に大変な時だけ頼ろうって
限界がくるまでは頑張ろうって
そう決心できた。


私の病気のことを知った上でこんなにキッパリと「頼っていい」と言われたのは初めてで。

何か言う前に、テーブルに突っ伏して泣いていた。

りんさんはテーブル越しに「よしよし」って言って頭を撫でてくれた。



ようやく落ち着いたと思ったら、また動悸がはげしくなって、すぐに気付いてくれた彼が、黙って手を握っていてくれた。



「大丈夫?」

「うん…」

「…俺んち来る?」

「…うん……」



そうして、2人で喫茶店を出た。

機械的に記録してるだけだからあんまり心理描写とかないけど、とりあえず書いておく。


あなたの言葉を忘れないように。




りんさんの行き着けらしい、駅前だけど人の少ない小さな喫茶店に入った。

頼んだのは、りんさんがコロンビアとレアチーズケーキ、私がブレンドとトースト。


注文のときりんさんが

「食器選んでいいですか?」

ってお店の人と奥に消えていったから、そんなサービスもあるのか…なんて1人で感心していた。


コーヒーが運ばれてきて、

りんさんのは白地にかすかに緑がかった青のラインが入ったウェッジウッドのカップ。

私のは、深い青で花模様が描かれたカップ。とっても綺麗なカップ。


「俺が選んだの。あなたに合うと思って」


そう言ってくれた。



私「母親が、ほんと病気に理解ない人で…わたし食物アレルギーも持ってるって言ったじゃないですか?
あれも゛意識しすぎなんじゃないの?゛とか言ってきて…」

り「うっわそういうタイプか!めんどくせぇぇ…!」


私「すごく健康な人なんですよ。だから、自分の友達で更年期障害に悩んでるって人の話とか聞いても
『気にしすぎじゃない?意味分かんないよねー』
って私に言ってきたりして…正直、聞いてるの、すごく嫌だ。
もちろん彼女にもストレスがあることくらい分かってるし、彼女を強いと思ってしまう私にも問題があるのかもしれませんけど…」



り「いや、いるよ。そういうタイプの人間。もちろん人間みんな悩みは抱えてるけど、強い人間ってやっぱいるよ。

気合いでストレスをはね除けられる人間。
気合いでストレスをはね除けられると思ってる人間。

そういう人はさ、他人の苦しみが分かんないんだ。

そういう人たちに限って経験を年齢と結びつけようとするけど、それは違う。
俺たちの苦しみって俺たちにしか分からない特殊なものじゃん。

それを経験したことが無い人に分かるはずがない。

だけど理解しようとすることはできるはずなんだよ。
その点彼らは他人の苦しみが分からないことを分かってない。





知らないことを知らないっていうのは、ある意味最も罪深い。

この世にはそういう種類の悪が多すぎるんだ。





でも考えてごらん。
彼らに比べて俺たちには相手の苦しみを想像する力がある。

俺たちの方がその分だけ彼らより優れているんだ…って言うと語弊があるかもしれないけど。
いま彼女はあなたが苦しんでいることを知らないことを知らない。

それはとても可哀想なことなんだよ。

だから、あなたが分からせてあげるんだ。

少しずつ伝えていかなきゃ。

もういやだ、って何回も思うだろうけど。

彼女が他人の痛みを知る、最初で最後かもしれないいい機会だよ。

それに、そういう人間に限って年をとってから他人には分からない苦痛を味わったりするんだ。誰に言っても分かってもらえない苦しみをそこで初めて知って、相手の不調を弱いだけと笑い飛ばした昔の自分を思い出す。まぁ、その時になって後悔しても遅いけどね」



もちろんりんさんがぶっ続けで話したわけではないけれど、大体こんなことを言っていた。
あくまで記録。



いったんここで切る。


12月1日、りんさんの家に行った。




その日は呼吸の調子がかなり悪かった。
たまたまりんさんと2限の授業がかぶっていて、私の息が荒いのに気が付いて向こうから声をかけてくれた。


り「大丈夫?」

私「最近調子わるいんですよ…」

り「そっか…どうしたもんかなぁ」


きゅっ、って手を握ってくれた。
そのままマッサージするように指先で私の手を押してくれて、手の平を返した時に私の傷痕に気付いた。



り「…外出よっか」

私「ん…」


昼休みに予定があったらしいのをキャンセルして私に付き合ってくれた。
最初は人気のない廊下で立ち話してた。


り「答えたくなかったらいいんだけど…よくやるの?」

私「2年ぶりに…もうやらないと思ってたんだけど…」

り「そんな前から?さっき見たところ割と手首綺麗だったよ?」

私「やるの腕だから…手首は、親にバレたら怒られるから…」


り「んー、怒るのは意味分かんないけどなぁ………。最近調子わるいの、なんかあった?」



自分の不安を話すのはこわかったけど、りんさんの声がとても温かく感じられて。

公演が終わって以来ずっと頭を支配しているモヤモヤを、少しずつ吐き出すことにした。




私「授業とか…頑張ってるけど、体調悪くて休んじゃったりして、単位やばくて…」

り「うん」

私「他人にすごい迷惑かけないと生きていけない自分の身体がすごく嫌い…。今もこうやってりんさんに迷惑かけてて、もうやだっ……」←泣きだす

り「俺は別に大丈夫だよ」


私「親にも…体調悪いの、言って…なくって……」

り「うん。何で言えないの?」

私「前に少し言ったけど…あんま分かってもらえなかったし、…じゃあもういいやって……」



(病院に運ばれた時「何があったの?」って聞かれて適当にしか答えなくて逆ギレされたことがあった)



り「そっかそっか」


私「゛どんな風になるの?゛って、聞かれても、あんな怖いの…口で説明なんかできない……!」



氷雨、既に号泣。


り「お母さんに、そう言った?言葉にできないくらい怖いんだって…」


私「…(首を横に振る)」


「…どっか行こっか?静かに話せるとこ」



そして、駅前にある落ち着いた感じの個人経営の喫茶店に入った。

その次の日、私は本格的なパニック発作をおこして倒れた。

驚いた先生が救急車なんか呼んでくれちゃって、たかがスタッフの1年のためにおおごとになってしまった。


その時のことはあまり覚えてない…というか、思い出したくない。



思い出せるのは




”死ぬかもしれない”



という恐怖。


そばにいてくれた、りんさん。



「大丈夫だよ」


って。


「ここにいるよ」


って。



まっくらで、苦しくて、身体がガクガクして、怖くて、涙が止まらなかった時、ずっと手を握っててくれた。


あの人の手だけが”光”だった。





発作が治まって、泣きながら横たわっている私に



「よく頑張ったね…いいこいいこ」



って囁いて、頭を撫でてくれた。





今思えば、書いてて涙が出そうなくらい幸せな思い出。