《 Shigeaki side. 》


「やっぱりシゲだったんだ。」


俺の後ろから声がする。
聞き覚えのある声。
聞き覚えのありすぎる声。
うん。来ると思ったよ。


「…まっすー」

「邪魔しちゃってごめん、小山」

「手越を送ったんじゃないの…?」

「送ってきたよ。でも手越明日収録みたいでさ、ホテルでいいーって。少し心配だったけどマネージャーに連絡入れてホテルに寝かせてきた。」

「そっ…か」

「うん。ねぇシゲ、俺のこと、わかる?」

「…あぁ、わかるよ」

「え…?」

「言ってみてよ」

「…」

「シゲ」

「ヴァンパイアハンター、だろ?」


まっすーが俺と小山の間に入る。
そこはちょうど街灯が当たっていない場所で、表情が読み取れない。
もうちょっと登場すんの待っててよ…
俺、小山に聞きたいことがあったのに。
いつから気がついてた?とかさ。


「シゲ…俺、お前のこと狩らなきゃ」

「…え?」

「待って」


パチン、と指を鳴らす。
その瞬間、まっすーの向こう側で小山が地面に崩れ落ちた。


「…すごいね、やっぱり吸血鬼ってのは」

「これ以上小山に聞かせらんないからね」

「優しいね」

「まぁね」


まっすーが歩き出し、小山に近づく。
少しだけ笑っているまっすーの顔が見えた。
まっすーは小山に触れることもなく、ただそばに立つだけだった。
もう一度、パチン、と指を鳴らす。


「次は何したの?」

「時間を止めた。」

「あぁ、俺それ知ってる。止められたことあるんだ」

「うん、知ってる」


特にお互い緊張することもなく、日常会話なんじゃないかと錯覚する。
狩る者と狩られる者、お互い今は敵同士だっていうのにね。


「もう1回言うけど俺、シゲを狩らないといけないんだ」

「知ってるよ。中丸くんと話してたの、俺のことだろ?」

「うん。でも情報が曖昧でさ、中丸はシゲって確信づいてはなかった」

「隠してくれたんだ」

「うん」


いつものような柔らかい笑顔でまっすーが微笑む。
なんでそんなに普通なんだよ。
なんでそんなに余裕なんだよ。


「俺、今までずっと考えてたんだ。特に最近は、このまま俺もお前も普通になったらどれだけいいことだろうって。そしたらこれからもずっと4人でいられたのかなって。なんにも知らないアイツらの言葉を聞くたびに胸が張り裂けそうになった。」


突然、まっすーが顔を歪ませる。
その表情は俺に対する憎しみか、悲しみか。


「俺…本当は」




お前を狩りたくない」


あぁ、まっすーまでそんなことを言い出すのか…







《 Masuda side. 》



「…まっすー、ここから本当の答え合わせをしようか」

「…え?」


シゲが語りかけてくる。
眉毛を八の字にさせて、下手な作り笑いを浮かべている。


「俺とまっすーが出会ったのは偶然だと思う?」

「…どういう」

「本当は偶然なんかじゃないんだ」

「…運命?」

「まぁそんなもん」

「何が言いたいんだよ」

「つまり俺は」


淡々と奇妙な言葉を並べていくシゲに恐怖を感じる。
このシゲは本当にシゲ?
それとも、俺が追い求めていたヴァンパイア?


「俺はまっすーと出会うためにここに来たんだ」

「…は?」


どういうこと?
シゲが、何のために俺に?


「何のためにって顔してるね」

「そりゃそうだろ…」

「俺、知ってるんだ。まっすーの役目」

「…え?」


なんで、お前が?
なんでシゲが俺の役目を知ってるんだ?
ヴァンパイアハンターの役目は誰にも知らないはずなのに。
この世の誰にも。


「教えてあげようか」

「うん」

「…まっすーの役目は」

「うん」

「俺を狩ること」


あぁ、なんだ。
そういうことか。
俺とシゲが出会ったのは偶然なんかじゃなくて、俺が普通になるための必然だったんだ。
まさに神様のいたずら。
皮肉なもんだ。


「まっすー、俺を狩れ」

「…シゲ、本気?」

「俺はその為にまっすーに出会ったんだ。神様のいたずらで導かれた」

「…バカ言うなよ」

「お前に狩られる為に」


シゲの目は本気だった。
冗談でもなんでもない。
やっぱり運命ってのは決まってるんだ。
ただひとつの神様の誤算は、シゲがその神様のいたずらに気がついてしまったこと。
本当はこのままいけば俺がシゲを29日に狩るはずだったんだ。
でもシゲは俺とシゲが出会ったことの意味を知った。
俺の正体に感づいてから自分たちはいずれ狩る狩られるというゴールに行き着くことに気がついたんだろう。


「…俺とまっすーが出会った時からこうなることは決まってたんだ。全ては偶然のようで、必然だったんだ」

「俺たちは今、運命に抗っているのか?」

「…わからない。もしかすると神様はこのことまで計算済みかもね」


つまり、これが本当の運命ってことかもしれないってことか。
…やべ、ややこしくなってきた。


「まっすー、覚悟は決めた?」

「いや…」


狩りたくないなんて、本当はヴァンパイアハンターがヴァンパイアに言うなんて間違えてる。
そんなことわかってるよ。
でもここまで長い時を共にしてきた仲だから…
狩るなんて…殺すなんて、無理だよ…







《 Shigeaki side. 》


これ以上、揺らがないでくれ。
これ以上、俺に残りたいという気持ちを与えないでくれ。
まっすーは意を決してここに来たんじゃないの?
なんで…揺らいでんだよ。
俺はヴァンパイアだよ?
この世界にいちゃいけない奴だよ?
人間に危害を与えんだよ?
もう一思いに狩ってくれよ…


「まっすー、じゃあ二択にしようか。」

「選択肢があんのかよ…」

「まっすーが俺を狩るか、もうひとつ」

「うん」

「俺が自分で消える」

「…うん」


選べなんて、言えない。
俺はただ二択を出すだけ。


「俺は…シゲを狩りたい狩りたくないんじゃなくて、シゲを失いたくない」

「だめだ。まっすーはヴァンパイアハンターだろ?そんなこと…ヴァンパイアに言うなんて間違ってる…」

「うん、わかってる。この言葉がどんなに罪深いか。でもさ、もう俺はどっちにしろ普通になるんだろ?」

「…うん」

「だったら最期くらい正直でもいいんじゃないかな」


その言葉に何も言えない。
まっすーが俺を狩っても、俺が自分で消えても、この世界から俺がいなくなればまっすーは普通になれる。


「…ごめん、シゲ。俺…弱虫だ。俺…やっぱりシゲを狩れない。」

「…まっすー」

「狩るつもりで来たんだ。断ち切るために。でも俺…この手でシゲを裁くなんて…」

「…じゃあわかった。まっすー、目を瞑って」

「…な、何するんだよ」

「早く」

「…ん」


まっすーがタジタジになりながらも目を瞑る。
自分のスポットライトから抜けて、まっすーと小山のいるスポットライトに移る。
そして、パチンと指を鳴らす。


「…っう」

「…まっすー、ごめんね。
今まで俺がお前を苦しめてた。
俺がすぐに消えればまっすーは普通になれたのに。悩まずにすんだのに。
苦しんでいること、わかってたのに。
それでも結局は自分が可愛くて、残りたいって気持ちに甘えてた。ごめん。」

「…っうぅ」


呻き声を漏らし、頭を抱えるまっすーに謝る。
こんなやり方は卑怯だってわかってる。


「まっすー…ごめん」


もう一度パチンと指を鳴らすと、まっすーは頭から手を下ろし、ふらふらしながら俺を見つめた。
本当は、裁かれた方がいいんだ。
また俺はこうやって元の世界に戻って生きていくのか。
まっすーを…コイツらを苦しめるだけ苦しめて。
だったら俺なんて…俺のことなんて、忘れた方がいいんだよ。


「…誰?
…っ小山?!おい!小山!!」

「…」

「お前がやったのか?!小山に…何をしたんだ!」


まっすーが小山を揺する。
目に焦りを浮かべながら、激しく揺する。
俺を誰だと叫び、睨みつけながら激しく揺する。
さっきまでの穏やかさはどこへやら。
俺は何も言えなくて、ただ倒れている小山をしゃがみこみながら激しく揺するまっすーを立ったまま眺めていた。


「お前が…やったんだろ?小山を…」

「…俺が、やった」

「…っこの!」


まっすーが俺の胸ぐらを掴む。
その瞬間、まっすーの目がカッと開かれた。


「お前…吸血鬼だな…?」

「…そう、俺はヴァンパイア」

「俺は、ヴァンパイアハンターなんだ。」

「…そうだったのか」


わざと知らなかったフリをする。
少し笑ってやると、まっすーの目がさらにキツくなるり、それと一緒に殺気も強くなる。


「悪いがお前はここで…




狩る」




…それでいいんだ。
自分勝手だってわかってるよ。
みんなの中にある俺の記憶を消して、その上それを利用して狩られようなんて。
自分勝手にも程があるよな。
今までさんざん好きにやってきたクセにさ。
でも許してくれ。
本当は今日、自分で自分を殺すつもりだった。
でもここにまっすーが来てしまった以上、自分で自分を殺すのはもっと無責任で、もっと自分勝手で、もっと自分に甘いと思うんだ。


「あぁ…好きにすればいい。俺はお前に狩られに来た」

「馬鹿なやつ」

「…でも、ひとつだけ…お願いがある」

「なんだ?」

「俺に十字架を下すのは…俺が小山を家に送った後にしてくれないか?」

「なんでお前が小山を…」

「親友なんだ」

「吸血鬼のくせに?小山の親友?」

「…親友なんだ…大切な」


俺は本当にどれだけ自分勝手なんだろうか。
さっきみんなの記憶から俺を消したから、小山の記憶にもう俺はいない。
この世の誰も俺のことを知らない。
それでも、コイツとは親友でいたいんだ。
気持ち悪いかな…
でも…最期くらい正直でもいいだろ?まっすー。


「…いいよ」

「えっ」

「その前にひとつ聞かせて。小山はなぜ倒れてた?」

「…俺が、元の世界に帰る為にお別れを言ってたんだ。サヨナラって。そして眠らせて、家に送ってから消えようとしてた。」

「…そう。じゃ、送ってこいよ。そのかわり、また戻ってこいよ」

「わかってる」


眠っている小山を抱きかかえ、さほど遠くない家まで歩き出す。
合鍵で鍵を開け、中に入り、2階の寝室へと移動する。
俺よりも身長が高いコイツは重い。
階段を苦労しながら登り、小山を柔らかいベッドの上へと乗せる。
静かに規則正しい呼吸をしている小山の顔をよく眺めたのはいつぶりだろうか。


「…小山」


ベッドの脇に座り、眠っている小山の手を握る。
この手を離してしまえば、俺はもうこの世界にいない。
小山と、コイツらと共に笑えない。
今となってはもう、今までの思い出は俺の中にしかないのだけれど。


「小山…サヨナラ」


小山の手に絡ませていた指をひとつひとつ外していく。


「…いてっ」


あと少しというところで、手全体に暖かい感覚が広がる。
強く、強く握り返された。


「…シゲ?」


その一言に、息が詰まる。

なんで、どうして、お前が俺を呼ぶんだ。
今のお前には俺の記憶なんて一切ないはずなのに。
どうして、なんでだよ。
おい、小山。

小山を見るとさっきと変わらず固く目を閉じていた。
気がつけばまた規則正しい寝息が聞こえる。


「小山…っ、小山ぁ…」


この手を、もう離さなければいけない。
離してしまえば、もうこの手の温もりを感じることはできない。
何故か俺の頬に涙が伝った。
俺に泣く資格などないのに。


「…サヨナラ。」


本当に、これが最後のサヨナラだ。
静かに手を離す。
もう一度握り返されることはなく、俺は静かに扉を閉めた。


「…逃げたかと思った」

「逃げるわけないだろ。俺がお前に狩られに来たのに」

「何が目的かは知らないけど、自分から狩られに来るなんて変わってるね。お前」

「そうかな」

「まぁいいや、吸血鬼のことなんて。もう覚悟はいい?」

「とっくに」


手越の顔をもう一度見たかったな。なんて思ってみたけど頷いた。


「…じゃ、サヨナラ」

「…サヨナラ」


まっすーはこれまでに見たことのないほど冷徹な顔で、何のためらいもなく俺の胸に十字架をかざした。
胸が痛い。
うずくまりたくなるのを耐えながら、必死に笑顔を作る。
サヨナラ。さよなら、まっすー。
もうすぐ、自分が消えるのがわかった。


「まっすー…いや、増田貴久」

「ん?」

「おめでとう。」


最期に、君に精一杯の祝福を。


「君は、もう自由だ」


視界がぼやけて、意識がなくなる瞬間に見えたのは多分、まっすーの涙。






《 Masuda side. 》


なぁ、知ってた?シゲ。
俺、お前が思ってるほど簡単じゃないんだよ。


「ばか…だなぁ…」


次から次へと流れてくる涙を急いで拭っていく。
記憶操作はヴァンパイアハンターには効かない。
だって、記憶操作されちゃったら狩れないじゃん?
そんなこと…ヴァンパイアのお前が知るわけないよな…
俺の中から何かが消えていく感覚。
きっと、“ 普通 ” になっているんだろう。


「…シゲ、ありがとう」


お前が俺を普通にしてくれた。
俺…演技どうだったかな?
ちゃんと上手くやれてた?
お前が背中を押してくれたんだよ。
俺を狩れって、効きもしない記憶操作を使って。
俺はそれに効いたふりをした。
そして、勢いに任せて狩ったんだ。
お前を。

もしも、シゲとの出会いがこんな形じゃなかったら。
もしも、シゲも普通で俺も普通だったらどれだけ良かったんだろう。
もしも、俺とお前がこんな関係じゃなかったら、
もっともっと4人でNEWSとしていられたんだろうか。
もっともっと4人で笑い合えていたんだろうか。

もうこの世にも、小山と手越の記憶の中にもいないお前の姿を、これかもずっと俺はひとりで探し続けてしまうんだろう。

シゲの消えた場所には十字架が落っこちていた。
ヴァンパイアが消えた証拠。
それを拾い上げてポケットにしまう。

シゲがいなくなったことで再び動き出した時計の針は、12時ぴったりを指している。




長い長い物語。


長い長いプロローグ。


長い長い前置き。


そして、一瞬で過ぎていく本編。



この物語に終止符が打たれ、
ようやくステージは幕を閉じた。