「ねえ、ずっと気になっていたんだけど、千歳さんが提出したって言う退学届、何て書いてあったの?
写しを握って自殺未遂を起こしたって言っていたでしょ」
「退学事由として、『愛想を尽かした為』 と記されていた。
頑固な千歳ちゃんらしい、筆圧の強いまっすぐな字体でな」
下唇を噛み、秀美は天を仰いだ。
木々の葉から漏れこぼれる日が秀美の顔を照らす。
千歳の性格が頑な過ぎたために起きた悲劇だ。
善悪は表裏一体、時には柔らかく曲がってみるのも大切なこと。
その事に千歳は気付けていたのだろうか?
気付く気もなく、ただがむしゃらに信じる道を突き進み、自分で答えを出したように思う。
「アーハッハッハハ~、やーっぱりここだった。
俺様の推理が的中だぜ」
「んまー、カレンが上賀茂神社だって言いましたのよ。
ユッピー様は、カレンについて来ただけじゃございませんの」
「おいおいおい、金魚のフン扱いなんて酷いじゃないか」
「やーですわ、やーですわ、金魚のフンだなんて言っていませんことよ」
鞍馬とカレンの姿を見つける前に、聞き知った夫婦漫才に秀美は項垂れた。
折角の癒しの時間が台無し、どっと疲れが出る。
何が目的か、鞍馬とカレンは浴衣にスニーカーを合わせている。
2人揃って帯から垂らす令和守が、大きすぎて邪魔。
他人のファッションに口出ししてはいけないのだが、着物や浴衣で街歩きを楽しむ観光客の手本となるよう、京都在住の者だけでも伝統的な着こなしをしてくれることを秀美は希望する。
ただでさえレンタル着物に季節感がなく、残念な思いをしている人が多いのだから。
「ヒデミン、ごきげんよう」
浴衣着用もお構いなしで、カレンは大股で駆け寄って来た。
秀美の前でくるりと回転すると、
「タピオカドリンクを飲みに参りましょ。
もちろん、ヒデミンの奢りで」
澄まし顔でポーズをとった。
気分はしっとり浴衣美人… だそうだ。
「えー、なんで、私が?」
「もうお忘れになって?
カレンとユッピー様が、ヒデミンのために何枚肌を脱いであげたのか。
本来なら、タピオカドリンクじゃ安すぎましてよ。
今回は特別に、友達割引を適用して差し上げましたのにぃー。
オーホッホッホホ~」
今日のメイクは一段とピンクが濃いめ。
カレンを見慣れている秀美は平気だが、初対面の博之には化け物にしか見えないだろう。
彼女、これでも生活安全部所属ですと、紹介した方がいいだろうか。
「お、おい… 秀美、こちらさんたちは?」
博之が声を上擦らせた。
もれなく超レアな博之の緊張顔も付いている。
「口の軽い同期と、キラキラ女子ってとこかしら」
「はあ?」
理解不能の声を発した博之の肩に、秀美は頭を乗せた。
秀美も2人については理解不能。
〈追伸 幸せな人生でした、ありがとう〉
────了────
この作品は、フィクションです。
登場する企業、学校、人物は架空のモノです。
4月から始めました 『理解』
本日をもちまして終了です。
ありがとうございました。
2020.07.15 アキ
