僕はトランスジェンダー当事者、FtM。

生まれたときに割り当てられた性は女性、でも心の奥底ではずっと男性として息をしてきた。


これまでずっと願っていた。

この事実を隠し通したまま社会へ出たい――と。

気づかれないように、悟られないように。

周囲の視線が痛くて、世界はいつも生きづらかった。


ある日、父が言った。

「お前は昔からそうだったよ。予兆はあった」

記憶はおぼろげだけれど、幼い僕はスカートを頑なに拒み、

男の子たちが夢中になる戦隊ヒーローに胸を躍らせていたらしい。


――ここからは、僕がはっきりと覚えている話だ。


小学四年生の、夏の終わり。

突然の“不意打ち”は訪れた。

下着に滲んだ赤い色を見た瞬間、言葉が消えた。


「なんで……」


理解はできてしまった。

女性は大人になると、生理がくる――母に教わっていたから。


二段ベッドの上、膝を抱え込み、自分の身体に起きた出来事を呑み込めずにいた。

異変に気づいた母が部屋へ来て、事情を聞いた。

「生理がきた」

告げた僕に、母は笑顔で「おめでとう」と言い、祖母へ電話をした。


その夜の食卓には、お赤飯。

祝福の空気が漂う中、僕の胸の内は嵐だった。

喜べない。

でも周りの笑顔を壊せなくて、黙って箸を動かした。


それ以前から、体への違和感はそっと根を張っていた。

三人兄妹の長女として育った僕。

真ん中は女の子らしい妹、末っ子は弟。

――どうして弟とは身体が違うんだろう。


羨ましさから、ひどい言葉を吐いてしまったこともある。

妹とは反りが合わず、いつも弟と遊んだ。

サッカー、キャッチボール、バスケットボール。

メンズの服を着て、男子といる方がずっと楽だった。


「自分は他の女の子と違う」


まだ“トランスジェンダー”なんて言葉も知らず、

ただその違和感を抱えたまま日々を生きていた。


恋だってそうだ。

小学校一年生の頃、好きになったのは同じクラスの――女の子。

でも周りの「好きな男の子」トークに合わせて、

仲の良い男友達へチョコを渡したりもした。

それはあくまで「友チョコ」。

本命は別の女の子だった。


ホワイトデーには、母に教わった通りに

“好きな女の子へ”お返しを渡した。

だけど笑われた。

意味がわからなくて、ただ胸がざわついた。


成長につれ、恋の矢印が周りと違うことに気づいた僕は、

沈黙を選ぶようになった。


小学五年生のとき、ようやくできた気の合う女の子の友達。

活発で、ボーイッシュで、一緒にいて心地よかった。

僕は勇気を振り絞り、好きな女の子がいると打ち明けた。

最後まで聞いてくれたあの瞬間、救われたと思った。


でも翌日。

教室中が知っていた。

「○○のこと好きなんだろ? 気持ち悪い」

友達だと思っていた子も、仲良かった男子たちも――

みんなが僕に背を向けた。


毎日、浴びせられる悪口。

逃げる場所はなくて、ただ耐えた。


ある日、一人の大人びた女の子が耳打ちする。

「女が女を好きになるのを、レズって言うんだって」


その言葉と共に、笑い声が渦を巻く。

「レズ」

その呼び名が刺さって、苦しかった。


でも同時に違和感があった。


――僕は女なのか?

――“女が女を好き”って、本当に僕のこと?


心が叫んでいた。

「何か違う」と。


答えのないモヤモヤを抱えたまま、

僕は小学校を卒業した。


人と違う自分は、変なのか。

気持ち悪いのか――

幼い僕の心は、そうして深く傷ついていった。