【8000Bq/kg以下は公共工事へ】「汚染土壌は貴重な資源」~環境省方針に1万超す反対署名
福島県内の除染作業で生じた汚染土壌のうち8000Bq/kg以下のものを公共事業に再利用するとの方針を環境省が打ち出したことを受けて、国際環境NGO「FoE Japan」は2日、東京・永田町の参議院会館で再利用に反対する院内集会を開いた。集会には環境省の参事官補佐も出席。1万筆を超える反対署名を受け取ったが、福島県外に設置する予定の最終処分場への搬入量を減らすため、汚染土の減量が喫緊の課題。国として再利用を促進していく考えを繰り返した。国が方針を撤回しない限り、あなたの街の公共事業でも、原発事故汚染土壌が使われるかもしれない。原発事故の風化は著しいが、無関心は結局、汚染の再拡散を進めることになる。
【「管理をすれば安全に再利用出来る」】
とにかく「再利用ありき」だった。
「除染土の再利用方針は、建設業界からの要請があったから決めたわけではない。むしろ『使いにくいですね』という声がある」
「覆土や管理をすることで追加被曝線量を年10μSvに抑える。安全に再利用出来ると考えている」
環境省の山田浩司参事官補佐(水・大気環境局中間貯蔵施設担当参事官室)の言葉は丁寧ではあるが、内容はめちゃくちゃだ。極め付けは、この発言だった。
「土壌は本来、貴重な資源。工事で使って欲しいのです」
汚染を取り除くという名目で行われている除染で生じた汚染土を「貴重な資源」と呼んでしまう感覚に、参加者からは驚きの声があがった。同省が開設する「中間貯蔵施設情報サイト」には「減容化(=資源化)実施後の低濃度生成物は、安全・安心確保を大前提に、資源として積極的に活用します」として、再利用の例として「羽田空港D滑走路事業では、房総から約2600万立方メートルの山砂を切り出し、土木資材として活用しています」と記されている。山田参事官補佐からすれば当然の事を言ったに過ぎないのだろう。さらに、こうも続けた。
「100Bq/kgとは違う枠組みの中で検討していく」
「核原料物質、核燃料物質及び原子炉の規則に関する法律第61条の2第4項に規定する製錬事業者等における工場等において用いた資材その他の物に含まれる放射性物質の放射能濃度についての確認等に関する規則」という長い名前の規則で、廃炉作業で生じたコンクリートや金属の再利用について放射性セシウムは100Bq/kg以下と定めている。ホームページでも、環境省自ら「100Bq/kgは廃棄物を安全に再利用できる基準」と説明している。
同じように「放射性物質に汚染した廃棄物」であるにも関わらず、しかも同じ省内に二重基準が存在する矛盾。これで、どうやって国民の理解など得られようか。山田参事官補佐は「100Bq/kgは『どのように再利用しても良い』という基準。8000Bq/kgは『用途や管理を明確にして部材として限定的に使うことが出来ないか』という基準だ」と苦しい説明に終始。会場からは「放射能が違うって言うのかよ」と怒声も飛んだ。
従来の基準を無視してでも再利用に邁進する環境省。その背景には、国が福島県と交わした「福島を最終処分地としない」という約束がある。
(上)「最終処分場へ搬入する除染土の量を減らす
ために再利用を進めたい」と話した環境省の山田
参事官補佐
(下)除染土の再利用に反対する署名は1万筆を
超えた=参議院会館
【「最終処分場への搬入量を減らしたい」】
国が2011年10月に公表した中間貯蔵施設に関する基本的な考え方に、こううたわれている。
「中間貯蔵開始後30年以内に、福島県外で最終処分を完了する」
石原伸晃環境大臣(当時)の「最後は金目でしょ」発言を経て、佐藤雄平福島県知事(当時)が施設建設受け入れを表明したのが2014年8月末だから、実に3年を要した。今後、30年以内に福島県外に搬出するといっても、最終処分場選びには相当の難航が予想される。中間貯蔵施設に搬入される汚染土は最大で2200万立方メートル(東京ドーム換算で18杯分)に達すると試算されており、少しでも最終処分場に運び込む汚染土の量を減らすのが喫緊の課題となっている。
事実、山田参事官補佐は終了後の囲み取材で、私の問いに「カサを減らしたい」と語った。国会でも、4月13日の参議院「東日本大震災復興及び原子力問題特別委員会」で、丸川珠代環境大臣は山本太郎議員の質問に対し「最終処分量を減らすことが重要」と答弁している。
政府交渉に参加した「ちくりん舎」の青木一政さんは「なぜ再利用しないといけないのか。安全に保管すれば良いじゃないか」と問い質したが、至極正論だ。福島県内では、減容を名目に汚染土の焼却が進められている。焼却と並行して再利用を推進することで汚染土量を減らし、最終処分場選びにおけるハードルを下げたい思惑がある。目的完遂のためには正論は耳をふさいで聞かないことにするらしい。
実際に公共事業に再利用する場合には事前に住民説明会を開き、最終的には汚染土を工事に利用したことを明示するなどして「どこに何を使ったか、見えない形にするつもりはない」(山田参事官補佐)という。しかし、自分の街の公共工事に汚染土を利用することを歓迎する住民がいるだろうか。業者も積極的には使いにくいだろう。そこで国はインセンティブをつけて再利用を促していくという。「お金になるのか制度的なインセンティブになるのか分からないが、国としては利用を促していく」(山田参事官補佐)。
透明性を強調して再利用を促す国だが、実は議論は非公開だ。環境省は「中間貯蔵除去土壌等の減容・再生利用技術開発戦略検討会」を設置。さらに「除去土壌等の再生利用に係る放射線影響に関する安全性評価検討ワーキンググループ(WG)」で用途ごとの基準濃度を検討するとしているが、「未成熟な情報が公になることで率直な意見交換が出来なくなる。不当に国民の誤解や混乱を生む」としてメンバーの氏名も議事録も公開していない。山田参事官補佐は、構成人数すら明かすのを拒んだ。この問題を長く取材しているおしどりマコさんは「きちんとオープンにしていないのに国民の合意を得ようとしているのは問題だ」と指摘した。
どのような議論を経て決められたのか知らされずに透明性も何も無い。「全て公表すると誤解や混乱を生む」とは、我々国民もずいぶん馬鹿にされたものだ。ちなみに、戦略検討会の委員には、東北大の石井慶造氏や長崎大の高村昇教授ら11人が名を連ねている。この問題に関する今年度予算は10億円を超える。場所は未定だが、減容・再利用についての実証事業も行うという。
(上)「私たちが許してしまえば今後、世界に対し
て加害者になっていく」と警鐘を鳴らしたおしどり
マコさん
(下)「ちくりん舎」の青木一政さんは「なぜ再利用
しなければいけないのか」と何度も詰め寄った
【「方針撤回もあり得る」】
この日、環境省に提出された反対署名は1万305筆に上った。高木学校の瀬川嘉之さんも「出来るだけ被曝量を減らすにはどうすれば良いかを考えるのが大前提で、年1mSvさえ超えなければ良いというものではない」と、覆土をしたとしても再利用するべきではないとの立場だ。郡山から駆け付けた蛇石郁子市議は「これまでも〝空間線量だけ測って後は良し〟で汚染物が処分されてきた」と不安を口にした。同市中田町では、公益財団法人「原子力バックエンドセンター」による焼却灰減容化実証実験が計画されているという。
山田参事官補佐は「一律8000Bq/kgではない。上限を8000にしましょうよ、ということ。用途によって濃度は変わってくる」と繰り返したが、一方で「賛否両論あるだろう。再利用をやめて欲しいという声があれば、見直さなければいけないと思う。住民説明会でも反対意見は出るだろう」と、今後の方針撤回に含みを残した。その言葉を受けて、FoE理事の満田夏花さんは改めてマイクを握った。「ぜひ撤回してください」
会場からは大きな拍手が起こった。公共事業に乗じた汚染の再拡散など、誰も望むまい。
(了)