【避難・移住】受け入れる側のジレンマ~熊本県の場合
熊本県の職員は言った。「復興を考えると積極的に『いらっしゃい』とも言いにくい」。善意のはざまのジレンマ。そして、宅建法の壁が立ちはだかる住宅あっせんの限界…。福島原発の爆発事故から間もなく11カ月。しかし、被曝回避のための避難・移住が顕著に進んでいるとは言い難いのが現状だ。被災者も受け入れる側も、難しさを口にする避難・移住。それらの言葉に耳を傾けるたびに、事故直後に全員避難を実行しなかった国の罪の重さが浮かび上がってくる
熊本県の担当職員が支援の「ジレンマ」として挙げたのが、人口流出への危機と宅建法の壁だ。
「大きなジレンマです。文科省の放射線量調査でも熊本はかなり低い値が出たし、われわれとしては是非こちらに来てください、と言いたい。もっとPRしたい。そのための部署ですから。しかし、これから復興のために進んでいくことを考えると、人手が少なくなっては困るだろう。同じ行政に携わる者として、特に若者の人口流出を危惧する佐藤雄平知事の気持ちも分からないではない」(熊本県・東日本大震災支援総合窓口)。担当者は「街から人がいなくなってしまっては、復興も何もなくなってしまうでしょう。そう思うと、あまり大きな声で避難受け入れを口にするのははばかれる」と話す。
被災者支援として熊本県が用意している住宅は、県営・市町村営住宅や国家公務員宿舎など793戸に上る。だが、1/16現在、実際に入居したのは46世帯105人。「福島県から熊本県への避難」という分類でも、47世帯100人にとどまっている。県の担当者も「福島の方々には情報が届いていないのか…」と残念がる。
公営住宅や公務員宿舎などは地元自治体の発行する罹災証明が無いと入居できないが、福島県内に住んでいれば罹災証明が無くても利用できるのが、「みなし仮設住宅」として位置づけられている「民間借り上げ住宅」だ。熊本県が移住者に代わって賃貸契約を結び、家賃や敷金などを福島県に請求。福島県は最終的には国や東電に費用を請求する仕組み。家賃6万円以下の住宅(5人家族以上の場合は9万円以下)が対象で、現在、熊本市と大津町に8世帯18人が生活している。熊本までの交通費、光熱費など生活にかかる費用は自己負担。入居できるのはいずれも最長2年間の期限付きで、「福島県からの要請が無くならない限り続けられるが、いずれ転居しなくてはならないなら、と福島から来て一戸建てを購入した人もいる」(同窓口)
福島県民でなくても、千葉県などから被曝回避を理由に避難・移住を希望する人向けの住宅あっせんもある。家賃は「大家さんの善意でほとんどが無料」と県担当者。しかし、これも今のところ3軒しか入居にいたっていない。そこには思わぬ法の壁があるという。
「あまり、積極的に住宅あっせんに乗り出すと、宅地建物取引業法(宅建法)に抵触する恐れがあるんです。こちらとしては業として営むわけではないし、大家さんの善意との橋渡しをしたいだけなのですが…」(県職員)。
避難者のニーズは自家用車が無くても移動しやすい熊本市内がやはり多い。しかし、実際に提供される住宅は逆に郊外が中心。需要と供給のずれも入居が進まない理由という。また「福島原発から離れた地域からの問い合わせもある。できれば高線量地域の方々に利用してもらいたいので、制度に便乗して通常の転居として利用されてしまうと本来の趣旨に反してしまう。本当は大々的に提供住宅のリストを公表したいのだが…」と担当者はジレンマを口にした。電話で問い合わせれば、提供住宅リストの郵送にも応じるという。
しかし、できないことばかりを口にしていても進まない。
熊本県の担当者は「仕事に関してはハローワークに行くことしかお話しできないが、入庫した住宅周辺の幼稚園を探したり、何でも相談に乗る」と話す。「全国避難者情報システム」(http://www.pref.kumamoto.jp/site/sinsai20110311-
)に登録すれば、実際に避難していなくても、支援策や避難した人向けの催しなど定期的に情報が送られるという。
(了)
くまモンの登場で、一躍知名度が高まった熊本県。