【震災がれき】二枚舌の黒岩知事は受け入れへ邁進~「野次は想定内だよ」 | 民の声新聞

【震災がれき】二枚舌の黒岩知事は受け入れへ邁進~「野次は想定内だよ」

「帰れ」「リコールだ」と会場が騒然とする中、黒岩祐治神奈川県知事が退場する。厳戒態勢の県職員。しかし、記者クラブのぶら下がり取材を終えた知事は胸を張るように関係者に向かって言った。「野次は想定内だよ。あそこでカッとなってはいけないんだ。ははは」。そこには、誰が何と言おうと震災がれきを受け入れるんだという、知事の固い意地のようなものが見て取れた─。20日夜、横須賀市内で開かれた緊急対話集会。15日の住民説明会と同様、質疑応答では反対意見が続出。だが黒岩知事は「放射性物質に汚染していない」「理解を得られるまで誠意をもって説明する」と繰り返すばかり。岩手県の担当部長や東大名誉教授を味方につけて、市民の声には耳を貸さない。「結論ありきではない」という言葉とは裏腹に、黒岩知事の心は日に日に固まっている様子だ


【がれきは「心の復興」の妨げか】

「横須賀市民の皆様、おばんでございます」

前回の住民説明会と同様の説明と映像放映が終わると、ステージに上がったのは岩手県の工藤孝男環境生活部長だった。「被災地の『心の復興』に協力したい」という黒岩知事が招いた。いかにがれきが震災からの復興を妨げているか、工藤部長が訴える。

「いまだに4万人が仮設住宅での生活を余儀なくされている。県単独でのがれき処理には5年は要するだろうとの試算が出ている。子どもたちが本来、遊ぶべき場所にがれきが積まれている。夏場には強い異臭を放った。風が吹けばほこりが舞う。火災も2件起きた。放射能に関しては全く異常は無い。ご理解を賜りたい」

岩手県環境生活部によると、同県で発生した震災がれきは、一般廃棄物量の10年分に相当する約435万㌧。新たな焼却炉を建設しても約57万㌧を広域処理する必要があるが、昨年末までに処理できたのは約20万㌧で4%にすぎないという。

被災地の復興を願わぬ横須賀市民はいまい。

しかし、知事の独断と拙速な動きに勢い、言葉はきつくなる。横須賀市民にとっても命の問題だからだ。

「地元に処分場を造ったらどうか」

「なぜ3年間での処理、広域処理にこだわるのか。時間をかければ現地だけで処理できるのではないか」

これには、工藤部長が何度も頭を下げた。

「地元の方々は3年でもまだ遅いと言っている。処分場を造るには1年はかかる。あのがれきがあると何もできないんですよ。衛生上の問題もあるんです…」

黒岩知事も「国に対しては、最終処分場を造るべきだと全国知事会名で求めているが、がれき処理に5年かかっても良いだろうとは言えない。決して情緒的に話しているわけではないが、一日も早く処理しないと被災者の『心の復興』が進まない」

これには、会場から「情緒的に話しているようにしか聞こえないよ」との野次が飛んだ。

知事が再三強調する、被災者の「心の復興」。

しかし、「情」では被曝や土壌汚染を回避できないことは、既に福島の現状が物語っている。
民の声新聞-対話集会
273人が参加した、黒岩県知事との対話集会。

参加者からは受け入れ反対意見が続出した

=横須賀市総合福祉会館


【健康被害の責任は国や東電がとる】

この夜も黒岩知事は、「放射性物質は目に見えないから不安に思うのは良く分かる。しかし、1kg当たり100ベクレル以下というのは法治国家ニッポンで汚染されていないという基準。しかも、原発事故以前に決められたものだ。焼却についても、バグフィルターでほぼ100%吸着できるというデータがある」と安全を強調した。

これに対し、相模原の女性は「放射性物質が量によって倍化することは既に認められている話。もっと真剣に考えて欲しい。バグフィルターで吸着できると言うなら、現地で焼却すれば良い」と反論。横須賀市武山の男性は「処分場の周囲には幼稚園や小学校もある。絶対に持ち込まないでほしい」と訴えた。逗子の男性は「あちこちに死の町をつくるのか。脱原発と言うからあなたに投票したが間違っていた。反省している。受け入れはできないと断りを入れて欲しい」と迫った。

黒岩知事は「焼却灰になると、放射性物質が16倍から33倍になることは知っている。しかし、それでも3300ベクレルで、国の基準値8000ベクレルは下回る」と強調。しかし、来場者から「健康被害が出たらだれが責任をとるのか、知事は責任をとれるのか」と迫られると「責任は国や東電がはっきりと認めている」と責任転嫁。処理費用に関しても「国または東電が補償するだろう」。県独自の基準策定についても「法治国家である以上、国の基準に従うのが基本。県独自で基準をつくるつもりはない」。安全を強調しながら最後は国や東電を持ち出す姿勢に、会場は怒号が飛び交った。

黒岩知事が「放射能の専門家」として招いた東京大学名誉教授の前川和彦氏はほとんど発言せず。内部被曝への不安に対し「粒子を吸い込んだり、傷口から入れたりしない限り内部被曝をすることは無い。大気中でもかなり希釈される」「処分場の作業員の年間被曝量は1mSVに満たない。離れて暮らす住民はなお低い」と説明するにとどまった。会場からは、自己紹介の時点で「お前が御用学者の前川か」との声が飛んでいた。ちなみに、前川氏は山下俊一福島医大副学長らとともに、政府の「原子力災害専門家グループ」の8人に名を連ねている。

なお、複数の横須賀市職員が来場したとの情報はあるが、会場に吉田雄人横須賀市長の姿は無かった。

横須賀市長坂の男性が「市長は高見の見物を決め込むな」と批判した。
民の声新聞-前川の資料
前川和彦東大名誉教授の用意した資料。

被曝を恐れる横須賀市民を馬鹿にしているかのような

表現が並ぶ


【被曝への不安を『アレルギー』と呼ぶ知事】

「芦名町内会の役員会としてはNOです」

住民説明会に引き続いて参加した役員の一人はきっぱりと反対を表明した。

「神奈川が受け入れたという既成事実を作らせてはいけない。違った形での被災地支援という方向に、どうして頭が向かないのだろうか。環境省の資料は、いずれは福島の震災がれきも頼む、と読める。いろいろな考えがあると思うが、ご自分の街の問題だったらいかがですか、と聞きたい」

会場には、俳優・山本太郎さん(37)の姿もあった。

「東京は既に受け入れてしまったけれど、神奈川がさらに認めてしまったら、なし崩し的に全国に広まってしまう。ここで頑張れば、市民の力で止めたんだという力を共有できるようになる」

「原発事故前の基準だから大丈夫だと言うが、基準を作った時には爆発事故も起きていなかったではないか」

「センサーが働くから汚染水が染み出すことは無いって?センサーは万全でないから様々な事故だって起きているんじゃないか」

しかし、黒岩知事は「大丈夫」「安全だ」の一点張り。

知事の腹は決まっているのだ。

被災地のために一肌脱ごうと。

質疑応答では「結論が先にあって、それに従えと言っているわけではない」と言っておきながら、集会後の記者クラブメディアとの会見では「放射性物質に汚染されていないんだ。私が頑張るしかない」と、改めて受け入れへ決意表明をしてみせる二枚舌ぶり。さらには「岩手県の環境生活部長に罵声を聴かせてしまい申し訳ない」と詫びる始末。罵声を浴びさせたのは誰なのか。

黒岩知事は繰り返す。

「皆さんのお気持ちは良く分かります」

しかし、何も分かっていない。

なぜなら彼は、訪れた宮古市で、山本正徳市長に向かってこう言っているからだ。

「放射能に対するアレルギーがまだあるんですよ」

リウマチ・アレルギー情報センターによれば、「アレルギー」とは「過剰な免疫反応が身体に害を与えてしまう状態」を指すという。黒岩知事にとって、県民が抱く放射性物質に対する恐怖心は「過剰な反応」なのだろう。それで、よくも「気持ちは分かる」などと言えたものだ。

30日には横浜で、同形式の「対話の広場」が開かれる。

もう、ごまかすのはやめるべきだ。

はっきりと「受け入れ計画は撤回しない」と明言せよ。

二枚舌で県民を愚弄するな。

民も、もはや騙されない。

知事は質疑応答での女性の言葉を忘れてはいまい。

「既に『ここに埋める』というのが頭の中にあって、市民を説き伏せるための集会なのではありませんか

そして、「黒岩知事には感謝したい」と話した岩手県の工藤部長に対する会場からの声も、ぜひ覚えておいていただきたい。

「感謝するのはまだ早いよ」
民の声新聞-山本太郎
横須賀に駆け付けた山本太郎さん。「バグフィルター

の実証実験なんてどこまで信用できるのか」などと

黒岩知事に異議を唱えた

(了)