餅つきはつながる民の象徴~各省庁は受け取りを拒否 | 民の声新聞

餅つきはつながる民の象徴~各省庁は受け取りを拒否

お年賀ムード漂う霞が関のど真ん中で、威勢のいい「よいしょっ」が響いた。一見すると長閑な餅つき。だが、丸の内署の警官が睨みをきかせ、公安警察も取り巻く。そして、つきあがった餅を経産省は受け取らなかった…。福島原発事故から間もなく10カ月。年が明けたら放射性物質の飛散が止まるなどという好都合なことがあるはずもなく、被曝に盆も正月もない。こうしている間にも、福島の子どもたちは被曝させられ続けている。だから、経産省テント広場の住人たちは餅をついた。原発事故は現在進行形なのだと、収束なんかしていないのだと知らしめるために。今年も粘り強く脱原発を訴えようと、気持ちを引き締めるために。もち米も空気も水も汚されてしまった福島を思って


【テント村はプロ市民の集まりじゃない】

「脱原発運動は長期戦ですから、ずっと難しい、四角い顔ばかりもしていられない。それに、餅のようにしつこくここに居ますよ、という抗議行動でもあるんです」

経産省テント広場での抗議行動に参加している千代田区の女性(27)は、そう言って眼前の経産省を見上げた。

渋谷区の女性(44)は、宮城県出身。東北からの生の声が耳に届いてくる。

「福島の人々は、もち米も水も空気も汚されてしまったんです。今までのように、家族で、地域で豊作を祝って、一年の無事を祈る餅つきができなくなってしまった。そういう気持ちが込められているのだと思う」お話した。「ここにきて、やや『落ち着いた感』が漂っているように感じる。放射性物質の拡散は止まったと思っている人が、こういう餅つきを通して一人でも気付いてくれたら良いのではないか」

「東電前アクション」の園良太さん(30)は「ステレオタイプに切り捨てず、まずは現場に来てほしい」と呼びかける。

「日本にはウォールストリートのような場が無いんです。すべて商業地か市有地。公共の場が無い。このテント村は、反原発の意思を持つ人と人のつながりが作れる場。その一つが餅つきなんです。決してお祭り気分で思いつきでやっているわけではない。どうせプロ市民だけの集まりだろう、と決めつけてはもったいないですよ」

川崎市の男性(73)は「官公庁の職員の一人が、早朝にみかん箱を差し入れたことがあった。仕事上、脱原発を口にできない公務員もいるだろう。経産省の職員だって市井の一人。彼らの声を拾う役割もある」と話した。
民の声新聞-餅つき①
民の声新聞-餅つき②
餅つきが行われた経産省テント村。脱原発の趣旨に賛同した女性たちが手伝った

=東京都千代田区


【具体的な症状が出始めた福島】

テント村には、「未来を孕む女たちのとつきとうかのテント村行動」の椎名千恵子さん(65)=福島市=の姿もあった。

「命は命を張って守る、それだけのことです」

凛とした椎名さんは、他のテント広場参加者とともに、つきたての餅を手に経産省を訪れた。

「撮影は禁止。だめだめ。撮るなら入れさせないよ」

守衛の怒号が響くなか、暖房の効いた経産省のロビーで担当職員を待った。

「申し訳ないけど受け取れないって。持って帰ってよ」

想定内とはいえ、守衛の言葉にはやはり、落胆させられる。

押し問答の末、結局、守衛は大臣に宛てた手紙だけを受け取った。

「原発を進める人に いまぞ問う。聞く耳持たぬか 民の叫びに」

残念ながら、この手紙を大臣が読むことはあるまい。

いつの世も、為政者の耳に民の声は届かないのか。

経産省を後にする一行と入れ替わるように、出前の寿司が届けられた。

餅は、文科省や農水省などにも届けられたが、いずrも受け取る省庁はなかった。

「でもね、農水省の守衛はいわき市の出身者だった。『気持ちは分かるよ』と言ってくれた。まだこういう日本人もいるんだ、とうれしかった」と椎名さん。「甲状腺に腫瘍が見つかるなど、福島では具体的な症状が出始めている。まだ原発事故は終わっていないんです。福島とつながってください。連帯してください」
民の声新聞-椎名さん
福島市から駆け付けた椎名千恵子さん。

「福島では具体的な症状が出始めています」


【全国から届いた年賀状】

テント村では、17kgのもち米がつきあげられた。

多くの女性たちが手伝い、きなこやあんこ、大根おろしなどでまぶして振る舞われた。

費用は全国からのカンパで賄われているが、年賀状も50通以上届いている。

「原発立地市からの賀状も多いですよ」とスタッフの一人。「経産省前テント広場」で届くという。

「認知度が高まったということではないですか」


仕事始めということで、経産省から着物姿で出てくる女性職員の姿も見られた。

黒塗りのハイヤーが行き交い、車内から笑いながらテント広場を眺める人もいた。

寿司が届けられた経産省内では、年始の宴会が開かれたのだろう。

テント広場の住人たちの思いなど、彼らに理解できるだろうか。

テント広場を指さして笑っている間にも放射性物質は飛んでいることを忘れてはならない。

福島の子どもたちはもちろん、

都内に住む子どもたちだって被曝していることを。

まずはテント広場を訪れてみよう。

そして考えよう。

子どもをどうやって守るかを。

野田首相の収束宣言などにだまされてはいけない。
民の声新聞-年賀状①
民の声新聞-年賀状②
テント広場には、全国から年賀状が届いた。

福島県など原発立地県からも多いという

(了)