私は拉麺が好きである。
食べ物で一番好きだと謂っても過言ではないだろう。
おそらく週に4回は拉麺を食している。
友人に言うと、呆れられる。
だが、辞められないのだ。
健康にあまりよろしくないだろう。
だが、辞められないのだ。
という訳で、私は今日も拉麺を食すのである。
豚骨、味噌、醤油、塩。
それも甲乙つけ難い。
これまでにいろいろな拉麺屋を訪れた。
その中でも一番美味しかったお店を紹介しよう。
否、美味しいお店ではなく、不思議なお店の間違いである。
拉麺屋で不思議な話?
そう思った方もおられるだろう。
まぁまぁ、最後まで聞いてもらえれば幸甚である。
或る日、車を走らせているとふと視界に拉麺屋が飛び込んできた。
これは行く他あるまい。
店の外観は、なかなか歴史を感じさせる佇まいである。
これは期待できる。
私は小汚い拉麺屋が大好きなのである。
そういう意味では、このお店は合格点である。
店内に入った。
おや?お客が誰もいない。
腕時計を見ると、丑の刻である。
他に客がいても良いはずなのだが、まぁ、あまり気にしても仕方ない。
カウンターに座った。
あれ?
店主がいないではないか。
トイレにでも行っているのであろうか。
しばらく待ってみたが、どうも店主が現れる気配はなかった。
暖簾は確かにかかっているし、営業中の札もあった。
だから営業はしているはずなのだ。
なのに肝心の店主がいない。
店主がいなければ拉麺は食えぬ。
このまま待っていても埒が明かないので、帰ることにした。
帰宅したのだが、どうもモヤモヤした気持ちが収まらない。
私はお店に電話をかけてみることにした。
店主が出たら、文句の1つでも云ってやろうとおもったのである。
トゥルルルルル
トゥルルルルル
「はい、OO軒です」
い、いるじゃないか。
私は今日あった経緯を店主に話した。
店主は何の反応もなかった。
「すみません、ちゃんと聞いているんですか」
プツ。
電話が切れた。
あまりにも無礼ではないか。
この店主は頑固親爺なのかもしれない。
否、それにしても無視したあげく、一方的に電話を切ることはありえないだろう。
翌日、私はその拉麺屋にもう一度足を運んだ。
文句を言うためではない。
なんというか、店主の顔を見てみたいという好奇心からだ。
お店の前に着いて私は愕然とした。
拉麺屋がなくなっていたのだ。
否、正確に云うと拉麺屋なのだが、違う拉麺屋なのである。
頭が混乱した。
とりあえず、その拉麺屋に入店して、店主に聞いてみた。
店主は不思議そうな顔をした。
「いやぁ、お客さんね、そのお店は確かにここに建ってたんだが、半年前に潰れちまったよ」
じゃあ私が見たのは幻だというのだろうか。
なんとも不思議な体験である。
