二日前このへんで

飛び降り自殺した人のニュースが飛び込んできた

 

血まみれセーラー 濡れ衣センコー

たちまちここらはネットの餌食

 

「危ないですから離れてください」

そのセリフが集合の合図なのにな

 

馬鹿騒ぎした奴らがアホみたいに撮りまくった

冷たいアスファルトに流れるあの血の何とも言えない

赤さが綺麗で 綺麗で

 

泣いてしまったんだ 

泣いてしまったんだ

何も知らないブラウン管の外側で

 

生きて生きて生きて生きて生きて

生きて生きて生きていたいんだよな

最後のサヨナラは他の誰でもなく

自分に叫んだんだろう

 

彼女が最後に流した涙

生きた証の赤い血は

何も知らない大人たちに二秒で拭き取られてしまう

立ち入り禁止の黄色いテープ

「ドラマでしか見たことなーい」

そんな言葉が飛び交う中で

いま彼女は何を思っているんだろう

遠くで 遠くで

 

 

「今ある生を大事に精一杯生きなさい」

綺麗事だな。

精一杯勇気を振り絞って彼女は空を飛んだ

鳥になって 雲をつかんで

風になって 遥遠くへ

希望を抱いて飛んだ

 

生きて生きて生きて生きて生きて

生きて生きて生きていたいんだよな

新しい何かが始まる時

消えたくなっちゃうのかな

 

生きて生きて生きて生きて生きて

生きていたいんだよな

最後のサヨナラは他の誰でもなく

自分に叫んだんだろう

 

 

サヨナラ サヨナラ

 

<注釈>

あいみょんが実話にもとづいて書いた作品。

救いようのない言葉が並ぶ。

 

これは、筆者が大学時代に最も親しかった友人を

飛び降り自殺で喪ったときの

やり場のない憤りと重なる。

 

筆者が医療被害を受けた直後

遠く離れたところに住む友人が訪ねてきた。

この頃、友人もまた重い「こころの病」にあった。

数年前から筆者は友人の異変に気付いていた。

度々筆者は友人にアドバイスもしたが

友人は聞き入れることはなかった。

 

 

親御さんから、彼が精神科病院の隔離病棟に入院したとも聞いていた。

筆者のもとに来る数か月前の話だ。

自傷行為をして、一命をとりとめたとも。

 

筆者とひさかたぶりの彼はつとめて明るく振舞った。

入院の話もふってみたが、彼いわく

「もう、大丈夫だから」

 

ところが、彼は自死の決意を必死に隠しているよう。

止めようはない、とも感じた。

「コイツとはこれが最後だ」

彼との時間がいとおしくなった。

 

彼はとある町の進学塾で国語の先生をしていた。

教え子のひとりは全国模試でトップになり

最難関大学に進学した。

その教え子と合流。

三人で居酒屋でしたたか呑み

宿で雑魚寝。

「これが最後の夜」

筆者は夜をいつくしんだ。

 

あくる日

正月十日ながら三人で初もうで

彼と別れた。

 

 

やはりこれが彼との

最後の別れだった。

 

 

「息子が亡くなった」

親御さんからの知らせに筆者は驚かなかった。

彼の告別式

最後に拝むことが出来たのは

彼の歯だけだった。

 

神も仏もない どこまでも無慈悲な世界

筆者のこころは荒れ狂った。

仏壇に焼香台ごとぶちまけるなどした。

 

携帯電話というものがなかったあの頃

「息子に5百円玉を持たせていたら・・・」

彼の母親は今も悔やんでいる。

 

 

 

 

この歌を聞くと真っ先に彼を思い出す理由はこうだ。

邪推かもしれないが。

 

生々しく、救いようのない歌詞。

それはあいみょんが実話をもとに書き下ろしたもの

だからだろう。

 

「完全自殺マニュアル」(太田出版刊)によると

飛び降りは

<見てくれさえ気にならなければ最も苦しまない自殺の方法>

とのこと。

 

 

見てくれ・・・

 

 

この歌詞だ。

 

 

死の半歩手前を20年彷徨った筆者をもってしても

自分のことより遥かに苦痛な記憶は彼の自死である。