去年の記事、THE FOOLの続きです。






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「都志秋はまだ帰ってこないのかしら……」
 4月1日、朝の食卓で夏子が言った。
「何だ、あいつ、出てったまま帰って来てないのか」
 新聞を読みながら、茂渡春が返す。
「あれだけ叫んで出て行ったからね~」
「少しリアルにやりすぎたか? あはは」
「もう少し凝れるとこはあったはずよ? たとえば、あの植木鉢は倒しといたほうが良かったかも知れないわ」
 部屋のものはいくつかが倒れていて、ところどころに赤い染みがある。
「それにしても、10時過ぎに帰ってきたときは驚いたな~。帰りが遅くなるって言うから、12時回ると思ってたのに」
「最近の子供は真面目なのね~。私なんか、親に言わずに他県の友達の家に泊まりに行ったこともあったわ~」
「まぁまだ中学生だからな~」
 こんな朝のゆっくりとした一時。
 都志秋に伝えた『朝早くから仕事』というのも嘘で、実は二人とも休暇だったりする。
「誰かの家に泊まってるのか? 連絡は無いのか?」
「今のところ無いわね。メールは送ったから、嘘には気付いてるでしょ? そう考えると、あれね。多分、怒ってるのよ」
「はっはは、都志秋は頑固だからな」
「帰ってきたら外食にでも連れてってあげましょう、お父さん」
「そうだな、夏子」


 昼過ぎ。
 都志秋はまだ帰ってきていなかった。
「流石に遅くない? お母さん友達に連絡しようかしら」
「うーん、そうだなー……」
 ピンポーン、とインターホンが鳴らされる。
「都志秋かしら?」
 夏子が、玄関へ行く。
「はい、どちら様ですか?」
「警察です」
「……はい?」
「警察の者です。佐多気さんのお宅ですか?」
 3人いる制服の男の一人が警察手帳を開く。
「はい、そうですけど……えっと、近くで何かありましたか?」
「お宅の息子さんが、殺人の容疑で逮捕されました」
「……!? …………はい?」
「佐多気都志秋さんが、殺人の容疑で逮捕されました」




 取調室。
「何故殺した」
「………………」
「両親が悲しんでるぞ?」
「……………………いません」
「?」
「もういません。僕の両親は」
「どういうことだ?」
「僕の両親は、殺されたんですよ」
「君の両親の元へは先ほど連絡した。お二人ともご存命だぞ」
「そんなはずないじゃないですか。昨日僕が家に帰ったとき、二人とも、二人とも……」
「だから、君の両親は生きていると言ってるじゃないか」
「何ですか? エイプリルフールですか?」
「なにふざけてるんだ!」
「そうですよね。ふざけてますよね。エイプリルフールのせいですよ。僕は、エイプリルフールのせいで人を殺したんですよ」
「何を、言ってる?」
「これ以上、話したくないです」




「どういうことですか。うちの都志秋が、人を、殺したっていうんですか!?」
「まだ、分かりません」
「ちゃんと説明してください!! ありえませんよね!? 都志秋が、人を殺すなんて!! ……あぁ」
 混乱し、目の焦点が合っていない。
「どうしたんだ、大きな声を出して」
 茂渡春が、リビングからやってきた。
「警察の者です」
「警察が、うちに、何の用だ!」
「お宅の息子さんが捕まったんです」
「……何を言ってるんだ。あれか、エイプリルフールか。都志秋が犯罪を犯すわけがないだろう! お前らが警察だって言うのも嘘なんだろ! 今すぐ立ち去れ!」
「だから、私たちは本物の警察です。これを見てください」
「こんなもの偽物だろ! 分かっているのか、犯罪だぞ。これはな、公文書偽造と言う立派な犯罪だ! さっさと出て行け!!」
 茂渡春は右の拳を振り上げ、男の顔を殴った。
「つか、まえろ……」
「公務執行妨害の現行犯で逮捕する!」
「やめろ! なにをやっている! これは犯罪だぞ!!」
 茂渡春の腕に手錠がかけられる。
「いや、やめて……おかしいわ、こんなの」
 夏子の口から嗚咽が漏れる。
「悲しいのは嫌い。怖いのは嫌い。一人は嫌い。やめてやめてやめて」
 目を見開き、頭を抱え、声ともとれない音が口からこぼれる。
「こんなの絶対おかしいわ!!! あぁぁあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!! あっ、あああああ、いやああああ!!」




 嘘に踊らされた、ある家族の肖像。




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