前回はこちら
それでは始めます。
───────────────────────
夜中だと思っていたのに、日が昇ってきた。
思ったよりも、早朝に近かったらしい。
暗いと何も分からなかったから、助かる。
太陽はいつだって偉大だ。
全てを照らす。
そう、どんなに醜いことであっても。
「…………え?」
間抜けな声を上げたのが二階堂さんだった。
俺は、不思議に思いながら、ゆっくりと歩いて二階堂さんの横に行く。
そんな声を上げるのに値する状況があったことは確かだ。
赤い、液体。
血。血溜まり。流れ出る血。
寝床にしていた穴の前に戻ったはずの、俺たちを迎えてくれたのは、ただそんな光景だった。
穴の中から、体中に血をつけた、六堂が這い出てきた。
背中から、まだ血が溢れてきている。
「どう、したん……だ?」
驚きのあまり、単純な質問しか出てこない。
「五木君が……五木君が……」
無理矢理搾り出したような声だ。
「琴……助けて……」
「鈴!」
二階堂さんが走り出そうとするが、俺は慌てて左手を伸ばして二階堂さんの手を掴んだ。
それも何も、穴の中から五木が出てきたからだ。
手にはべっとべとの包丁が握られている。
なにでべっとべとかなんて言うまでも無い。
「おいおい。まだ生きてたのかよ」
何の躊躇いも無く、包丁を六堂の背中につき立てた。
「うっ!」
痙攣のように一度体が跳ねた後、六堂はまったく動かなくなった。
「鈴!!!」
二階堂さんは今にも走り出しそうだが、そんなことをしても、二階堂さんが殺されるか切られるかするだけだ。
俺は、しっかりと二階堂さんの手を握った。
「鈴……鈴…………ッ」
動揺が手の平からでも伝わってくる。
「何やってんだよ……五木……」
「え? だって、一人しか帰れないんだろ? だったらその一人になりたいと思うのは、普通じゃないか」
「テメェ……」
右手を思いっきり握る。
が、素手と刃物じゃ分が悪すぎる。
こういうとき、槍がいれば……。
「俺がその一人になるんだよ……」
五木はふらふらとした足取りで、近づいてくる。
「離して!」
「ダメだ! 逃げよう!」
「何で!? 鈴が、鈴がっ!」
二階堂さんは今にも六堂にすがりつきそうだ。
けど、そんなことをしたら、殺されるのは目に見えてる。
俺は必死に逃げようと引っ張るが、二階堂さんは動かない。
「五木ぃ! ふざけんなよ!!」
……?
俺は、声を出していない。
二階堂さんでもない。
声の主は、四元だった。
穴から、例によって血まみれの四元が歩いて出てきた。
「ん?」
五木は振り向き、少し驚いてすぐに落ち着く。
「お前も生きてたのかよ」
どちらも殺せていなかったらしい。
確かにあの暗さでは的確に急所を狙うのは難しいだろう。
「安心しろ。次はちゃんと殺してやるよ……」
五木の口元がゆがむ。もはやそこに、ムードメーカーの五木杖の姿はない。
あるのは『生存』への執着。
「死ぬのは……嫌だ」
四元が言った。
俺は内心驚く。こいつは、性格こそ悪いが、自分の主張はあまり口にしないタイプだ。
勿論、この状況でそれが維持されると思うのは楽観なのだろうが。
「死ぬのは……お前だ!」
四元の手元が朝日を反射してきらめく。
シャーペンだった。
どこかで拾ったものではなく、そもそも持っていたのだろう。
俺達は何ももたずにここに放り出されていたが、制服に入っていたものはその限りではない。
あのマジメぶった四元のことだ。筆記用具一式は持っていたと考えて間違いない。
だが、今そんなことはどうでもいいといえばどうでもいい。
四元が、あのシャーペンを『どう使う』つもりなのか。
分かってしまう自分が嫌だった。
四元はシャーペンを振り上げると五木に飛び掛った。
五木は殺すことしか考えてなかったのだろう。
驚きに目を見開くと急に襲い掛かってきた四元にただ頭の前で腕を交差して体を守ろうとした。
そこへ、四元のシャーペンが突き刺さる。
「うっ! あぁぁぁああ!」
ささったのは、右手首だった。
五木が持っていた包丁が、足元に落ちた。
「いてえ! いてえよ! ふざけんなよ四元! クソッ!」
血の流れ出る手を、止血するでもなくただ押さえる。
ただの高校生がこんな状況でとっさに冷静な判断が出来るわけもない。
焦った五木は、最悪の判断をした。
五木にとって最悪の判断は、裏返せば四元にとっては最高の展開だ。
五木はしゃがみこんで左手で包丁を拾おうとしたのだ。
自分と突き刺した相手の目の前で。
四元がそれを見逃すはずもなかった。
何の躊躇いもなく、それこそいつもどおりの冷静さで、血に染まったシャーペンを力いっぱい振り下ろす。
カッターシャツ程度の代物に、首を保護することなどできるはずもない。
シャーペンは首の裏側に突き刺さった。
「がはっ」
五木の何ともいえない声が漏れる。
包丁を拾おうとしたその腕は、踏み込んできた四元の足に踏みにじられていた。
四元はどこまでも冷静だった。
「ふざけ──グゴッ」
五木が最期の言葉を放つことすら許さず、シャーペンをあらん限りの力で押し込んだ。
肢体は完全に力を失い、砂浜の細かい砂に寝そべった。
四元はシャーペンを五木の喉に残したまま、ゆっくりと直立した。
わずかな静寂が場を支配する。
さっきまでは気にしてなかった波の音が、嫌に大きく聞こえた。
無人島の砂浜に、二つの死体と血まみれの男。
異常。異状。いや、それ以上。
四元は、五木を殺した。
自分が殺されそうになったから?
それとも、五木のように、自分が生き残るため?
分からない。分からないから、怖い。恐ろしい。
逃げないとダメだ。
そう思うが、足は動かない。恐怖からでは、ないと思う。思いたい。
掴んだ二階堂さんの手は、小刻みに震えていた。女子特有のやわらかい肌は、これが普段なら、膨大な動揺を伝えてきたはずだ。
でも今は、動揺する余裕すらなかった。
四元の次の行動が、俺達の運命を決めるかもしれない。
逃げないとダメだ。
二階堂さんに声をかけて、今すぐでも走り出さないといけない。
けれど、口は開かない。
先に口を開いたのは四元だった。
「お前らは……どっちなんだ?」
探るような、声。こちらを試してきているのが分かる。
「どっ、……ち?」
二階堂さんが震える唇で呟く。
「皆が助かれると思ってるか? ……それとも、本当に一人しか助かれないと……」
この言葉から読み取る限り、四元は一人しか助かれないという言葉を信じきっているわけではないようだ。
だから、五木を殺したのもいわゆる正当防衛だったのだ。
落ち着いて話し合えば分かってくれる。
俺はそう信じようとした。
「一人しか助かれないなんて、そんなことあるわけないよ」
刺激しないように、声をかける。
何が刺激になるかなんて、全然分かんないんだけど。
「だよな? あるわけないんだよ……」
四元の声が消え入る。
落ち着いて、くれただろうか。
「こんな状況ッ!」
四元は、落ち着いてなどいなかった。
「こんな状況がッッ!! あるわけないんだよ!」
すっかりその姿を現した太陽の赤い光が、四元の顔を照らし出す。
そこから優等生の色は消え去っていた。
四元は足元の包丁に手を伸ばす。
そこで、俺の脚はどうにか動いてくれた。
「二階堂さん! 走って!!」
「きゃっ」
二階堂さんの手を半ば強引に引っ張り、四元とは反対方向へと走り出す。
危険な森の中には入りたくないが、砂浜では視界がよすぎていつまでも追われてしまう。
一緒に走る二階堂さんが気にはかかるが、あの状態の四元からは少しでも早く離れないと。
「こっち!」
二階堂さんと一緒に、森の中へ入った。
俺が二階堂さんを守らなきゃいけない。
まだ決意といえるようなものじゃなかったけど、もう気持ちは決まっていた。
残り13人
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グロ注意←遅
1年以上の時を越えて!!←
僕頑張って続き書くよ!←
感想よろしく!
それでは始めます。
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夜中だと思っていたのに、日が昇ってきた。
思ったよりも、早朝に近かったらしい。
暗いと何も分からなかったから、助かる。
太陽はいつだって偉大だ。
全てを照らす。
そう、どんなに醜いことであっても。
「…………え?」
間抜けな声を上げたのが二階堂さんだった。
俺は、不思議に思いながら、ゆっくりと歩いて二階堂さんの横に行く。
そんな声を上げるのに値する状況があったことは確かだ。
赤い、液体。
血。血溜まり。流れ出る血。
寝床にしていた穴の前に戻ったはずの、俺たちを迎えてくれたのは、ただそんな光景だった。
穴の中から、体中に血をつけた、六堂が這い出てきた。
背中から、まだ血が溢れてきている。
「どう、したん……だ?」
驚きのあまり、単純な質問しか出てこない。
「五木君が……五木君が……」
無理矢理搾り出したような声だ。
「琴……助けて……」
「鈴!」
二階堂さんが走り出そうとするが、俺は慌てて左手を伸ばして二階堂さんの手を掴んだ。
それも何も、穴の中から五木が出てきたからだ。
手にはべっとべとの包丁が握られている。
なにでべっとべとかなんて言うまでも無い。
「おいおい。まだ生きてたのかよ」
何の躊躇いも無く、包丁を六堂の背中につき立てた。
「うっ!」
痙攣のように一度体が跳ねた後、六堂はまったく動かなくなった。
「鈴!!!」
二階堂さんは今にも走り出しそうだが、そんなことをしても、二階堂さんが殺されるか切られるかするだけだ。
俺は、しっかりと二階堂さんの手を握った。
「鈴……鈴…………ッ」
動揺が手の平からでも伝わってくる。
「何やってんだよ……五木……」
「え? だって、一人しか帰れないんだろ? だったらその一人になりたいと思うのは、普通じゃないか」
「テメェ……」
右手を思いっきり握る。
が、素手と刃物じゃ分が悪すぎる。
こういうとき、槍がいれば……。
「俺がその一人になるんだよ……」
五木はふらふらとした足取りで、近づいてくる。
「離して!」
「ダメだ! 逃げよう!」
「何で!? 鈴が、鈴がっ!」
二階堂さんは今にも六堂にすがりつきそうだ。
けど、そんなことをしたら、殺されるのは目に見えてる。
俺は必死に逃げようと引っ張るが、二階堂さんは動かない。
「五木ぃ! ふざけんなよ!!」
……?
俺は、声を出していない。
二階堂さんでもない。
声の主は、四元だった。
穴から、例によって血まみれの四元が歩いて出てきた。
「ん?」
五木は振り向き、少し驚いてすぐに落ち着く。
「お前も生きてたのかよ」
どちらも殺せていなかったらしい。
確かにあの暗さでは的確に急所を狙うのは難しいだろう。
「安心しろ。次はちゃんと殺してやるよ……」
五木の口元がゆがむ。もはやそこに、ムードメーカーの五木杖の姿はない。
あるのは『生存』への執着。
「死ぬのは……嫌だ」
四元が言った。
俺は内心驚く。こいつは、性格こそ悪いが、自分の主張はあまり口にしないタイプだ。
勿論、この状況でそれが維持されると思うのは楽観なのだろうが。
「死ぬのは……お前だ!」
四元の手元が朝日を反射してきらめく。
シャーペンだった。
どこかで拾ったものではなく、そもそも持っていたのだろう。
俺達は何ももたずにここに放り出されていたが、制服に入っていたものはその限りではない。
あのマジメぶった四元のことだ。筆記用具一式は持っていたと考えて間違いない。
だが、今そんなことはどうでもいいといえばどうでもいい。
四元が、あのシャーペンを『どう使う』つもりなのか。
分かってしまう自分が嫌だった。
四元はシャーペンを振り上げると五木に飛び掛った。
五木は殺すことしか考えてなかったのだろう。
驚きに目を見開くと急に襲い掛かってきた四元にただ頭の前で腕を交差して体を守ろうとした。
そこへ、四元のシャーペンが突き刺さる。
「うっ! あぁぁぁああ!」
ささったのは、右手首だった。
五木が持っていた包丁が、足元に落ちた。
「いてえ! いてえよ! ふざけんなよ四元! クソッ!」
血の流れ出る手を、止血するでもなくただ押さえる。
ただの高校生がこんな状況でとっさに冷静な判断が出来るわけもない。
焦った五木は、最悪の判断をした。
五木にとって最悪の判断は、裏返せば四元にとっては最高の展開だ。
五木はしゃがみこんで左手で包丁を拾おうとしたのだ。
自分と突き刺した相手の目の前で。
四元がそれを見逃すはずもなかった。
何の躊躇いもなく、それこそいつもどおりの冷静さで、血に染まったシャーペンを力いっぱい振り下ろす。
カッターシャツ程度の代物に、首を保護することなどできるはずもない。
シャーペンは首の裏側に突き刺さった。
「がはっ」
五木の何ともいえない声が漏れる。
包丁を拾おうとしたその腕は、踏み込んできた四元の足に踏みにじられていた。
四元はどこまでも冷静だった。
「ふざけ──グゴッ」
五木が最期の言葉を放つことすら許さず、シャーペンをあらん限りの力で押し込んだ。
肢体は完全に力を失い、砂浜の細かい砂に寝そべった。
四元はシャーペンを五木の喉に残したまま、ゆっくりと直立した。
わずかな静寂が場を支配する。
さっきまでは気にしてなかった波の音が、嫌に大きく聞こえた。
無人島の砂浜に、二つの死体と血まみれの男。
異常。異状。いや、それ以上。
四元は、五木を殺した。
自分が殺されそうになったから?
それとも、五木のように、自分が生き残るため?
分からない。分からないから、怖い。恐ろしい。
逃げないとダメだ。
そう思うが、足は動かない。恐怖からでは、ないと思う。思いたい。
掴んだ二階堂さんの手は、小刻みに震えていた。女子特有のやわらかい肌は、これが普段なら、膨大な動揺を伝えてきたはずだ。
でも今は、動揺する余裕すらなかった。
四元の次の行動が、俺達の運命を決めるかもしれない。
逃げないとダメだ。
二階堂さんに声をかけて、今すぐでも走り出さないといけない。
けれど、口は開かない。
先に口を開いたのは四元だった。
「お前らは……どっちなんだ?」
探るような、声。こちらを試してきているのが分かる。
「どっ、……ち?」
二階堂さんが震える唇で呟く。
「皆が助かれると思ってるか? ……それとも、本当に一人しか助かれないと……」
この言葉から読み取る限り、四元は一人しか助かれないという言葉を信じきっているわけではないようだ。
だから、五木を殺したのもいわゆる正当防衛だったのだ。
落ち着いて話し合えば分かってくれる。
俺はそう信じようとした。
「一人しか助かれないなんて、そんなことあるわけないよ」
刺激しないように、声をかける。
何が刺激になるかなんて、全然分かんないんだけど。
「だよな? あるわけないんだよ……」
四元の声が消え入る。
落ち着いて、くれただろうか。
「こんな状況ッ!」
四元は、落ち着いてなどいなかった。
「こんな状況がッッ!! あるわけないんだよ!」
すっかりその姿を現した太陽の赤い光が、四元の顔を照らし出す。
そこから優等生の色は消え去っていた。
四元は足元の包丁に手を伸ばす。
そこで、俺の脚はどうにか動いてくれた。
「二階堂さん! 走って!!」
「きゃっ」
二階堂さんの手を半ば強引に引っ張り、四元とは反対方向へと走り出す。
危険な森の中には入りたくないが、砂浜では視界がよすぎていつまでも追われてしまう。
一緒に走る二階堂さんが気にはかかるが、あの状態の四元からは少しでも早く離れないと。
「こっち!」
二階堂さんと一緒に、森の中へ入った。
俺が二階堂さんを守らなきゃいけない。
まだ決意といえるようなものじゃなかったけど、もう気持ちは決まっていた。
残り13人
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