2話『法の書』


ステイル「最大主教!」
ローラ「だから、その名前で呼ぶべからず、なのよ」
ステイル「護衛も無くこんなところで。話なら聖ジョージ大聖堂で済むのでは?」
ローラ「年がら年中、あんな古めき聖堂の中になど取り篭らないわ」
「歩みつつも語れるのだし」
ステイル「ま、構いませんが」
ローラ「小さき男なのねステイル。むしろこの私とともに歩める状況を耽楽せんとはできないの?」
ステイル「ローラ=スチュアート、一つだけよろしいですか」
ローラ「堅きことね。何?」
ステイル「あなたはどうしてそこまでバカな喋り方をしてるんのですか」
ローラ「え」
「え」
「は」
「え」
「おかしいの? 本物の日本人にもチェックを入れてもろうたのに!」
ステイル「それは一体誰なんですか?」
ローラ「ツチミカドモトハルの奴なのよ」
ステイル「あんな奴を日本人の基準にしないでください」
「?」
「通信用の護符?」
ローラ『あなたは、法の書の名は知りたるわね?』
ステイル『魔道書の名ですか?』
『著者は確か、エドワード=アレクサンダー。原典はローマ正教のバチカン図書館にあったと……』
『しかしあれは、誰にも解読できないと』
ローラ『10万3000冊を記憶したりける禁書目録でさえね』
『その法の書を解読できる人間が現れんとしたら』
ステイル「何ですって!?」
通行人達「?」
ローラ「しぃー」
『その者は、ローマ正教の修道女でオルソラ=アクィナスと言うさうよ』
ステイル『まさか法の書を勢力争いの道具に……?』
ローラ『大丈夫。少なくとも今のところはね』
『法の書とオルソラ=アクィナス。この二つが一緒に盗まれたそうだから』
「詳しき説明は中で掛け合いましょうか」


~OP~


舞夏「二学期というのは忙しいんだぞー。大覇星祭に一端覧祭、芸術鑑賞祭に社会科見学祭とお祭り尽くしなのだからなー」
スフィンクス「な~」
インデックス「わっスフィンクス大丈夫?」
「でも暇だよ退屈だよつまんないよ! とうまは全然遊んでくれないし!」
スフィンクス「にゃ~」
舞夏「上条当麻にも上条当麻の事情があるんだからー。別に好きで学校に縛られてる訳ではないんだからなー」
インデックス「ん~」
「どうしてまいかは学校に縛られてないの?」
舞夏「ふふ。私は例外なのだよー。メイドさんの研修は実地が基本だからなー」
インデックス「じゃあ私もメイドになる! そして、とうまのクラスに遊びに行くかも!」
舞夏「ん~メイドさんの道は厳しいのだぞー。家庭的スキルゼロの女の子には難しいなー」
インデックス「!」
「じゃあとうまをメイドにする! そして、とうまに遊びに来てもらうかも!」
舞夏「そのセリフは上条当麻には言わないのが優しさだぞ?」
スフィンクス「にゃお~」
インデックス「ん~~~~」
ステイル「うん、そうだね」
インデックス「? !」
舞夏「お」
ステイル「悪いけど、君がメイドになる時間も、奴をメイドにする時間も無いんだ」


当麻「大覇星祭。学園都市全ての学校が参加する大運動会。能力者同士の大規模干渉の観測を目的とするもので、この日限りは能力の全力使用が推奨されている……か」
(わたくし上条当麻はとある事情で記憶喪失になっており、そんな大イベントのことすら全く覚えていないのである)


当麻「さぁ~てと晩飯何にすっかな?」
舞夏「か、かかかか上条当麻ー!」
当麻「?」


舞夏「緊急事態だぞー。銀髪シスターが何者かにさらわれちゃったー」
当麻「あ?」
舞夏「だから誘拐だよ、人攫いー」
当麻「ちょっと待て。どういうことだ?」
舞夏「去り際に誘拐犯がこれをー」
当麻「上条当麻。彼女の命が惜しくば、今夜7時に学園都市の外にある廃劇場『薄明座』跡地まで一人でやってこい」
「そんで、そのバカヤローはどんな感じの奴だった!?」
舞夏「んーまず身長が180cmを越えててなー、髪が真っ赤で右目の下にバーコードが入っててー、くわえタバコで耳にはピアスがいっぱいー」
当麻「あ~大丈夫だぞ舞夏。この犯人は俺やインデックスの知り合いだ」
舞夏「犯人は知り合い!? 動機は歪んだラブなのか!?」
当麻「あ、いや、そういう意味では……」
「?」
舞夏「ぁ」
当麻「外出、許可証?」


ステイル「大体状況は分かってもらえたと思うけど」
インデックス「法の書が何者かに持ち去られ、それを解読できる者、オルソラ=アクィナスもさらわれたってことだよね」
「犯人は天草式十字凄教らしいって」


ステイル「あの厳重なバチカン図書館から、一体どうやって?」
ローラ「ローマ正教は法の書を日本の博物館に移送していたのよ」
ステイル「馬鹿げてる。あんな危険なものを……」
「それで、ローマ正教は我がイギリス清教へ協力を打診してきたって訳ですか」
ローラ「いいえ。それより、不味しことがありけるの」
ステイル「何か?」
ローラ「神裂火織と連絡が取れんのよ」
「神裂は元、天草式のトップ。天草式がローマ正教と敵対していると知ったら」
「神裂が下手を打つ前に、片をつけて欲しいのよ」
「方法は何れでも構わないわ」
ステイル「神裂は世界でも20人と居ない聖人。まさか、その神裂と戦えと……?」
ローラ「場合が場合ならね。あなたは学園都市と接触して頂戴」
「ステイル、これを持ちおいて」
ステイル「? これは」
ローラ「オルソラへのささやかなる贈り物というところかしら」
「禁書目録。専門家の手は必要でしょ?」


ステイル「(煙を吐く)」
インデックス「なんでとうまを巻き込む訳!?」
ステイル「分からないよ。僕だって何であんな奴を……」
インデックス「それで、天草式の本拠地まで行くの?」
ステイル「いや、状況は少し変わってる」
ステイル&インデックス「?」


当麻「くそ~何処にあんだよ。薄明座なんて……」
「学園都市の外は全然分かんねえ」
「はぁ~」
「? シスター、さん?」
「まさか、インデックスの知り合いじゃあるまいな」
オルソラ「あのぉ……」
当麻「! はい、何か?」
オルソラ「学園都市に向かうためにはこのバスに乗ればよいのでございましょうか?」
当麻「学園都市? いや、学園都市行きのバスはねえよ?」
オルソラ「はい?」
当麻「バスだけじゃなくて、外からの交通機関は切断されてんだ。あっちに門があるからそこまで歩いて……」
「あ」
オルソラ「お忙しい中ご助言いただきありがとうございました」
当麻「バスはダメだって言ってんだろ!」
オルソラ「あ、はい。そうでございましたね」
当麻「だから、あっちに歩いて門から入るの。分かったか?」
オルソラ「すいません。ご迷惑をかけてしまって……」
当麻「ぁ、ああ。ん?」
「テメェ! こっちの説明笑顔で全部聞き流してんだろ!」


当麻「はぁー」
オルソラ「何かイライラしているように見えるのでございますね」
当麻「ん、いや別に」
オルソラ「失礼ですが、あなた様はかなりの汗をかいているのでございますよ?」
当麻「さサンキュー! ところでお前、どうして学園都市に行きたいんだ?」
オルソラ「あの、実はわたくし」
当麻「?」
オルソラ「追われているのでございます」
当麻「追われてる?」


アニェーゼ「状況はもうメチャクチャ。情報も錯綜しちまって、法の書を確保したかどうかも……」
「自己紹介が遅れました。ローマ正教のアニェーゼ=サンクティスと申します」
ステイル「なるほど。で、天草式の連中はどんな術式を?」
アニェーゼ「実は、こっちも正確には解析出来ちゃいないんです」
インデックス「天草式の特長は隠密性だよ。天草式はあからさまな呪文や魔法陣を使わない。全ての儀式や術式を、普段の仕草や作法のなかに隠してしまうから、プロの魔術師だって正体は判らないんだよ」
ステイル「ふん、面倒な連中だ」
インデックス「あ、とうまだ!」
アニェーゼ「オルソラ=アクィナス!」




当麻「どういうことだよ! 何で誘拐ごっこなんてやってんだ!」
ステイル「何だ、バレてたのか。いや何、君に行方不明の人間の捜索を手伝ってもらおうとね」
当麻「捜索?」
ステイル「あぁ大丈夫大丈夫。君の隣にいるシスターをこっちに引き渡してくれれば」
当麻「はい?」
ステイル「だからそこのシスターが行方不明の探し人、オルソラ=アクィナスだよ」
「はいお疲れ様。君はもう帰って良いよ」
当麻「あの~この炎天下の中歩き回った私めの立場は?」
ステイル「だからお疲れ様と言っているじゃないか。何だ? かき氷でもおごって欲しいのかい」
当麻「これまではさ、馬が合わないと知りながらも仲良くやっていこうと思ってたんだ。あぁこの瞬間まではな!
ステイル「(煙を吐く)」
当麻「うわっゲホッゲホッ」
ステイル「君はもしかして構って欲しいのか? 生憎僕は、君の寂しさを埋めることは出来ないし、したくもない」
「さっさとオルソラをアニェーゼに引き渡せ」
当麻「そういや誰かに追われてるって言ってたけど」
「どうしたんだ? オルソラ」
建宮「いやいや、そう簡単に引き渡されては困るのよな」
「オルソラ=アクィナス、お前はローマ正教に戻るよりも我ら天草式と共にあったほうが、有意義な暮らしを送ることができるとよ」
アニェーゼ「天草式!」
皆「!!」
オルソラ「はっ!」
当麻「オルソラ!」
インデックス「ダメだよとうま!」
ステイル「我が手には炎。その形は剣。その役は──」
「遅かったみたいだ」
当麻「オイ、ステイル。一から説明する気、あんだろうな?」
ステイル「説明なら、僕のほうが求めたいぐらいだね」


インデックス「法の書って言うのは世界の誰にも解読できない暗号で書かれた魔道書なの。解読すれば、絶大な力を手にすることが出来るといわれているけど」
当麻「あのさ、それってそんな価値があるもんなのか?」
ステイル「もしそれが使われれば、十字教が支配する今の世界が終わりを告げるとまで言われている」
当麻「そんな本燃やしちまえば……」
インデックス「魔道書は燃えない本なの。せいぜい封印するのが精一杯なんだよ」
当麻「?」
アニェーゼ「(息切れ)」
「あ、え~と、状況の説明を始めちまいたいんですけど」
「そ、ちょうぇうわっ!」
当麻「うわっ!」
インデックス「とうま!」
当麻「いってってて。? ん?」
「へ? え?」
アニェーゼ「ふわぁぁぁ!!」
「ちょっとダメやめて! 離れて~!」
当麻「もごもごごごごごごもご!」
インデックス「とうま、それはいたずらとしての限界を超えてるかも!」
ステイル「仕事中に発情するな」
当麻「うがっ!」


アニェーゼ「現状、オルソラ=アクィナスは確実に天草式の手にあります。今回の件に出張ってる天草式の数は、推定で50人弱。今は地上に上がっちまってる可能性も……」
インデックス「つまり、何にも分かんないってことなのかな?」
アニェーゼ「魔力の痕跡から天草式の方向を追っていやすが……」
インデックス「天草式は隠れること、逃げることに特化した集団。簡単には捕まらないよ」
アニェーゼ「でも、うちの包囲網を突破しちまえる方法なんて……」
インデックス「特殊移動法『縮図巡礼』。日本国内限定の術式なんだけどね、簡単に言えば日本中に特殊な渦が47箇所あってその間を自由に行き来できる、地図の魔術」
アニェーゼ「渦を使って飛ばれたらもう終わりだ。何をのんびりしてんですか!」
インデックス「急ぐ必要は無いからだよ。『縮図巡礼』には、星の動きが大きく影響してくるの。決まった時間じゃないと、特殊移動法は使えない」
「特殊移動法の使用制限解除は日付変更直後だから、まだ四時間半ぐらいの余裕はあるよ」
「それから。とうま、地図の出るピコピコ貸して」
当麻「ん、あ、あぁ」
「ほら」
インデックス「この包囲網の中で、使える渦は1箇所だけ。ここだよ」


当麻「さ~てと、何か手伝えることは、と……」
ルチア「だから、あれほど言ったでしょう! しっかり確認しなさいって」
アンジェレネ「はい、すみません」
当麻「なんか、シスターさんも大変なんだな」
「? インデックス用のテントか……」
「あれ、いない」
「ったくどこ行ったんだ?」
アニェーゼ「きゃぁぁぁぁぁぁ!!」
当麻「あれか!」
「チックショー!」
「インデックス!」
アニェーゼ「ひゃぁぁ!」
当麻「天草式」
「ちょ、ちょっと」
アニェーゼ「あれ、あれ」
当麻「何だ、ナメクジじゃねぇか」
アニェーゼ「ナメクジ?」
当麻「お、オイ! しっかりしろよ!」
インデックス「とうま?」
当麻「い、いや、てっきり天草式が攻めてきたのかと思って、その……」
インデックス「(すすり泣き)」
当麻「ちょ、ちょっと落ち着けインデックス」
「こんなのあなたのキャラじゃないですよ。いつものあなたならこうじゃないでしょ? いつもみたいに思い切って──」
「ギャァアアアア!!」


当麻「なぁ、ステイル」
ステイル「何だい? 僕は今とてもイライラしているんだ」
当麻「お前の好きな子誰だよ」
ステイル「ぶわっごほっ!」
当麻「なぁステイル」
ステイル「尊敬する女性はエリザベス一世。好みのタイプは聖女マルタだ」
当麻「天草式十字凄教ってあれだろ。神裂火織が前にいた……」
ステイル「誰から聞いた? 土御門か」
当麻「だったら、天草式ってのは神裂の仲間なんだろ。それでも、やるのか?」
ステイル「やるよ。僕はね、あの子を守るためなら何でもやるって決めているんだ。だから、誰でも殺す。生きたままでも燃やす。死体になっても焼き尽くす」
「ずっと昔に誓ったんだよ。たとえあの子が全てを忘れてしまったとしても、僕は何一つ忘れず、君のために、生きて死ぬと」
「もう寝ろ」


当麻「ステイル、じゃないってことは」
「こ、こらちょっとまてインデックス!」
インデックス「な~に~とうま~?」
当麻「げっアニェーゼ!?」
アニェーゼ「パパぁ」
当麻「パパ?」
インデックス「夢~これは夢~。だからとうまにどれだけ噛み付いても大丈夫。日ごろの不満を思いっきりぶつけても大丈夫!」
当麻「ちょ、ちょっと待てインデックス……。これは紛れも無くリアル──」
「不幸だーーーー!!」


五和「教皇代理。『縮図巡礼』の準備、全て整いました」
建宮「さて。神裂火織、お前に見せてやろうぞ。多角宗教融合型十字教術式、天草式十字凄教の今の姿を!」


~ED~


当麻「渦へと突入する、俺たちとローマ正教。激突の果てに建宮斎字が語った衝撃の事実。そしてオルソラ」
「次回、『天草式』。科学と魔術が交差するとき、物語は始まる──!」




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余談


ローラ=スチュアートが普通に可愛い件←






     
      私。魔法使い。